シラノ・ド・ベルジュラック
"私は永く女の優しさを知らなかった。母は私を醜い子だと思ったのです(中略)唯あなたがいられたからこそ、少くとも、女の友達を一人持つ事が出来たのです。"1987年初演の戯曲である本書は実在の人物をモデルにした悲しい恋物語にして、何度も映画化された不朽の名作。
個人的には2022年現在、公開中の『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライト監督によるミュージカル映画『シラノ』鑑賞前の予習として手にとりました。
さて、そんな本書は実在の17世紀のフランスの剣術家、作家、哲学者、理学者、シラノ・ド・ベルジュラック(SF好きとしては、あの『月世界旅行記』の執筆者!と驚き)の人生を下敷きに、エドモン・ロスタンが戯曲として1897年【大きな鼻に悩みながら、1人の女性を胸中で恋い慕い続ける騎士道精神や正義感の強い男の恋物語】としてパリにて初演【蓋明けから500日間、400回を打ちつづけるという大ヒット作】になったもので。物語としては、シラノが密かに好きな従妹ロクサーヌに、あろうことか同僚の美男子クリスチャンとの仲をとりもって欲しいと頼まれ、心中では苦しみながら2人をサポートし続ける。という【典型的な三角関係もの】となのですが。
私が手にした岩波版、辰野隆・鈴木信太郎訳は言い回しこそ現代では些か古臭く感じますが、戯曲としての原作もそうなのでしょうか?喜怒哀楽の【テンポの良さがうまく伝わってきて】頭の中でステージが浮かんでくるような楽しさがありました。
また実在のシラノは戯曲ほど理想的な人物ではなかったようですが、男性読者である私から見て『戯曲でのシラノ』は【あまりにカッコ良すぎて】率直に言って、他の登場人物。ヒロインのロクサーヌ、恋敵にして友人のクリスチャンは引き立て役にしか感じませんでしたが。でもラストに、例えば『シラノがストレートに想いを告白していれば』どうだったのだろうか?とかも考えてしまいましたが。それはそれで『物語』の楽しみ方として野暮かもしれません。
傑作戯曲として脚本とか書いてる方や、ミュージカルや映画の原作としてオススメ。