見出し画像

エネルギー保存則とポテンシャル

みなさんこんにちは、ずんだもん博士なのだ。みなさんはエネルギーを感じたことはありますか?僕は僕自身が非常に大きな位置エネルギーを持つことが怖いです。

さてこのエネルギーというものを皆さんなんとなく使っていて、保存するものだというのを受け入れていると思います。でもそもそもエネルギーって何でしょうか?今回は古典力学における一粒子に限っていろいろ考えてみましょう。


運動方程式

僕のnoteでは何度目かかわからないですが、運動方程式を再掲しましょう:

$$
F=m\frac{d^2x}{dt^2}=m\ddot{x}
$$

ただし変数の上にドットを付けて、時間微分と思うことにしているのは今まで通りです。もとい、この運動方程式とはつまり、一次元のレール上に置かれたボールに、力$${F}$$が働いているという状況で成り立つ微分方程式です。僕たちはこれを解くことで、$${x}$$を時刻$${t}$$の関数として表して未来を予想することが一つの目標なのです。

力にはいろいろな種類があります。例えば万有引力

$$
F=\frac{GMm}{r^2}
$$

他にも例えば

  • 調和振動:$${F=-kx}$$

  • 自由落下:$${F=mg}$$

  • 空気抵抗アリの落下:$${F=mg-k\dot{x}}$$

  • クーロン力:$${F=q/2\pi\epsilon_0r^2}$$

  • 自由粒子:$${F=0}$$

いずれも位置座標$${x}$$のみに依存している力になります。しかし外から人工的に力をガンガン増していくような状況、例えば車に乗っているときに直進しているところから急にコーナーを攻め始めるとか、ジェットコースターでブンブン振り回される等すると、時刻$${t}$$が$${F}$$に含まれるでしょう。あまり気持ちが良いとは言えないこの状況下と、上記に並べたお行儀のよさそうな力たちで何が違うのでしょうか?少し考察してみましょう。

エネルギーの導出

$${F=m\ddot{x}}$$という方程式の右辺を見たときに、なんとなく筋がいいんじゃないかと思う発想があります。それは両辺に$${\dot{x}}$$をかけることです。そうすると、積の微分を使うことで

$$
F\dot{x}=m\dot{x}\ddot{x}=\frac{m}{2}\frac{d}{dt}\dot{x}^2
$$

となるからです。こう見ると左辺も

$$
F\dot{x}=F\frac{dx}{dt}
$$

と書かれていて、なんだか両辺を$${t}$$で積分してみとうなりませんか?素直になりましょうや…!ほら…!置換積分なんかも使えちゃいそうじゃないですか…!念のために積分範囲は時刻$${t=t_0\sim t}$$でとって考えましょう:

$$
\begin{align*}
\int({\rm RHS})dt&=\int_{t_0}^t \frac{m}{2}\frac{d}{dt}\dot{x}^2dt=\frac{1}{2}m(v^2-v_0^2)\\
\int({\rm LHS})dt&=\int_{t_0}^t F\frac{dx}{dt}dt=\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx
\end{align*}
$$

ただし位置$${x}$$の時間微分は速度$${v:=\dot{x}}$$ということで、こちらの記号を使用させていただきました。もちろん$${v_0:=v(t_0)}$$は初速度です。

さて運動方程式によれば、これらは結局等しいはずだろうということで

$$
\begin{align*}
\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx=\frac{1}{2}m(v^2-v_0^2)
\end{align*}
$$

が成り立っているはずです。結局のところ、

$$
\begin{align*}
&\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx=\frac{1}{2}m(v^2-v_0^2)\\
\iff&-\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx+\frac12mv^2=\frac{1}{2}mv_0^2
\end{align*}
$$

これが時間に依存せず変化しない値だということが分ったのです。僕たちは左辺を「(力学的)エネルギー」と呼んで

$$
E:=-\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx+\frac12m\dot{x}^2
$$

このように書き表しているものになります。そして$${E}$$が時間に依存しないという事実を「エネルギー保存則」と呼んでいるわけでございます。

保存量はありがたい

力学的エネルギーに限らず、運動量や角運動量など、良い条件のもとで時間に依存しない量…すなわち保存量というのはいくつかあります。ほとんどの力学的エネルギーのように、時間経過で変化しない量が見つかるというのは、とてもありがたいことなのです。

というのも、たいていの物理現象は、時刻$${t=0}$$のときの初期状態と、すべての反応が終わった時刻$${t=T}$$の状態が観測しやすいからです。そしてその途中経過を細かく知る必要があるかというと、あんまりないことが多いですな。

中学や高校では、エネルギー保存則を使って、高いところから落としたボールが地面に落ちた時の速度を求めたりしたでしょう。テストで聞かれる問題の解答としては、地面に落ちた時の速度を書けば十分で、それがボールを持ち上げた瞬間の情報だけから分かる…よく考えたらすごいことだと思いませんか!

最先端の素粒子の実験でも、ギャンギャンに加速した素粒子同士をぶつけて、反応し終わった状態を観測して「あーだこーだ」論文を書くのです。この活動にも何かしらの保存量が用いられています。エネルギーに限らず、何かしら保存量をいっぱい見つけておくことは、とても偉いことなのです。

エネルギーの例:自由粒子

一番シンプルなのは自由粒子の状況

$$
F=0
$$

でしょう。これは時刻に…どころか位置にも依存していないので、保存力です。この状況下のエネルギーは

$$
E=-\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx+\frac12mv^2=\frac12mv^2
$$

です。これは中学・高校で学んだはずの運動エネルギーそのものです。粒子になんの力も働いていない場合、つまりこれが時間に依存しないというエネルギー保存則から、$${v}$$の値も時間変化しないことになります。つまり「力が働いていなければ静止してるか等速直線運動をする」ということですが、これは直観的にも合っていますね。もっとも、このことは別にエネルギーを持ち出すまでもなく運動方程式を解いてわかることですがね。

エネルギーの例:自由落下

次にシンプルなのは

$$
F=mg
$$

で捕縛される粒子です。今回は時刻$${t=t_0}$$において、高所$${x(t_0)=L}$$で物体を静かに手放すことを考えましょう。$${x=0}$$のところを地面だと考えます:

$$
\begin{align*}
E&=-\int_{L}^{x} Fdx+\frac12mv^2\\
&=-\left[mgx\right]_{x=L}^{x=x}+\frac12mv^2\\
&=mgL-mgx+\frac12mv^2
\end{align*}
$$

こちら皆さんおなじみ、力学的エネルギーそのものでございますね。

もとい、エネルギー保存則の運用例として、地面に落下した際の物体の速度を求めてみましょう。まず$${t=t_0}$$で静かに落とした時点では$${x=0}$$、$${v=0}$$のはずなので、$${E=mgL}$$であるはずです。また$${t=T}$$で地面に落下したとすれば、$${x=L}$$のはずなので、エネルギーは$${E=mv^2/2}$$のはずです。するとエネルギー保存則から

$$
-mgL=\frac12mv^2\iff v=\sqrt{2gL}
$$

が成り立ちます。まあ受験生などはうんざりするほどやったでしょう。でもエネルギーが保存するということだけで、わりといろんなことが分ったりするというのがすごいですね。

自由落下の際の運動エネルギーではない方の項$${mgL-mgx}$$は、位置エネルギーと呼ばれています。この値が小さくなる、すなわち物体が落ちてゆくと、エネルギー保存則からそのエネルギー差分が隣の項にある運動エネルギーに転換されて、落下スピードがどんどん上がっていく、というイメージです。

エネルギーが保存しない例:空気抵抗アリの落下

空気抵抗アリの落下時に粒子に掛かる力の一例は

$$
F=mg-k\dot{x}
$$

というものでした。今仮に考えている粒子は空から降ってくる雨粒だとして考えてみましょう。

本来であれば、雨が上空高くで作られたときは、地面からの高さに応じて位置エネルギー

$$
E=mgL
$$

を持っていたはずです。一方でこれが地面に到達するころには雨粒は終端速度$${v_\infty=mg/k}$$に達していて、ここからほぼ時間変化しなくなってしまう。結果として地面に落ちるころの運動エネルギーはほぼ

$$
E=\frac12mv_\infty^2=\frac{m^3g^2}{2k^2}
$$

になっているのが現実です。空気抵抗さえなければ、本来の運動エネルギーは

$$
E=\frac12mv^2=mgL
$$

だったはずなので、雨粒が上空で持っていた位置エネルギーは、地面に落下した際、差し引き

$$
\Delta E=mgL-\frac12mv_\infty^2=mgL-\frac{m^3g^2}{2k^2}
$$

だけ空気抵抗によって失ったように見えます。

きっちり理論的にも考えてみましょうか。以前の記事で、空気抵抗アリの運動では

$$
v=\frac{mg}{k}+A\exp(-kt/m)
$$

が成り立つのを導きました。ただし今回は静かに落とすということで、$${t=0}$$で$${v(0)=0}$$ということにしましょう。なので、積分定数$${A}$$は

$$
0=\frac{mg}{k}+A\iff A=-\frac{mg}{k}
$$

と求められます。したがって

$$
v=\frac{mg}{k}(1-\exp(-kt/m))
$$

ですね。今回はさらに$${v}$$を積分して、位置も求めましょう。ただ今回は簡単のため原点を上空にとり、時刻$${t=0}$$で雨粒は上空$${x=0}$$の地点にあり、ある時刻$${t=T}$$で地面$${x=L}$$に達したと解釈します:

$$
x(t)=\int_0^t\frac{mg}{k}\left(1-\exp(-kt/m)\right)dt=\frac{mg}{k}\left(t+\frac{m}{k}\exp(-kt/m)\right)-\frac{m^2g}{k^2}
$$

すると、$${x(T)=L}$$から

$$
L=\frac{mg}{k}\left(T+\frac{m}{k}\exp(-kT/m)\right)-\frac{m^2g}{k^2}
$$

なんですが、さすがに計算がしんどいので$${T}$$は十分大きいとして、$${\exp}$$の項は0としちゃいましょう:

$$
L=\frac{mgT}{k}-\frac{m^2g}{k^2}\iff T=\frac{kL}{mg}+\frac{m}{k}
$$

これが雨粒が地面に落下するまでにかかるおおよその時間です。空気抵抗を意味する力は$${-k\dot{x}^2}$$ですので、これを積分すれば失われたエネルギーが求められるはずです:

$$
\begin{align*}
-\int_{0}^Tk\dot{x}^2dt&=-k\int_{0}^T\frac{m^2g^2}{k^2}\left(1-\exp(-kt/m)\right)^2dt\\
&=-\int_{0}^T\frac{m^2g^2}{k}\left(1-2\exp(-kt/m)+\exp(-2kt/m)\right)dt\\
&=-\frac{m^2g^2}{k}\left[t+\frac{2m}{k}\exp(-kt/m)-\frac{m}{2k}\exp(-2kt/m)\right]_{t=0}^{t=T}\\
&=-\frac{m^2g^2T}{k}+\frac{2m^3g^2}{k^2}-\frac{m^3g^2}{2k^2}\\
&=-\frac{m^2g^2T}{k}+\frac{3m^3g^2}{2k^2}
\end{align*}
$$

最後から2番目の等式でも$${T}$$は十分大きいとして、$${\exp}$$は削っちゃいました。ここに先ほど求めた

$$
T=\frac{kL}{mg}+\frac{m}{k}
$$

を代入すると

$$
\begin{align*}
-\int_{0}^Tk\dot{x}^2dt&=-\frac{m^2g^2}{k}\left(\frac{kL}{mg}+\frac{m}{k}\right)+\frac{3m^3g^2}{2k^2}\\
&=-mgL+\frac{m^3g^2}{2k^2}
\end{align*}
$$

となります。近似近似でヒヤヒヤしましたが、なんとか空気抵抗によって失われたエネルギー

$$
\Delta E=mgL-\frac12mv_\infty^2=mgL-\frac{m^3g^2}{2k^2}
$$

を取り戻しました。符号が変わっているのは、$${-kv}$$という補正項によってエネルギーが「失われる」という意味に解釈できそうです。

物体の落下において本質的に働く力は重力$${mg}$$です。エネルギーもしたがって、上空で持っていたはずの$${mgL}$$で不変であるのがしかるべきなのですが、空気抵抗という本質的でない力の邪魔をうけて、エネルギーを損失する…と解釈できますね。

ポテンシャル

先ほどはエネルギーを

$$
E:=-\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx+\frac12m\dot{x}^2
$$

と定義しました。これは本当にいつでも保存量であるのでしょうか?言い換えれば、時間微分で消える関数になっていると言えるのでしょうか?確認しなければ気がすみません!

エネルギーが保存則するための条件

そもそもこの記事の冒頭では、力$${F}$$の積分を次のようにして計算を進めました:

$$
\int_{x(t_0)}^{x(t)} Fdx=\int_{t_0}^tF\frac{dx}{dt}dt
$$

しかしこの計算が正当化されるには、$${x}$$が$${t}$$の関数として単調関数である必要があるのでした。つまり、$${t}$$の値によって$${x}$$の値が上下するような状況で使える式変形ではないのです。

今までの例ではたまたま自由粒子だったり自由落下だったり、せいぜい空気抵抗アリの落下を考えていたから、$${x}$$は$${t}$$に関して単調でした。ですが調和振動のようにビヨンビヨンしてたり、万有引力のように楕円上をぐるぐる回るような状況で上記の変形はできません。では、どうしましょうか…。

ポテンシャル

そこで僕たちは、そもそも$${F}$$の原始関数が「あると思って」計算することを思いつきます。つまり、

$$
-\frac{dU}{dx}=F
$$

を満たすような関数$${U}$$があると考えるのです。マイナスがついているのは、もともとのエネルギーの発想に代入すると

$$
E=-\int Fdx+\frac12mv^2=U+\frac12mv^2
$$

となって、全部正の項になって気持ちがいいからです。

またこのような考えをする以上、もはや$${U}$$や$${F}$$は$${t}$$の関数というよりも、$${t}$$および$${x}$$に関する2変数関数と考えるしかないでしょう。なので上式は正しくは偏微分で書くのが正しかろうです:

$$
-\frac{\partial U}{\partial x}=F
$$

このような関数$${U=U(x,t)}$$をポテンシャルといいます。ポテンシャルを用いたエネルギーの定義

$$
E=U+\frac12mv^2
$$

を微分してみましょう。ただし、$${x=x(t)}$$は$${t}$$の関数であると求まっていると仮定します:

$$
\begin{align*}
\frac{dE}{dt}&=\frac{d}{dt}U(x(t),t)+\frac12m\frac{d}{dt}\dot{x}^2\\
&=\frac{\partial U}{\partial x}\dot{x}+\frac{\partial U}{\partial t}+m\dot{x}\ddot{x}\\
&=-F\dot{x}+\frac{\partial U}{\partial t}+m\dot{x}\ddot{x}\\
&=\frac{\partial U}{\partial t}
\end{align*}
$$

となりました。最後の等式では運動方程式が用いられています。残念ながら0にならなかったようです。しかし「どういうときにエネルギーが保存するか?」はわかったようですな。つまり

$$
\frac{\partial U}{\partial t}=0
$$

を満たすようなポテンシャルをもつときにエネルギーが保存するようです。これはつまり、ポテンシャル$${U}$$が時間に依存しませんよ、という式になります。ゆえに、少なくとも一次元の運動においては、ポテンシャルが時間に依存しないときにエネルギー保存則が成り立つという定理が得られました。

ポテンシャルの例:落下系

自由粒子の場合は$${F=0}$$なので

$$
U=C\;\text{(定数)}
$$

でよさそうですね。自由落下の場合は$${F=mg}$$なので

$$
U=-mgx+C
$$

ですな。最後に空気抵抗アリの落下の場合ですが、$${F=mg-k\dot{x}}$$なのでどうしたものか難しそうです。頑張りましょう。まず運動方程式を解いて

$$
\begin{align*}
v(t)&=\frac{mg}{k}(1-e^{-kt/m})\\
x(t)&=\frac{mg}{k}(t+\frac{m}{k}e^{-kt/m})-\frac{m^2g}{k^2}\\
&=\frac{mgt}{k}-\frac{m^2g}{k^2}(1-e^{-kt/m})
\end{align*}
$$

でした。ただし$${(v(0)=0)}$$、$${x(0)=0}$$となるように積分定数を調整しています。$${x(t)}$$の式をよく見ると、$${v(t)}$$の一部が表れています:

$$
x(t)=\frac{mgt}{k}-\frac{mv(t)}{k}\;\;\;\therefore\;\;v(t)=gt-\frac{kx}{m}
$$

これを力に代入すると

$$
F(x(t),t)=mg-kv(t)=mg-kgt+\frac{k^2x}{m}
$$

したがってポテンシャルは

$$
U=-mgx+kgtx-\frac{k^2x^2}{2m}+C
$$

になりそうです。となると$${\partial U/\partial t=kgx\neq0}$$ですので、空気抵抗はエネルギーを保存させない要因になってしまっていると解釈できそうです。

ポテンシャルの例:調和振動

調和振動に掛かる力は

$$
F=-kx
$$

でした。なのでポテンシャルは簡単に

$$
U=\frac{kx^2}{2}
$$

となります。時間に依存しないので、これもエネルギーが保存されるはずです。実際、以前求めた解によれば

$$
x(t)=C\cos(\omega t+\varphi),\text{ ただし }\omega:=\sqrt{k/m}
$$

でした($${C,\varphi}$$は積分定数)。したがって

$$
v(t)=-\omega C\sin(\omega t+\varphi)
$$

ゆえに

$$
\begin{align*}
E&=U+\frac12mv^2\\
&=\frac{kx^2}{2}+\frac{1}{2}mv^2\\
&=\frac{k}{2}C^2\cos^2(\omega t+\varphi)+\frac{1}{2}m\omega^2C^2\sin^2(\omega t+\varphi)\\
&=\frac{k}{2}C^2\cos^2(\omega t+\varphi)+\frac{1}{2}kC^2\sin^2(\omega t+\varphi)\\
&=\frac{kC^2}{2}
\end{align*}
$$

となっていて、実際に定数となりましたね。

高次元のポテンシャル

最初に挙げていた力のうち、万有引力とクーロン力は少なくとも2次元の力です。なので、今までの1次元での考えを拡張して、なおエネルギーが保存するかどうかがポテンシャルの状況に依存するかどうかを調べたいところです。

ということで運動方程式まで話を戻しましょう。簡単のため2次元の万有引力を考えましょう:

$$
\begin{align*}
\frac{GMm}{(x^2+y^2)^{3/2}}(x,y)=m(\ddot{x},\ddot{y})
\end{align*}
$$

1次元のときのように、左辺の原始関数を考えましょう。ただし、大変そうなので成分ごとに考えましょう:

$$
\begin{align*}
\int\frac{GMmx}{(x^2+y^2)^{3/2}}dx&=-\frac{GMm}{\sqrt{x^2+y^2}}+C_x\\
\int\frac{GMmy}{(x^2+y^2)^{3/2}}dy&=-\frac{GMm}{\sqrt{x^2+y^2}}+C_y
\end{align*}
$$

この積分はどうやったかというと、勘です。良い言い方すると経験です。右辺を微分してみれば、ちゃんと原始関数になってることがわかります。

結局、

$$
U:=-\text{(原始関数)}=\frac{GMm}{\sqrt{x^2+y^2}}(1,1)+C
$$

というベクトル…になりそうじゃないですか。ですがちょっと工夫すると、関数にできます。微分のほうをベクトルにするんです!つまりこうします:

$$
U:=\frac{GMm}{\sqrt{x^2+y^2}}+C
$$

これをこうしてこうしてこうじゃ!

$$
\begin{align*}
&\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y}\right)\\
=&\left(\frac{GMmx}{(x^2+y^2)^{3/2}},\frac{GMmy}{(x^2+y^2)^{3/2}}\right)\\
=&\frac{GMm}{(x^2+y^2)^{3/2}}(x,y)
\end{align*}
$$

みごとに運動方程式の左辺が出てきました。この操作

$$
\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y}\right)
$$

グラディエント(gradient, 勾配)といって、

$$
\nabla U:=\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y}\right)
$$

と書きます。3次元でも同じことです。高次元のポテンシャルを求めるには、

$$
\nabla U:=\left(\frac{\partial U}{\partial x},\frac{\partial U}{\partial y},\frac{\partial U}{\partial z}\right)=-F
$$

を満たすような関数$${U}$$を見つければいいのです。つまり$${\nabla}$$というのは

$$
\nabla:=\left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)
$$

とみなしていて、関数$${U}$$に作用させるなどしてベクトル値にしているということです。

高次元のポテンシャルの難点①

現実にこんな現象があるかはわからないですが、こんな力が働いている質点を考えましょう:

$$
F=k(y,-x)
$$

実はこのような$${F}$$に対して、$${\nabla U=-F}$$を満たすようなうまい関数$${U}$$は、いくら考えても出てきません。無駄と知りつつちょっと考えてみましょう。立てるべき方程式は

$$
\begin{align*}
\frac{\partial U}{\partial x}&=-y\\
\frac{\partial U}{\partial y}&=x
\end{align*}
$$

ですから、1本目の方程式から$${U=-xy+C}$$が出てきそうです。でもこれを2本目に代入すると、$${{\partial U/\partial y}=-x}$$となって$${{\partial U/\partial y}=x}$$にはなり得ません。もし仮に積分定数$${C}$$が$${y}$$に依存する関数だろうと考えてみても、

$$
-x+C'=x\iff C'=2x\;\;\therefore\;\;C=2xy
$$

となって、$${C}$$が$${x}$$に依存しないとしたことに矛盾します。

実は$${\nabla U=-F}$$を満たす関数$${U}$$が見つかるための、$${F}$$に関する必要条件が存在します。それは、まず$${\nabla U=-F=(F_x,F_y)}$$となる$${U}$$が見つかったとしましょう。すると

$$
\begin{align*}
\frac{\partial U}{\partial x}&=-F_x\\
\frac{\partial U}{\partial y}&=-F_y
\end{align*}
$$

であるわけですが、ここで第一式を$${y}$$で偏微分、第二式を$${x}$$で偏微分しますと

$$
\begin{align*}
\frac{\partial^2 U}{\partial x\partial y}&=-\frac{\partial F_x}{\partial y}\\
\frac{\partial^2 U}{\partial x\partial y}&=-\frac{\partial F_y}{\partial x}
\end{align*}
$$

となり、次の関係式が得られます:

$$
\begin{align*}
\frac{\partial F_x}{\partial y}=\frac{\partial F_y}{\partial x}
\end{align*}
$$

これは可積分条件と呼ばれています。つまり、少なくとも$${F=(F_x,F_y)}$$が可積分条件を満たしていないと、100%間違いなくポテンシャルを見つけることができないのです。

完全に余談ですが幾何系の方はこの条件が、幾何的に何を意味しているかピンとくるはずです。つまり1次微分形式の外微分が消える…つまり閉形式ということです。1次微分形式の外微分が消えないと、その微分形式を関数の外微分の像として書く…つまり完全形式で書き表すという望みはないのでした。多様体の構造によっては、外微分が消えたとしても完全形式で書くことができない場合があります。閉形式のうち、どれぐらいが完全形式でないかを測る尺度をド・ラームコホモロジーというのです。次に解説する注意点は、これに関連していて、可積分条件を満たしているにもかかわらずその積分が求められないこともある、というお話です。

高次元のポテンシャルの難点②

$${F}$$が可積分条件を潜り抜けてもなお、おかしなことは起こり得ます。例えば次のような力を考えましょう:

$$
F=(F_x,F_y)=\left(-\frac{y}{x^2+y^2},\frac{x}{x^2+y^2}\right)
$$

これは

$$
\begin{align*}
\frac{\partial F_x}{\partial y}&=\frac{-(x^2+y^2)+2y^2}{(x^2+y^2)^2}=\frac{-x^2+y^2}{x^2+y^2}\\
\frac{\partial F_y}{\partial x}&=\frac{(x^2+y^2)-2x^2}{(x^2+y^2)^2}=\frac{-x^2+y^2}{x^2+y^2}=\frac{\partial F_x}{\partial y}
\end{align*}
$$

なので可積分条件を満たしています。なのできっとポテンシャルが見つかることでしょう。実のところ僕は、次の関数(?)から逆算してこの力を作りました:

$$
U:={\rm Tan}^{-1}(y/x)
$$

$${\nabla U=-F}$$になってるので、確かめてみてください。

ですがこのポテンシャル、関数としておかしいのです。どういうことかというと、次のループと合成してみましょう:

$$
\begin{align*}
\gamma:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}^2;t\rightarrow (\cos(t),\sin(t))
\end{align*}
$$

すると、

$$
\begin{align*}
(U\circ\gamma)(t)=U(\cos(t),\sin(t))={\rm Tan}^{-1}(\tan(t))
\end{align*}
$$

ここから$${{\rm Tan}^{-1}(\tan(t))=t}$$が導けそうな気もしますが、そうはいかないのです。$${\tan}$$には周期性

$$
\tan(t)=\tan(t+2n\pi)
$$

がありますから、$${\gamma(t)}$$で円周をくるくる回しているうちに、いつの間にか

$$
\begin{align*}
(U\circ\gamma)(t+2n\pi)={\rm Tan}^{-1}(\tan(t+n\pi))=t+2n\pi
\end{align*}
$$

という値に飛んでいることがあります。しかしながら

$$
\gamma(t+2n\pi)=(\cos(t+2n\pi),\sin(t+2n\pi))=\gamma(t)
$$

だったので、関数$${U}$$は同じ点であるはずの$${(\cos(t),\sin(t))=(\cos(t+2n\pi),\sin(t+2n\pi))}$$を、$${t}$$に移すのか$${t+2\pi}$$に移すのか、それとも$${t+2n\pi}$$に移すのか、わからないという状態になっています。つまり「$${U}$$は多価関数である」という状況なのですが、これもポテンシャルが見つかったとは言えない状況となっています。

どうしてこうなってしまったかというと、実は$${F}$$の積分というのは、平面上の滑らかな曲線に沿って積分することになると思うのですが、その曲線の取り方によって積分の値が変わってしまうのが問題なのです。

複素関数論を知っている人は、有理形関数の極をまたいだ二種類の曲線に沿った積分の値が変わりうる、ということを思い出したかもしれません。これはまさにそれが起きているのです。

万有引力、クーロン力のポテンシャル

こまごまとした注意も終わったところで具体例と行きましょう。現実の物理現象では大体、上記の注意点はクリアしているので安心してください。

例えば万有引力もクーロン力も、定数をまとめてしまえば次のような形式の力です:

$$
F=\frac{k(x,y)}{(x^2+y^2)^{3/2}}
$$

よく考えたら、先の計算によって既にこの力のポテンシャルは求めていました:

$$
U=\frac{k}{\sqrt{x^2+y^2}}=\frac{k}{r}
$$

万有引力なら

$$
U=\frac{GMm}{r}
$$

ですし、クーロン力なら

$$
U=\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\frac{q}{r}
$$

です。

高次元のエネルギー保存則

高次元においてもエネルギーは

$$
E=U+\frac12mv^2
$$

と書かれます。ただし$${v^2}$$は当然

$$
v^2=\dot{x}^2+\dot{y}^2
$$

ですし、$${U}$$は$${F}$$のポテンシャルだから

$$
\nabla U=-F=:(-F_x,-F_y)
$$

です。

さて$${E}$$が保存量かどうか確かめるために、時間微分してやりましょうか!ただし慎重を期するために、$${U=U(x,y,t)}$$の微分はちょっと慎重にやりましょう

$$
\begin{align*}
\frac{dU}{dt}&=\frac{\partial U}{\partial x}\dot{x}+\frac{\partial U}{\partial y}\dot{y}+\frac{\partial U}{\partial t}\\
&=-F_x\dot{x}-F_y\dot{y}+\frac{\partial U}{\partial t}
\end{align*}
$$

ゆえに運動方程式

$$
F=m\ddot{x}\iff F_x=m\ddot{x},\;F_y=m\ddot{y}
$$

から

$$
\begin{align*}
\frac{dE}{dt}&=-F_x\dot{x}-F_y\dot{y}+\frac{\partial U}{\partial t}+m(\dot{x}\ddot{x}+\dot{y}\ddot{y})\\
&=\frac{\partial U}{\partial t}
\end{align*}
$$

となりました。1次元のときと同じ状況に落ち着いたようです。ただし、ポテンシャルが存在するかどうかは1次元のときほど簡単ではありませんでした。結論はこうです。

力$${F}$$がポテンシャル$${U}$$をもつならば、エネルギー$${E=U+mv^2/2}$$が定義できて、さらにもしポテンシャル$${U}$$が時刻$${t}$$に依存しないならば、エネルギーは保存する。

そして力$${F}$$がポテンシャル$${U}$$を持つためには、可積分条件を満たすということと、$${\int Fdx}$$が積分経路に依存しないことが必要十分なのでした。このような力$${F}$$であって、ポテンシャル$${U}$$が時間に依存しないようなものは、エネルギー保存則を導くので、「保存力」と呼ばれます。

自由粒子、自由落下、調和振動、万有引力、クーロン力などは保存力でした。空気抵抗は保存力ではありませんでした。

今回はエネルギーの定義とその保存則のことだけ語ろうと思ったのですが、なんか色々詰め込んじゃって、今14,200文字ぐらいになっちゃいました。ここまで読んでくれた方はお疲れさまでした。ありがとうございます<(_ _)>

いいなと思ったら応援しよう!