はじめての小さな罪
「そこにね、おばけいるよ」
そう言って6歳の私は襖を指差した。
「あそこに、白い服を来た女の人がいる」
「本当に見えるんかい?」
おばあちゃんが目を丸くして私の方を見る。
「うん」
「やだね、前も霊感あるっていう友達が遊びに来てさ、この家は霊がうじゃうじゃいるって言ったんさ。特にあそこの、襖から縁側に続く道は霊の通り道なんだと」
おばあちゃんが私から私の母に視線を向けて言った。母は嫌なものを見るように眉をひそめて聞いていた。
「やだやだ、そんなの本当だとしても信じない方がいいわよ。あそこで寝てるんでしょ?気狂っちゃうわよ。お母さんそういうのにすぐ影響されちゃうんだから。その友達もそんなこと言うならお祓いくらいしてってくんなきゃねぇ」
私は思わず口を両手で塞いだ。
幽霊が見えるというのは、嘘だったからだ。
「でも、あながち間違いじゃないと思うんさ。だってこの辺は昔処刑場だったんだから。毎日のように囚人たちの首が切り落とされて、それを並べて見せもんにして金稼いでたんだってさ。だから首切られた人も本当に悪いことしたんかどうかは分かんなかったんだってよ」
「どこから聞いてきたのよ。まあその話が本当だとしても私がここ住んでた頃だって別になんともなかったんだから、気にしないのが一番ね」
「ああ、でも、一度そんな話耳に入っちゃうと、嫌んなっちゃうよねえ。さやちゃんにも見えるって言われちゃったし」
私はなんだかわかんなかったけど、おばあちゃんの顔が少し暗くなったのを見てキュッと胸が縮んだ気がした。初めて感じる罪悪感というやつだった。この嘘は良くなかったんだと思って、急いで訂正した。
「ごめん、うそでしたー」
照れ隠しにおばあちゃんに飛びつく。ふっくらとして、柔らかい肩にほっぺをくっつける。
「まあさやちゃんありがとねー。別に幽霊いてもおばあちゃんのが強いからやっつけちゃうからね」
…あれ、うまく伝わってない。
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