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日はまた昇る
"『ぼくの人生はまたたくうちにすぎてゆく、しかも自分はほんとの生き方をしていない、考えだすとぼくはたまらん』『ほんとの生き方をやり通すやつなどいるもんか、闘牛士にでもならんかぎり』"1926年発表の本書は、著者初の長編小説にして"失われた世代"を乾いた文体で描いた出世作。
個人的には何となくマッチョなイメージが著者にあって苦手意識があったのですが。ようやく手にとりました。
さて、そんな本書はかってのプリンストン大学のミドルウェイト級ボクシング・チャンピオンにして作家志望のコーン、ぼく"こと戦争で性的不能になったアメリカからフランスに派遣されている記者『語り部』のジェイク、そして、そのジェイクを誰よりも信用しているものの、性的奔放な女性『女主人公』のブレットといった人物たちが紹介された後で、ジェイクと友人たちがスペインに闘牛を見に行き楽しんでいるうちに、いつしか不穏な空気が複雑な人間関係の仲間達間で漂っていくわけですが。
率直に言って、物語全体としてはスケールが大きいわけではなく、またどんでん返しといった展開があるわけでもなくて。有り体に言えばスペインで闘牛を楽しみながら【ひたすら酒をのんでどんちゃん騒ぎをしている】会話だけ。と言っても構わない作品だとも思うのですが。第一次大戦中に青春を過ごしたアメリカの若者たち『ロスト・ジェネレーション』の【何かしらの傷を負い、自堕落な日々を過ごしている】世代にブームを巻き起こし、熱狂的な支持を受けたのは、想像しかできませんが。当時の若者たちにとって【自分たちを代弁してくれような感覚】で読まれたのかな?と思いました。
一方で、内面心理を極度に省略して【カメラ的、映像的な外面描写に徹した文体】は新鮮かつ、また、実際に著者と一緒にスペインを訪れた友人たちがモデルになっているとはいえ、複雑な心理を抱える登場人物たちにリアリティをもたらしているし、特に【闘牛や飲み会の場面描写に関しては圧巻】だと感じました。タイトルが【前向きなイメージに誤解されそう】ですが。実はひたすらに【変わらぬ生活に対するやるせなさ】が乾いて描かれている本書。ハマる人にはハマる気がします。
スペインに旅に出かける予定のある人へ(笑)また、虚無感や喪失感にドップリ浸かってお酒を飲みたい人にもオススメ。