自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験 令和5年度東京大学学部入学式祝辞
令和5年度東京大学学部入学式祝辞
グローバルファンド 保健システム及びパンデミック対策部長 馬渕俊介氏
私自身が尊敬する人々の共通点は、それぞれが頑固たる自分の物語を持っていて、それらは大抵、自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験によって築かれている点。
自然界における畏怖、この地球に同じ時代に生きる伝統文化、全く別世界の人々の暮らし。デジタル化がどんどん進む現代の生活では、自分の考えを覆す情報はいっさい遮断して、意識的にも無意識的にも、自分の「固定概念」を強化する情報にだけ囲まれて暮らすことが容易になっているけれど、自分の考えを根底から覆す何かに出会った人は、その後、自分の物語を築き上げるのに夢中になれる気がする。
そんなことを思った、令和5年度東京大学学部入学式祝辞だった。
「めちゃくちゃ格好いい」儀礼との出会い。でも、その衝撃な儀礼を行う場所で見た、子どもたちやお母さんの持つ病気や栄養失調。
そして、あらゆる旅行、学問、業界の経験を組み合わせて、課題解決に挑むこと。ワークライフバランスではなく、あらゆる経験を自分の中で越境させること。
「問いが盛んな場所へ」でも書いたけれど、創造性に富んだ人々ほど、創造的な好奇心を保つため、自分に適切な刺激を与え続けることを心がけている。
私自身、仕事で、大学生に出会う機会がよくある。それは、インド人の学生たちでもあり、日本人の学生たちも多い。日本人の学生たちを見ていて思うのは、みんな、それぞれ「著名な大学」に在籍しているのだけれど、どこか、自分にとっての「最適解」を最短距離で探そうとしている気がする。今回の東大の祝辞を聞いて、当の本人たち(東大入学者)がそれぞれどう考えて、どういう道を歩もうと考えたのかは、本人たちに聞かないとわからないけれど、大事だなと思うのは、
人の話を聞いて、行動を起こすときの行動力よりも、
結局、自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験、実体験を通して得られる行動力のほうが、自分も驚くほど凄まじく、持続可能なこと。
そして、どんな分野でも、最初に基礎知識(疑問の余地がないことがはっきりしている土台となる知識)を身につけてからでないと、自分で探求や洞察を深めることはできないということ。誰かの話を聞いて、行動を起こす、それはそれでスゴイのだけれど、それ自体が、他人の物語を生きている気がして否めない、面倒な考え方をする自分・・・笑
それが、外交に関わりながら、読書と旅を続ける自分が思うことでもある。
ちなみに、こちらのカバー写真は、Museum of Goa インドのゴアにあるミュージアム。