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【本日(31日)の配信号です】◎『誰が安倍晋三を殺したか』(第5章 自衛隊は戦えるか②)
ネット上に流出した重大情報
私は続けた。そんなことだから、2006年の情報流出事件のあと、海上自衛隊は1年以上にわたって無防備な状態に置かれたのだ。無防備と言われても出席者の誰もが理解できなかった様子で、互いに顔を寄せてささやき合っていた。
わからないだろう、だから無防備状態が放置されたのだよ、と私は心の中で呟いた。
海上自衛隊の130隻の艦艇は敵のパソコン1台で指揮通信系統を混乱させられる有り様だったのを、当の海上自衛隊も自覚していないとは、困ったものだと思った。
私が取り上げたのは2006年2月に発覚したファイル交換ソフト・ウイニーを介した事件で、護衛艦あさゆきの通信室勤務の海曹長のパソコンの中身がネット上にさらされた一件である。
それをキャッチしたのは毎日新聞大阪本社のサイバー取材班で、大阪から横浜の私の自宅までやってきてパソコンにダウンロードされた情報の真贋を確認するよう求めた。流出情報はフロッピーディスクで290枚分。ネット上に出ている情報は紛れもなく海上自衛隊内部のものだった。深刻だったのは、同盟国アメリカにとって望ましくない情報がかなり流出したこと、いま一つは、自衛隊の能力や手の内が明かされてしまったことだった。
たとえば北朝鮮による核実験の後、読売新聞が日本海における海上自衛隊の船舶検査の担当区域について地図まで入れた詳しい記事を一面トップのスクープ扱い報じたが、その船舶検査に関する情報も、すでにこの事件でネット上に流出していたのだ。
そればかりか、海上自衛隊が敵国の潜水艦をどのくらいの距離で探知でき、どのように追跡、攻撃するかという訓練資料まで流出していた。
さらに危機的だったのは、海曹長本人を含む護衛艦の乗員の個人情報が流出したことだった。氏名、生年月日、顔写真、学歴、職歴、家族の情報、宗教など詳細にわたっていたが、なかでも最大の問題は、隊員固有の認識番号が流出してしまったことだ。
同時に、海上自衛隊の130隻の艦船の電話やファクス、自衛隊専用回線の番号なども出てしまった。これだけの情報があれば、「なりすまし」で海上自衛隊に浸透したり、攻めたりする条件が整ったことになる。非常に危険な状態だった。
私は若いころから親しい関係にある統合幕僚会議議長の先崎一氏と飯島勲首相秘書官に連絡し、手を打つよう求めた。海上自衛隊という船が魚雷を食らったようなもので、大至急、穴を塞いで浸水を止めるためのダメージコントロール(被害局限)をしなければ、日本の国防にとって取り返しのつかない被害が生じるかもしれなかった。
流出した情報は当時の秘密区分の機密、極秘、秘の三段階でいうと、秘に当たるものが最も秘密の度合いが高い程度で、海上自衛隊上層部は「大した秘密ではない」とたかを括っていた。
先崎統幕議長に連絡した夜、海上幕僚監部で広報などを担当する監理部長の河野克俊氏が私の自宅に電話をしてきて、「大した秘密はありませんから大丈夫でございます」と言った。
私は海将補を叱責するのは気の毒だと思ったが厳しく言い渡した。
「それは記者クラブ向けの発言だぞ。漏洩情報はオレのところに持ちこまれ、俺から統幕議長に連絡したんだよ。護衛艦が敵の潜水艦をどのくらいの距離で発見し、どのくらいの速力で追尾し、どの兵器で攻撃したか書かれた訓練資料のどこが、たいした秘密じゃないというんだ」
河野氏はのちに統合幕僚長として3回も定年延長し、安倍政権を防衛面で支えた。私は河野氏の有能さを評価していたが、平時に首相を補佐するには適任であっても、有事型ではないと思った。
『海上自衛隊攻略ハンドブック』
とにかく、流出した情報は外国情報機関の立場で見ると海上自衛隊のすべてがわかる詳細なもので、『海上自衛隊攻略ハンドブック』が書けるほどのものだった。自衛隊側の秘密区分に関係なく、流出した情報は自衛隊を攻める側にとって「宝の山」だったのだ。
私は、この情報の取り方はプロの手口と見ておくべきだと思った。情報を流出させたのは護衛艦の通信室にいる海曹長(通信員)だったが、背後にどこかの国の情報機関が存在するなど、何らかの背後関係が疑われたからだ。
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