『誰が安倍晋三を殺したか』(第1章 暗殺②キーマンはカサイとスギタ)
キーマンはカサイとスギタ
第一次安倍政権が発足する2年前の2004年4月9日、私はのちに安倍氏が暗殺される遠因となる人間関係を目の当たりにする。当人たちは自らの野心だけでなく、本心から安倍氏を首相の座に押し上げ、可能なら長期政権を担わせてやりたいと思っていた。それは間違いない。それが暗殺という形で裏目に出るとは思いだにしなかっただろう。
私が会ったのはJR東海の葛西敬之社長と同社顧問の杉田和博氏。葛西氏とは1991年にトップ経済人の勉強会に講師で呼ばれたときに知り合った。杉田氏は内閣情報調査室長、内閣危機管理監、内閣情報官と日本の官僚機構の頂点を歩いた警察官僚。私とは情報収集衛星の導入を決めて以来の関係である。
このとき私は葛西氏に、サイバーセキュリティの調査で訪れたアメリカ政府エネルギー省のサンディア研究所で見せられた爆発物検知装置を新幹線に導入すべきだと提案した。ニューメキシコ州アルバカーキにあるサンディア研究所は、ロス・アラモス、ローレンス・リバモアの両研究所と並んでアメリカの核兵器開発を担ってきたが、同時に電力、通信など重要インフラのセキュリティを手がけている。
サンディアで私が案内された装置は、空港の金属探知機と同じゲート状のものだったが、入ると何カ所からか圧搾空気が吹き付けられ、ポケットに入れていたプロポリスののど飴が引っかかった。その粒子が爆発物の成分に似ていることで反応したのだという。
葛西氏は私の説明を聞くと、飛行機並みの検査では効率が悪いといった。新幹線の売りは3分おきにのぞみを走らせる世界最高の効率だ。爆発物を持ちこむにしても、せいぜい重さは20キロくらいだろう。それが爆発したとしても、死傷者は爆発車両と前後1両ずつで最大300人ほど。脱線転覆はしないから、あとの1000人は助かる。冷ややかな返事だった。葛西氏はクールな人柄で知られている。冷徹なビジネスマンらしいと私は思った。
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