02 2年半ぶりの帰国、ドナー適応検査

仁川空港での入国はとてもスムーズに進み、2年半ぶりに母と再会した。母の車に乗って滞在先のホテルへ向かった。実家にはもう私の部屋はなく事情により長期間滞在は難しく手術のこともあってホテルへ泊まることにした。

翌日はPCR検査のため区の保健所へ向かった。3回目ワクチン接種者は隔離がなくなっていてが翌日にのPCRは必須、検査結果は陰性だった。

手術のための検査は20日水曜日の早朝からで、適応した場合のことを考えてすでに入院日から手術日までの日程が組まれている。そのためにもここから大事なのはコロナにかからないこと、脂肪肝にならないように引き続き食事に気をつけて運動もすることだった。ホテルがソウルの中心部にあって徒歩30分~1時間くらいで色んなところへ行ける、なので歩いて移動することが多かった。コロナにかかったら全てリスケになるから人に会うことを躊躇うこともあったけど、数年ぶりの帰国で手術まで時間もたっぷりあって何人かだけ会うことにした。条件は外で会うこと、食事はなるべく控えてお茶だけにするか換気されるところで食事をするなど。

いよいよ検査当日20日、朝7時過ぎに病院で母と待ち合わせた。受付を済ませて2階にある臓器移植センターへ向かった。そこで何度か電話で連絡を取り合っていた方コーディネーターさんと初対面した。今日の検査までの流れの説明を受けて検査が始まった。検査は朝から午後までかかるようで、順番をおり受けつつ急に電話で呼ばれることもあった。血液検査、尿検査、CT、MRI、X-ray、腹部超音波検査、心電図、精神健康医学検査などを受けた。

(普段は一次検査、二次検査など数日に分けてやることが多いようだったが、日本へ戻るまでの私のスケジュールやおじさんの手術希望日、先生のスケジュールなどを考慮して一日で全ての検査をすることになった。)

朝8時から始った検査はお昼を挟んで午後までかかった。初めて受ける検査もいくつかあってその中でもCT検査は辛かった。まず血管に刺す針が太いのか針を抜いても数日間手が痛かったのと、造影剤が通る際のあの感覚が結構気持ち悪くてできればもう受けたくないくらいだった。(でも残念ながら手術後また数回CT検査を受けた。次回の外来でもまた受ける予定で逃げたくなる…)

全ての検査を受けて結果が出るのを待っていたらおじさんの担当医のユヨンギョン先生が現れ「検査結果よかったですよ」と、笑顔でその一言だけ残して急いで去って行った。コーディネーターさん曰く、忙しい中わざわざ知らせに来てくださっとようだと。そして脂肪肝だとリスケだと聞いていてなんとか一安心。その後医療社会福祉士の方との面談をし「KONOS」(国立臓器組織血液管理園/국립장기조직혈액관리원)に登録を行った。韓国はKONOSの承認がないと手術はできないそうだ。

社会福祉士さんと個人面談になりそこで初めて
「なぜドナーになることを決意したんですか?」と質問された。

あれ?さっき書類に書いたんだけど読んでないのかなと思い書いた内容をそのまま答えた。

「おじさんだから、家族だから…」

すると
「みなさん意外とそのように家族だから当たり前だと答える方が多いんですよ。でもそれ以前に臓器提供ををすることになったきっかけみたいなものが必ずあるはずです。よく考えてみてください。」

なるほど…きっかけか、あったかな…

そういえばあると言えばある。それは確か日本へ来て初めての一人暮らし、自分で保険料を納めることになったある日、保険証を受け取って裏面を確認したところ臓器提供に関することが色々書いてあった。今まで生きてきて全く考えたこともないことで映画やドラマの世界の話に近いと思うくらい無知で、もしかしたら経験すらできないだろうと思っていたことだった。それなのに保険証で意思確認ができることでかなり驚いた。そして私ももしかしたらできるのかもしれないと漠然と考えていたが外国人だし今ここに表明したところでどうなるかもわからず、その時はそのまま財布の中に閉まっていた。そこから十数年後の今、臓器提供をする、肝移植の生体ドナーになると自分の意志で名乗ることになる。

20代前半にたまたま目にした保険証がきっかけでなんとなく意識していただけだったのに…不思議だった。どう考えてもそれ以外思い出せなかった。そして誰がなんと言おうと私に取っては大切なおじさんで、でも聖職者で独り身でである。兄弟は多いもののおじさんは末っ子でみんな60歳を超えてる。おじさんはとても辛かったと思う。助けを求めても応えてくれる人が自分より年上の兄弟だけで…しかもとても繊細な問題でドナーを希望するしないで意見が分かれたり色々トラブルがあるようだった。そこで私は手を上げた。怖いことなど全くなく一ミリも迷わず自分の意志で決めたことだった。血液型も同じでぎりぎり30代で、4年前にダイエットしてから体脂肪率や体重など日々気にしていて、臓器提供を決めた日から再度食事を見直して禁酒もした。そもそも体に良いとされているサプリなどもいっさい飲んでなく肝臓に悪そうな健康食品なども口にしていない。脂肪肝さえなく肝臓のサイズだけ合えばきっと大丈夫だと信じていた。

社会福祉士さんとコーディネーターさんに臓器移植の話や意思確認、その他諸々説明を受けて入院前の手続きを終えて病院を出た。

手術は5月10日、入院は2日前の8日、それまでの約3週間はホテル暮らしだ。

長い道のりの始まりだ。

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