ガロア理論 of 分離的とは限らない有限次正規拡大(スタブ)
スタブというかほぼ供養ですかね。どうもこんにちは、ずんだもん博士です。みなさんはガロア理論というのをご存じでしょうか?僕は最近毎日5分以上はガロア理論のことを考えています。これはマジに近いです。
僕は動画投稿デビューをガロア理論の初歩から始めようと思って、実際その動画シリーズを作って完結したのですが、これを作ってるときに思いました。
分離拡大って条件ジャマすぎね?
ということで、幾何系プロパーな僕が考えていた「分離拡大」を外したガロア理論を考えてみました。なおタイトルから分かる通りほとんどの高校生には全く分からない内容な上、未完ですので、「あっそういうのは良いです…」って方はご遠慮なくご随意に…。もしよろしければ僕のYouTubeチャンネルかニコニコ動画でガロア理論を解説しているので是非是非🙏
なおこの記事において、体と言えば可換であるとします。また分離的でないものを考えたいので(当然)標数は0とは限らないです。
普通のガロア理論
体拡大$${E/K}$$がガロア拡大と呼ばれるのは、以下の同値な条件のどれかを満たす時を言うのでした:
$${{\rm Aut}(E)}$$の有限部分群$${G}$$が存在して、$${E^G=K}$$
$${E/K}$$が有限次拡大かつ、$${E^{{\rm Aut}_K(E)}=E}$$
$${[E:K]=\#{\rm Aut}_K(E)}$$
$${E/K}$$は有限次かつ正規かつ分離拡大
$${E}$$は$${K}$$上のある分離多項式の最小分解体である
上の条件のうち1,2,3はセットで互いに同値なことが示せて、アルティン流の軽やかなガロア拡大の定義だなぁと思います。今回はこの同値な1,2,3のどれかを満たす体拡大$${E/K}$$をガロア拡大と呼びましょう。そして$${E/K}$$がガロア拡大のとき、その中間体とガロア群$${{\rm Gal}(E/K):={\rm Aut}_K(E)}$$の部分群の間に自然な一対一対応があるというガロア理論の基本定理が成り立つのでした。
一方でガロア理論の気持ちとしては4,5の感覚が重要だと思います。どちらかというとガロア理論の起源は5番の条件が近いんじゃないんですかねぇ(僕の感想)。実際、方程式の可解性をガロア理論で語る時は、4,5番の条件に触れざるを得ません。4番の条件から分離性を取り除いたときに、ガロア拡大(1,2,3番)や5番の条件がどう変わるかを見据えておくことは、理論の意義ある拡張を促すはずでしょう(お気持ち)。
ガロア拡大⇒有限次かつ正規かつ分離
ガロア拡大の5命題の同値性を確認するとき、通常は「ガロア拡大⇒4⇒5⇒ガロア拡大」という三すくみの含意を示します。今回僕の興味としては「条件4から分離拡大という条件を消してみたい」なので、条件4まわりの含意について、証明をざっくりおさらいしましょう。
$${E/K}$$をガロア拡大とし、$${G:={\rm Gal}(E/K)={\rm Aut}_K(E)}$$をそのガロア群とします。$${E/K}$$が有限次なのは、2番の条件に含まれています。
正規かつ分離であることは一気に確認しましょう。$${\alpha \in E}$$として、その最小多項式を$${f(X) \in K[X]}$$とします。このとき
$$
\begin{align*}
S:=\{\sigma(\alpha)\mid\sigma\in G\}\subset E
\end{align*}
$$
とおくと、$${\# S = {\rm deg}(f(X))}$$が分かれば正規かつ分離であることが分かります。実際、任意の$${\sigma(\alpha) \in S}$$について
$$
\begin{align*}
f(\sigma(\alpha))=\sigma(f(\alpha))=\sigma(0)=0
\end{align*}
$$
であるから、$${S\subset E}$$は実は$${f(X)}$$の根全体の部分集合なのです。一方で多項式の根の個数はその次数を超えないので、$${\#S={\rm deg}(f(X))}$$が示されれば、「$${f(X)}$$のすべての根が$${S\subset E}$$に重複なく含まれていること」が分かるのです。従って、$${f(X)}$$の根がすべて$${E}$$に含まれ、しかも分離多項式であることが従うわけです。
というわけで$${S}$$の元の個数を数えてみましょう。全射$${\varphi:G\rightarrow S;\sigma\mapsto\sigma(\alpha)}$$を考えてみると、
$$
\begin{align*}
\varphi(\sigma)=\varphi(\tau) & \iff \sigma(\alpha)=\tau(\alpha)\\
& \iff \tau^{-1}\sigma(\alpha)=\alpha\\
& \iff \tau^{-1}\sigma \in {\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)\\
& \iff [\sigma]=[\tau] \in G/{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)
\end{align*}
$$
となります。このことから自然な全単射
$$
\begin{align*}
\overline{\varphi}: G/{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)\rightarrow S;[\sigma]\mapsto\sigma(\alpha)
\end{align*}
$$
を作ることが出来ます。従って
因数定理→全単射$${\overline{\varphi}}$$→ガロア理論の基本定理(拡大次数に関する)→$${\alpha}$$を添加した体の拡大次数が最小多項式の次数に一致すること
の順で(不)等号を繋いでいけば
$$
\begin{align*}
{\rm deg}(f(X)) \geq \#S = \#(G/{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)) = [K(\alpha): K]={\rm deg}(f(X))
\end{align*}
$$
となり、$${\#S={\rm deg}(f(X))}$$が分かりました。
観察
分離的であることを正規性と一緒くたに証明してしまったので分かりづらいのでちょっと考察をいれましょう。結果として$${\#S={\rm deg}(f(X))}$$となったのですが、このことから$${\alpha}$$の最小多項式は
$$
\begin{align*}
f(X)=\prod_{\beta \in S} (X-\beta)
\end{align*}
$$
と書けることが分かります。もし$${\alpha}$$が分離的でないとしたらこれが
$$
\begin{align*}
f(X)=\prod_{\beta \in S} (X-\beta)^{m(\beta)}
\end{align*}
$$
(ただし$${m(\beta)>0}$$は整数)のように分解するはず…つまり本当に分離的でない場合は$${\#S < {\rm deg}(f(X))}$$であるはずです。ここでもし無理矢理に$${\#S={\rm deg}(f(X))}$$を成り立たせようとした場合、正しくは
$$
\begin{align*}
\sum_{\beta \in S} m(\beta) = {\rm deg}(f(X))
\end{align*}
$$
という式に置き換わるでしょう。ここが僕が注目したポイントです。
簡単な例
$${K=\mathbb{F}_2(t)}$$とし、$${E}$$を既約多項式$${X^2-t\in K[X]}$$の最小分解体としましょう。これは有名な純非分離拡大の例です。
これに対して$${{{\rm Aut}_K(E)}=\{{\rm id}_K\}}$$はすぐに分かると思います($${-1=1}$$がめっちゃ効く)。この自己同型群で$${E}$$の元を$${\alpha:=a\sqrt{t}+b}$$を流して$${X-\alpha}$$を全部かけたところで、$${X-\alpha}$$にしかならないです。ところが実際の$${\alpha\in E-K}$$の最小多項式は
$$
\begin{align*}
(X-(a\sqrt{t}+b))^2=X^2+a^2t+b^2\in K[X]
\end{align*}
$$
になるはずです。何が言いたいかと言うと、自己同型群が小さすぎて$${{\prod_{\beta\in S}(X-\beta)}}$$とするとべき乗が足りず、最小多項式にならない。であれば重みをつけてやって
$$
\begin{align*}
(X-(a\sqrt{t}+b))^{m(a\sqrt{t}+b)}=(X-(a\sqrt{t}+b))^2=X^2+a^2t+b^2\in K[X]
\end{align*}
$$
とすればいつも最小多項式になるんじゃないか?と言いたいわけです。
僕がやりたい事
まずは愚直に次のように拡大体の元の重みあるいは重複度を定義します:
重複度
$${E/K}$$を分離的とは限らない有限次正規拡大、$${\alpha\in E}$$を任意の元、$${f(X)\in K[X]}$$をその最小多項式とするとき、$${\alpha}$$の重複度$${m(\alpha)\in\mathbb{Z}_{> 0}}$$を以下を満たすようにとる:
$$
\begin{align*}
f(X)=(X-\alpha)^{m(\alpha)}g(X),\; \text{ ただし$g(X)$は$X-\alpha$で割り切れない}
\end{align*}
$$
もし$${K}$$の標数$${p={\rm char}(K)}$$が0だとすると、すべての既約多項式は分離多項式であるのですが、そうでない場合、ありうる$${m(\beta)}$$は、実は標数$${p={\rm char}(K)}$$の冪であることが分かります。これは次の事実に依ります:
補題:$${f(X)\in K[X]}$$を既約多項式に対して、ある分離既約多項式$${g(X)\in K[X]}$$と、$${n\in\mathbb{Z}_{\geq 0}}$$が存在して、$${f(X)=g(X^{p^n})}$$を満たす。
従って任意の$${\alpha\in E}$$に対して、重複度$${m(\alpha)}$$は$${m(\alpha)=p^n}$$と書くことが出来ます。しかも$${\sigma\in{\rm Aut}_K(E)}$$に対して$${\sigma(\alpha)}$$の重複度も$${p^n}$$をもつことがわかります。つまり$${\alpha\in E}$$の共役的なものは全部重複度が同じで、標数の冪であることが分かります。
上手く行きそう!
であれば、$${m(\alpha)=p^n}$$の最大値を取って、
$$
\begin{align*}
G^+:={\rm Aut}_K(E) \times \mathbb{Z}_{p^n}
\end{align*}
$$
とおけば、とりあえず嵩増しできたじゃんと!$${m(\alpha)}$$の最大値が存在することは、一旦仮定しておきます。ここだけの用語で、このような性質を満たす拡大を重複度有限拡大と呼ぶ事にします。すると$${S=\{\sigma(\alpha)\mid\sigma\in{\rm Aut}_K(E)\}}$$も水増ししてやって、
$$
\begin{align*}
S^+:=\{(\beta, j)\in S \times \mathbb{Z}_{p^n}\mid jm(\beta)\equiv0\text{ mod }p^n\}
\end{align*}
$$
これは要するに、元$${\beta\in S}$$を、群$${\mathbb{Z}_{p^n}}$$の中の位数$${m(\beta)}$$の部分群で安直に水増しした集合です。すると、通常のガロア理論のように
$$
\begin{align*}
\psi:G^+\rightarrow S^+; (\sigma, i)\mapsto \left(\sigma(\alpha), \frac{ip^n}{m(\alpha)}\right)
\end{align*}
$$
という写像を作れば、考え方として明らかに全射であり、単射にならない度合いは
$$
\begin{align*}
\psi(\sigma, i)=\psi(\tau, j)&\iff \sigma(\alpha)=\tau(\alpha) \text{ and } \frac{ip^n}{m(\alpha)}\equiv\frac{jp^n}{m(\alpha)} \text{ mod }p^n\\
&\iff \tau^{-1}\sigma\in{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E) \text{ and } i\equiv j \text{ mod }m(\alpha)
\end{align*}
$$
で測れます。そこで$${G^+}$$の部分群$${{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)^+}$$を
$$
\begin{align*}
{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)^+:=\{(\sigma, im(\alpha))\in G \times\mathbb{Z}_{p^n}\mid \sigma \in {\rm Aut}_{K(\alpha)}(E), i\in\mathbb{Z}\}
\end{align*}
$$
とすれば、自然に全単射
$$
\begin{align*}
\overline{\psi}:G^+/{\rm Aut}_{K(\alpha)}(E)^+\rightarrow S^+; [\sigma, i]\mapsto\left(\sigma(\alpha), \frac{ip^n}{m(\alpha)}\right)
\end{align*}
$$
が作れます!しかも
$$
\begin{align*}
\prod_{(\beta,i)\in S^+}(X-\beta)=\prod_{\beta\in S}(X-\beta)^{m(\beta)}
\end{align*}
$$
だから、やりたい事ほぼほぼ出来ちゃってるくないですか!?
問題点
調子がいいので$${E}$$の元も重複度に応じて重ねてみよう:
$$
\begin{align*}
E^+:=\{(\alpha, j)\in E\times \mathbb{Z}_{p^n}\mid jm(\alpha)\equiv0 \text{ mod }p^n\}
\end{align*}
$$
これは要するに、$${\alpha\in E}$$の元を、群$${\mathbb{Z}_{p^n}}$$の中の位数$${m(\alpha)}$$の部分群で安直に水増しした集合です。しかも$${E^+}$$には
$$
\begin{align*}
(\sigma, i)\cdot(\alpha, j):=\left(\sigma(\alpha), \frac{ip^n}{m(\alpha)}+j\right)
\end{align*}
$$
というかなり自然な$${G^+}$$作用が存在します!しかし僕のプロジェクトはここで頓挫しています。問題点をまとめてゆきましょう。
重複度有限拡大
まず問題となるのは、どんな$${\alpha\in E}$$に対しても、ある$${\beta\in E}$$が存在して、$${m(\alpha)< m(\beta)}$$となる場合があるんじゃないかなと。つまり、いくらでも大きな重複度が存在するような拡大体がある可能性です。このような状況を排除するために、僕は「重複度有限拡大」という概念を用意してみました。前に例示した拡大$${\mathbb{F}_2(t,\sqrt{t})/\mathbb{F}_2(t)}$$は重複度有限拡大です。重複度有限でない有限次正規拡大が存在するかどうかは、まだ確認してないです。ないんじゃないかなぁ。
わりとそんな気はしているし、パッと思いつく有限次正規拡大は大体重複度有限っぽいので、あんまりまだ深刻に考えてはいないです。
E^+の演算
僕が導入した集合
$$
\begin{align*}
E^+:=\{(\alpha,j)\in E\times\mathbb{Z}_{p^n}\mid jm(\alpha)\equiv0\text{ mod }p^n\}
\end{align*}
$$
には、すごくよさそうな演算がありそうでした。つまり、足し算と掛け算を次のように定義「したかった」のです:
$$
\begin{align*}
(\alpha,j)+(\beta,k)&:=\left(\alpha+\beta,\frac{jm(\alpha)+km(\beta)}{m(\alpha+\beta)}\right)\\
(\alpha,j)\cdot(\beta,k)&:=\left(\alpha\beta,\frac{jm(\alpha)km(\beta)}{m(\alpha\beta)^2}\right)
\end{align*}
$$
なんか「重み付きの演算」って感じがしてすごい自然じゃないですか?でもこれ、演算自体がwell-defではないんです。確かめてみてください。$${p}$$の冪が減っちゃって、$${p}$$個分の曖昧さが残っちゃいます。
純非分離でも全然ダメです。さっき挙げた例$${\mathbb{F}_2(t,\sqrt{t})/\mathbb{F}_2(t)}$$でも上の演算がwell-defでないことは確認できます。
じゃあこれ以外に良い演算が入って、$${E^+}$$を体にしたいなーと思って色々試行錯誤していますが、いつの間にか上のwell-defでない演算に戻ってたりします。$${G^+}$$の作用とコンパチブルになるように演算を入れようとすると、どうもこの演算に落ち着いていってしまうように思います。ちょっとこの方向無理かも。
$${E^+}$$に演算を入れたい理由は、やっぱり「そこ上の多項式」を考えて、その多項式の根を$${G^+}$$で入れ替えても同じ多項式の根ですよ、っていうガロア理論で絶対外せない感覚を実装したいからなんですよね。あとガロア理論の基本定理の亜種を見据えて、$${E^+/K}$$の中間体(?)と$${G^+}$$の部分群を比較したいというのもあります。最低限足し算引き算掛け算は欲しい。つまりは環にはなってほしい。
あるいは体じゃない何か別のものとしてこの拡張が果たされるかもしれません。なんかほら、圏に位相っぽいもの入れてその上の層とか考えたりするじゃない?そういう突拍子もない(?)発想が必要かも。
それはともかく、代数的整数論も類体論も岩澤理論も知らない僕が手を付けていい問題ではない気がしてきたので、まずはそこら辺勉強して出直しかと思ってまーす(´・ω・`)
あと調べると、リー代数がどうとかで、分離的でないどころか、正規ですらない体拡大のガロア理論があるみたいですね。論文当たって見たけど良く分かりませんでした😅。もしこれを見て「先行研究ありますよー」とかあれば教えてくれると嬉しいです🙏。
逆に、ここにもし本当に意外とやられてない着眼点があって「なんか論文のネタになりそうだなー?」って思ったら全然使っちゃってオッケーです。その際はこのnoteにコメントいただけると嬉しいです。