プロジェクトマネージャーの転職 その6 - 自分を売り込むストーリー -
書き手Kの個人的な転職体験談ですが、そろそろ書類の準備に入ります。今回は私の通った転職までの4段階
モヤモヤ: 将来に不安を感じ、ただ漫然と探す
シャキッと: 自己分析をし、ターゲットを絞る
ワクワク: 応募の準備をする
ドキドキ: 応募、選考(特に面接)
のうち、第3段階の第2話です。
バックナンバー
第1段階(だた漠然と現状に不満を募らせ、やさぐれた割には頭の中がお花畑だった頃):
プロジェクトマネージャーの転職 その1 - やさぐれた中年 -
第2段階(自分の価値観などを整理しようとミッション・ステートメントを書こうとし始めた頃)
前半: プロジェクトマネージャーの転職 その2 - 自分探しの沼 -
後半: プロジェクトマネージャーの転職 その3 - ミッションステートメント -
番外: プロジェクトマネージャーの転職 その4 - ルサンチマンとの闘い -
第3段階(ポジションを探しながら履歴書などを準備した頃)
前半: プロジェクトマネージャーの転職 その5 - 異業界に挑戦したい -
転職への道 第3段階 ワクワク編 中盤
前回は他の業界で仕事を探すことにした顛末と、他業界への挑戦はたとえキャリアの3要素の法則を守っていても苦戦が予想されることをお話ししました。他の業界からの応募者が同じ業界からの経験者を差し置いて採用されるためには、しっかりとした売り込みストーリーが必要となります。
まずは作戦会議から
直接的な応募の準備としては、書類(履歴書とカバーレター)を用意することになりますが、書類に取り掛かる前に、まずはどう自分を売り込むのか作戦を考えることにしました。他業界から来た自分がどういう風に新しい会社の役に立てるのか、他の人には簡単には真似できない役の立ち方はないか、それを裏付ける具体的な事例はあるか、自分が採用されたらどんなことをしたいか、思いつくままに書き出します。まとまっていなくても良いので一度紙に書き出すようにすると、何となく自分を売り込む方向性が見えてきます。書類を書く前に軸となる売り込みストーリーを決めておくと、結果的に効率良く書類を用意できるだけでなく、面接においても書類の内容と一貫した話を語れるようになり、全体的に「筋が通っている」印象を与えることができます。
3段作戦
作戦は次の3段階で考えましょう。
自分を採用するメリットは何か
その中で特に自分にしかできない(少なくともライバルが少ない)ことは何か
それを裏付ける過去のエピソードは何か
まずは「自分を採用したらこんな良いことがある」というネタをいくつか挙げてみましょう。これは、キャリアの3要素の法則で維持した要素から考えていくと無難です。私の場合は、「専門分野、職種」と「ヒエラルキー内の位置付け」を維持したので、例えば「自動運転技術に関する見識を提供する」や「現場主義でプロジェクトメンバーとの信頼関係を構築し、不確定要素の多いプロジェクトでも柔軟に対応できるチームにまとめる」といった点を挙げてみました。
次に「自分にしかできないこと」という視点でもう少し具体的に売り込みポイントを記述してみます。私の場合、自動運転技術を知っている人はたくさんいるだろうということは予想できましたが、「広くまぁまぁ深い見識」を持っている方はそう多くはないと感じていたので「自動運転技術に関する広くまぁまぁ深い見識をもって早い段階で(自動化システムの開発において)足りていないものを認識し、余裕を持って現実的な計画を立てられる」というように具体化しました。
最後に、よっぽどの天才でない限り、またその天才のオーラが外から見て分かるぐらいでない限り、会社は過去の実績に基づいた話だけを信じます。つまり、何かを売り込むなら、必ずそれを裏付ける過去のエピソードをセットにして語る必要があります。またまた私の例を挙げるとすれば、「自動運転を日常で安心して使えるようにするには、センサーをまめに拭く必要がある」という話をしました。自動運転技術と言うと「画像認識」「機械学習・AI」などのカッコイイ言葉が注目されがちですが、どんなすごいソフトウェアがあってもセンサーが汚れていたら使い物にならない訳です。自動でセンサーの汚れを検知するアルゴリズム、汚れを検知したら自動で拭く装置といったものはとかく忘れられがちですが、私は過去のプロジェクトでこういった「補機」の重要性を学び、また意外と出来合いの製品が無いということも知っているので、その経緯を簡単に説明しながら、「採用されたら、こんな忘れられがちなこともちゃんと考慮しながらプロジェクトを進めます」と熱弁を振るった訳です。
トッピングはパッション
以上の3段作戦で「筋が通った」印象は十分与えられると思いますが、過去の実績をベースにした話となるので論理的、理性的な語り口となります。相手の心を打つには、仕上げに情熱(パッション)の要素を付け加えたいところです。
スティーブ・ジョブズのようには簡単にはなれませんが、「あんなこといいな、できたらいいな」という想いを持っている人の目は活き活きし、話も主体的で引き込まれそうになるものです。ただ理性的に考えた条件とマッチするから、というモチベーションだけだとちょっと冷めた印象を与えてしまいかねません。
アップルのような熱狂的なファンがいる会社はやはり従業員もアップルマニアであることを求める、と聞いたことがあります。もし自動車会社に応募するのであれば、そこの自動車のファンであることを話し(嘘はつくべきではないです)、その魅力を自分の言葉で表現できればかなり強いでしょう。
もしくは、できるかどうかは置いておいて、会社に入ったらやってみたいことはないでしょうか?例えば、スポーティーな車が魅力的な会社に応募したとしたら、そのスポーティーさを取り入れた小型電動トライク(3輪車)を作って、小型トラック・小型タクシーとして街中で走らせてみたい、といったようなことです。繰り返しますが、ここは話を造ったり、嘘をついたりするべきではなく、本当に自分がワクワクすることを自由に発想するべきです。
いよいよ書類の準備に
作戦が固まってきたところでようやく書類の準備を始めました。
私はヨーロッパで転職したのですが、欧米で共通の必要書類は次の2点です。
履歴書(Curriculum Vitae、略してCV)
カバーレター
この他に、外国人だとパスポート、滞在許可証や就労許可証、現地語の語学レベルの証明書、大学の卒業証書や成績表のコピーを要求されることもあります。私の場合は、滞在許可証のコピーは提出しましたが、もうこの国でかれこれ15年働いているので、それ以外の証明書類は求められませんでした。
また、最近ではLinkedInのプロフィールをちゃんと書けば、内容は履歴書と同等になりますし、各会社の求人サイトでも結局一から学歴、職歴を打ち込むことを求められるケースも多いです。履歴書をアップロードしたら半自動で入力してくれることも増えてきましたが、まだまだ完璧ではないので自分でちゃんと目を通し、修正する必要があります。
ちゃんとした履歴書が一つあれば、LinkedInのプロフィールも各社の求人サイトもほぼコピペで対応できるので、まずは一つ「良い」履歴書を完成させることをお勧めします。
これら書類の書き方については、次回お話しします。
閑話休題 完全自動運転バブルが弾けた訳
ちなみに、話はちょっと逸れますが、自動運転技術は相当複雑なシステムとなっており、大半の人・会社がこれまで扱ってきたノウハウがありません(でした)。
システムが複雑かつ大規模であるため、多くの場合、1人もしくは1チームの担当範囲がシステム全体に比べてかなり狭い範囲となり、そのようなチームが数多く乱立することになりました。
そうするとそれらのチームを束ねるマネジメント陣は、あまりにチームの数が多いため、それぞれの職務内容、進捗状況を細かいところまで理解することが事実上不可能となり、ちょっと深いところにある問題や依存関係を把握できず、どうしても表層的な部分で舵取りをすることになってしまいます。
結局、「狭く深い」人と「広く浅い」人に二極化し、「広くそこそこ深い」人が生まれにくい状況が生まれました。その結果、(一見)突然表出する問題にモグラ叩き的に対処するしかないという悪循環が生まれたのが、完全自動運転バブルの後結局ほとんどの会社が開発から撤退した原因の一つと個人的に考えています。
先ほど、私は「広くそこそこ深い」見識を持つ珍しい存在だと自画自賛しましたが、決して嘘ではないのですが、まぁ一つの例ということでご理解いただけると幸いです。「広くそこそこ深い」知識を持つに至った過程については、機会があれば書きたいと思います。