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幸せな人

(ピンポ~~ン)

少し早い時間にインターホンが鳴った。
注文したもののお届けという事は、手書きのメモで分かっていた。

「おはようございます!ご注文のスポンジをお届けに来ました。朝早くからすみません(*^-^*)」

『ありがとうございます。私、商品は次回の時になるのかと思ってました…』

「あぁ、それだと値段が上がっちゃうから…」

『そうなんですね、だったら昨日一緒にお金を入れておけばよかったですね、すみません』

「いえいえ…」

いつも決まって玄関マットの交換をしてくれる。私はその代金を小さな袋に入れて、ある場所にマグネットで止めておく…この清算方法でずっとやり取りしてきた。

年末という事だったのか、キャンペーンでいつも使う台所スポンジのセットも対象になっていた。購入で寄付になるとも書いてあった。


「えーーっと、これだから…お釣りは、、400円、、」
『。。』
「あっ、500円ですね」
『そうですね(*^^*)』

「もう、すいません。計算弱くて…(笑)」
『電卓は?持ってないですか?』
「持ってます。。ほんと失敗ばかりしてすいません」

以前に間違えたお釣りが入っていて、宅配対応で私が外に出た時と重なり、隣のお宅にいた彼女に声をかけた事があった。

『もう、慣れました?』
「いや、全然(笑)ほんとに…」

この方に担当が変わってからまだ数か月。手際などがどうも今ひとつな感じは何となく分かる・・・。

『でも、明るいのが良いですねぇ(*^^*)』
「いえ、明るくないんですぅ」

とっても明るく否定し、”すいません”を連発する彼女を見ていて、心の中が楽しかった。

⦅これだけこんなに明るく話せるのに、明るくないって、どんな”落ち込み”?をするんだろう…。この明るさが頑張ってやってるようにも見えない。すごく素直なまじめな方…⦆

業務上のやり取りと、互いの名字にまつわる話を少しして、彼女は何度も丁寧に頭を下げて挨拶をして帰った。

「何かあったら言ってください、ほんとに”やって”しまう事ばかりなんで…」

最初の時のお金のミスには、「これは間違えちゃダメでしょう…」と思ったのだけども。「こういう仕事なら電卓だって持っているだろう、なのに」と思っていたのだけども。

彼女の本当に真っ直ぐな感じには、こちらの頭が下がった。

彼女の歩いて行く後ろ姿に、”がんばって、幸あれ”と思いを込めた。

・・・ 

とっても丁寧な彼女の態度には、仕事ができるできないという事より、他の良い部分が滲みだしていた。

マットの交換時に添えてあった、「お届けに明日伺います」という連絡のメモは手書きで。その時、「注文自体がそんなに多くはないにしても、これを手書きでなんかやってたら”終わんない”だろうに…」と正直思った。

だけど、本当に丁寧なことだけは見えてくる。

何時になるか分からないけど、前日からすぐに出せるようにお金をある場所に置いて用意した。しっかりと意を込めておいた。

他者からそんな風に思ってもらえる「あの人」は、仕事はできないかもしれないけども、大分余計な時間を使っているかもしれないけども。

ものすごい幸せな人だと思った。

・・・ ・・・ ・・・

自分が思っている世界と、人(他者)が見ている世界は違うから。

ここにある世界を、仮に私が何か「こんな風」に見ていたとしても。その世界自体がそもそも本当にそうかどうかは分からない事だし、逆に外の世界から見る「あなた」は、”自分”の思うように見られていないかもしれないのよね。

「あなた」が世界をあなたの目線で見るのと同じように、その外の世界にいる「誰か」という人もまた、「その誰か」の目線で世界を見ている。その目線が一致しているとは限らない。

素敵な人って、世の中ほんとうに沢山いるのよ。誰だってそういう部分を持っているから当然なのよね。

これは、こちらがとても心地の良い思いをさせてもらった出来事だった。


”仕事”絡みで少し書くと。

主人が骨折から手術、リハビリを経て職場へ復帰したわけだけども。その初日、社長と話をして言われたとのこと。

「無茶はしないでくれ、だけど、できないヤツと思われないでくれ」

運送業界だけども、取引先に”使えない”と思われれば、その仕事はなくなるわけで。それはこの業界に限った話じゃなく、どこでもよくある話だけども。

心配はしつつ、そして厳しいとも思った。

”思った”だけで、「ごもっともだろうな…」と呑み込んだ。

今でも他のドライバーなどは「大丈夫?もういいの?」と心配してくると言う。主人はその優しさも、そういった気にかけられることも初めてで、十分それを噛みしめている。


少し人の気持ちが分かるようになって、気にされるという事を”やさしさ”と感じるようになって。いやそんな事は、今初めて知ったわけじゃないだろうけども、昨日は診察・リハビリの日で休みを取っていて、けがをした事をきっかけに、そんな事をしみじみと話していた。

主人が病院へ行く前に、”前回先生があぁ言ってたから、薬は出してもらえないだろうと”諦めていた主人。そんな事はないことと、「もらっておいて飲まないという、”いつでも飲める状態”にすること」を言っておいた。心配ならその持ち方が安心できて利口だから。

帰宅した主人は、白い紙袋を手にしていた。

自分の”不安な状態”が、余計にそれを集めることはある。「ある、大丈夫。いつでも頼れる」という、そこがあるから”安心”でいられる。そういう状態を用意するだけで、人は結構「平気じゃん?」が保たれたりする。

その辺のことは当然、先生も分かっていること。

「もう、それは”お守り”と思って持っとけよー」

”この間のあれは何だったんだろうなぁ”。先生は知らないのでなくて、わざととぼけているのだと、主人の持ち帰った話を聞いていて私は思っていた。

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☆うみのみか☆
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