護衛艦のドローン撮影事案を受けて再掲します。>これが米軍のセルフ・チェックだ

原子力規制委員会は2023年12月27日、テロ対策の不備を理由に出されていた柏崎刈羽原発への運転禁止命令を2年8カ月ぶりに解除、原発は再稼働に向けて動き出した。しかし、原子力規制委員会の委員が「異議なし」と唱えるニュースを前に、私は違和感を禁じ得なかった。

私は東京電力の中央コンピュータセンターなどのセキュリティを担当したことがあり、その関係で2003年12月、柏崎刈羽原発のフィジカル面の防護態勢をチェックしたことがあるからだ。

原発を攻撃する特殊部隊の立場で見ていくと、容易に乗っ取ることができるのは一目瞭然だった。見学者のために中央制御室の外側に掲示された勤務中の運転員の顔写真付き個人情報などは、なりすましの材料をフルに提供するに等しく、その場で撤去を促した。その後、同様の問題を内包した日本の原発の危機管理について副社長ら最高幹部の研究会でも指摘したのだが、その甲斐なく、福島第一原発事故を経ても緊張感に欠ける危機管理は改善されず、他人のIDカードの不正使用などが横行することになった。

言うまでもなく、国際水準を満たしていない危機管理(防衛態勢も)不合格どころか零点である。その基準でいえば柏崎刈羽原発のテロ対策については、もっと厳しいチェックが必要と言わざるをえない。「改善がみられる」とした原子力規制委員会の委員の誰が国際水準のテロ対策に知見があるというのだろうか。

安全保障と危機管理の専門家の一員として、私は日本の国防と危機管理に危機感を抱いている。形式を整えただけで合格とし、敵の立場で奇襲的にチェックするレッドチーミングが皆無に等しいからだ。関係者のメンツがつぶれることなどを忖度する風潮が横行する結果だが、それでは張り子のトラの状態を脱することはできない。本稿では参考までに米軍のレッドチーミングの一端を紹介しておきたい。実行部隊は米海軍特殊部隊SEALsのチーム6。レッドセル(赤色細胞)の別名を持つ対テロ部隊である。

運用開始後初の演習をは1981年1月。テロリストに盗まれた核兵器を奪い返すシナリオで、プエルトリコの11キロ東のヴィエケス島に隊員56人を派遣。夜間に航空機から高高度降下・高高度開傘(HAHO)で目標まで16キロを音もなく滑空、急襲に成功した。

チーム6は1985年6月、コネチカット州ニューロンドンの弾道ミサイル原潜基地への侵入にも成功した。隊員たちは点検整備を行うジェネラルダイナミクス(GD)の社員が集まる酒場に行き、海軍の軍人やGDの男女社員のカバンと財布から身分証明書、車両認識票などを抜き取った。そして翌朝早く身分証明書などを使って弾道ミサイル原潜の内部に入り込み、発令所、原子炉区画、魚雷室に模擬爆薬を仕掛けた。

1985年9月には、カリフォルニア州ポイント・マグー海軍航空基地にレーガン大統領が大統領専用機エアフォースワンでやってきたときを選んでチェックが行われた。このときも基地に脅迫電話をかけ、警戒レベルを高めておいて、なりすましによって入り込むのに成功した。2人の下士官が模擬爆薬を積んだ兵器運搬車を大統領専用機の近くに移動し、運転席に発煙手榴弾を仕掛け、基地のSWAT(銃器対策部隊)のトラックにも模擬爆薬を仕掛けることに成功、大統領専用機は吹き飛び、SWATも10人死亡、10人負傷と判定された。

チーム6の存在が明らかになったのは、創設者で初代隊長のリチャード・マルシンコ元中佐が上層部に疎まれて干されたあと、軍を辞めて回想録『無法戦士』を出版、ベストセラーになったのがきっかけである。私は2度、日本の重要インフラ防護の仕事でマルシンコと話し合ったことがあるが、部隊の詳細が暴露されたことに慌てた米海軍当局は、チーム6をDEVGRU(デブグルー、特殊戦開発群)というありふれた名前に変え、組織図のなかに埋没させることになったという。

チーム6は偽名を用い、変装して移動し、武器を持ち込み、目標を偵察する。ホームセンターで買うか海軍基地から盗んだ材料で爆発物をこしらえる。準備が整うと、基地に脅迫電話をかけ、警戒態勢を高めてから、その裏をかいて襲撃する。テロリストが使う「なりすまし」のテクニックによって警備をかいくぐり、爆薬を仕掛ける。マルシンコとチーム6はことごとく成功したが、これが米軍の常在戦場の姿である。原発のテロ対策はもとより、わが自衛隊も大いに参考にしてもらいたいものだ。

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