◎極超音速ミサイルへの視点

北朝鮮は4月2日、極超音速で滑空する弾頭(HGV)を装着した新型の固体燃料式の中距離弾道ミサイル「火星16型」の初めての発射実験に成功し、1000キロを飛翔したと発表した。防衛省は600キロ、韓国は650キロとの見解を示している。

これを受けて、6日のNHKサタデーウォッチ9と、9日の読売新聞などは「探知や迎撃が困難」と報じ、国民は不安を掻き立てられることになった。

一方、小野寺五典元防衛大臣は7日、Xに「北朝鮮が4/2に発射し『実験成功』と主張する極超音速ミサイルの性能分析のため、自民党安全保障調査会を開催。性能を確かめると共に、ウクライナで使用された同型のロシア製ツィルコンが、日本も保有するPAC3に迎撃された状況を確認。日本の備えについて議論しました」と投稿、冷静な姿勢を示した。

小野寺氏の認識が正しいことは、ウクライナ戦争でロシアのHGVツィルコン(ジルコンの意)2発が3月25日、パトリオット地対空ミサイルによって撃墜された現実を見れば明らかだ。速度マッハ9、射程1000キロで主に艦艇から発射されるツィルコンは、ウェーブライダー型という平べったい楔形の弾頭が特徴で、高度50キロ前後の大気圏内の空気の層の上を、水切り石のように飛び、その変則的な軌道から迎撃が難しいとされている。2日に発射された北朝鮮のHGVもツィルコンや中国のDF-17と同じウェーブライダー型とみられる。ウクライナがツィルコンを撃墜したということは、パトリオットPAC3を持つ日本も北朝鮮のHGVに対処処可能ということだ。小野寺氏が指摘したのはこの点である。

実を言えば、ウクライナは昨年5月に、対処不能とされたロシアの極超音速ミサイル・キンジャール(短剣の意)を7発(5月4日に1発、15日に6発)、同12月に1発、今年3月に2発、やはりパトリオットによって撃破している。キンジャールは速度マッハ10の航空機発射型。射程は母機の戦闘行動半径を加えた2000キロ〜3000キロに達する。地上発射型はイスカンデルで、これを改良したKN-23を北朝鮮は続々と配備している。

ウクライナがキンジャールを撃破したとき、世界の軍事関係者は呪縛を解かれたような感覚を味わうことになった。

キンジャールもツィルコンも、極超音速ミサイルは大気圏内の空気抵抗を利用して変則軌道をマッハ5以上で飛ぶ。速度はともかく、変則軌道が迎撃困難とされた理由だった。しかし、変則軌道によって迎撃ミサイルをかわすことができるとしても、目標に突入する前は直線上を飛ぶことになる。ウクライナ軍はぎりぎりまで待って、パトリオットを発射し、命中させた。コロンブスの卵のように、考えればわかることだったのである。

あとは、多数の小型人工衛星を低軌道上に展開する衛星コンステレーションによって精密な捕捉と追尾を可能にし、短い対処時間をカバーするために極超音速の迎撃ミサイルを備えて抑止効果を高める段階に入るだけだ。空騒ぎしない冷静な議論が日本の安全を高めることを忘れてはならない。




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