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【本日(2月1日)の配信号です】◎『誰が安倍晋三を殺したか』(第5章 自衛隊は戦えるか③)

イージス艦の事故は交通事故じゃない

このヒアリングで、私は海上自衛隊の将来像が変わるような指摘と提言を行った。艦艇の乗員の半数を女性隊員にするよう求めたのである。

私がそのように考えたきっかけは、2008年2月に起きたイージス艦あたごと漁船の衝突事故だった。

アメリカでの艦対空ミサイル発射訓練から横須賀へ向かっていた護衛艦あたごは千葉県野島崎沖の海上で漁船清徳丸に衝突、乗組員2人が死亡した。

海上交通の難所での事故とあって、海難審判ではあたご側に、刑事裁判では清徳丸側にそれぞれ回避義務があったと判断が分かれた。刑事裁判は、第一審・第二審ともにあたご側に無罪判決が下り、検察側が上告しなかったことから2013年6月26日付をもって判決が確定した。

私は、海上の交通事故を裁く海難審判の結果とは関係なく、自衛隊という軍事組織としてはイージス艦あたごに100%問題があったという認識でなければダメだ、と強調した。

衝突したのが漁船でなく、自爆攻撃をしようとする爆薬を積んだテロリストのボートであれば、イージス艦は海の藻屑と消え、多くの乗員が犠牲になったはずだ。漁船すら見つけることができずに正面衝突するようでは、狙いすまして突っ込んでくるテロリストの高速艇を避けることはできないだろう。

当然ながら、この事故の背景には練度の問題がある。そして、その背景にはさらに海上自衛隊が抱える組織上の問題がある。その問題を社会学的に捉え正面から斬り込まなければ、同様の事故は繰り返されると思わなければならない。

この時期、若い勤め人が9時から5時の定時勤務を求める傾向が強まり、従来の働き方に変化が生じ始めていた。

自衛隊も例外ではなく、いくら自衛隊が24時間勤務といっても、特に定時勤務が期待できない艦艇勤務を忌避する傾向は否めなかった。異動を命じると躊躇なく退職してしまう。その結果、有難い存在である現在の艦艇勤務者を甘やかすことになった。

訓練も型どおりとなり、厳しさが影を潜める。多少の規律違反には目をつぶる。それが問題なのだと、あたごの衝突事件の背景にある危機的要因として、私は厳しく指摘した。

練度の問題ばかりではない。規律違反も重大事故を引き起こしている。

2007年12月14日には、横須賀に停泊していた第1護衛隊群の旗艦しらねが火災事故を起こし、戦闘指揮システムの中枢であるCIC(Combat Information Center=戦闘情報室)が8時間も燃え続け、修理費200〜300億円が見積もられるほどの大損害を出した(結果的に、護衛艦はるなのCICを50億円かけて移設)。

しらねは観艦式で首相が座乗するほど由緒ある護衛艦だ。原因は、隊員が持ち込んだ缶コーヒーを温めたり冷やしたりする中国製の家電製品で、当時、「中国の陰謀ではないか」という笑えない冗談が出たりしたが、冗談で済まないのは、洋上の戦闘中に同じような事故が起きれば、しらね1隻が戦闘不能になるどころか、第1護衛隊群の8隻が全滅するかもしれない深刻な事態だったからだ。無断持ち込みは規則違反で、隊員を甘やかし、持ち込みを見逃した結果の事件だった。

私は2005年に発覚した潜水艦乗員の薬物汚染という規律違反にも触れた。

護衛艦を動かすのは女性自衛官

私がヒアリングで強調したのは、海上自衛隊の隊員不足は、内部のやりくりだけでは解決できず、広く国民に訴える必要があるのではないか、ということだった。

「国民のみなさん。海上自衛隊に入ったあなた方の子弟には、海上勤務が辛く、すぐに辞めてしまう隊員が少なからずいます。これでは、わが日本海軍は戦うことができません」と訴えなければならない。そうすれば、自分が行くという若者や、息子を送り出すという親も出てくるかもしれない。私は、問題を自衛隊内部だけで密かに処理しようとするのはやめよう、と問題提起した。

いまのように艦艇の乗員の員数あわせをしているだけで海上自衛隊は戦えるのか。私は艦艇勤務に女性隊員を起用するよう求めた。

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