SHIRO番外編✳︎絵本から出てきたお姫様✳︎
後編...
エルゼレーヒはぶつぶつ怒りながら歩いていました。
しろは声をかけようか迷っていましたが、急にエルゼレーヒが振り返り
「あなたたち、なにを黙ってついてきているのよ。あの国の小人たち、このわたくしに失礼な言葉を言ったのよ。それなのに、なんでそのままにしてきたのよ。」
「このエルゼレーヒに恥をかかせるなんて、役立たずの家来ね。」
その言葉を聞き、くろがエルゼレーヒの前まで飛び出しました。
「あなたが勝手なことばかりしてるから、みんな嫌な気持ちになってるんだよ。お姫様だから言いたくなかったけど、でももう我慢ならない。あなたの家来もはじめから嫌だったんだ。」
「なんですって?」
くろとエルゼレーヒが睨み合いました。
「待って、ふたりとも。」
しろが間に入りました。
「はぁ、どこに行ってもこうだわ。だったら花の王国から出なきゃよかったわ。」
エルゼレーヒがため息混じりに言うと、とぼとぼとまた歩いて行ってしまいました。
くろはもう後を追おうとはしませんでした。
しろはどうしたら良いか迷ったまま、その場から動けませんでした。
「ぼくは言いすぎてしまったかな?」
しばらくして、くろが言いました。
「ううん、そんなことないよ。」
しろはそう言うので精一杯で、続いて言葉が出てきませんでした。
「エルゼレーヒ姫、どこに行っちゃったかな。」
くろが言いました。
「気になるの?」
しろが尋ねました。
「うん、そうだね。わがまま言いたい放題だったけど、いま知らない場所にひとりぼっちなわけだし、それに、なんか前のぼくと似たような部分を感じるんだ。」
「似たような部分?」
「うん、なんていうか、少し寂しそうだなって。これ、本人の前で言ったらまた怒られそうだけど。」
「うん、そうだね。これから、どうしようか。」
くろは少し考え込んだ後、
「エルゼレーヒ姫のこと、探そう。」
と言いました。
「よし、そうこなくっちゃ。」
しろも元気よく答え、それからふたりでエルゼレーヒ姫を探しに行くことにしました。
エルゼレーヒ姫がいた絵本の前を横切ろうとした時、ふいに声をかけられました。
「もしもし、そこのあなたたち。人を探しているのですが。」
みると小さな女性の兵隊がふたり、絵本から顔を出していました。
しろとくろは兵隊たちに近づきました。
「人を探してるって、もしかしてエルゼレーヒ姫のこと?」
しろが尋ねました。
「おお、エルゼレーヒ姫様を知っているお方でしたか。そうなのです、姫様が城を出ていってしまい行方不明なのです。
花の王国中を探しましたが見当たらず、ここを見つけたものでもしやと思いまして。」
「エルゼレーヒ姫はこっちに来ているよ。ぼくはしろ、隣にいるのはくろ。ぼくたちはさっきまでエルゼレーヒ姫の家来になってたんだけど、揉めちゃって。ちょうどぼくたちも探してるところなんだ。」
「そうでしたか。」
兵隊たちが絵本から出てきました。
「申し遅れました、わたくし花の王国エルゼレーヒ姫様側近の兵士パンジーとビオラと申します。」
絵本から出てきた2人の兵隊は深々と頭を下げました。
しろとくろもあわてて頭を下げました。
「エルゼレーヒ姫様がお一人でどこかへ行ってしまったことなどこれまでなかったもので。私たちもあわてております。
姫様にもしものことがあったらと気が気でないのです。
姫様がどちらに行ったか、わかりますか?」
「ごめんなさい、ぼくたちもはぐれてしまって場所がわからないのです。」
「そうですか、大変申し訳ないのですが姫様を探すのを一緒に手伝っていただけないでしょうか。こっちの土地に慣れていないもので。」
「もちろんです。」
しろがすぐ答えました。
「ありがとう。」
こうしてしろとくろとパンジーとビオラは揃ってエルゼレーヒ姫探しを始めました。
歩いている途中くろがパンジーとビオラに尋ねました。
「ねえ、どうしてエルゼレーヒ姫は自分の国から出て行ってしまったの?」
その問いにパンジーが答えました。
「お恥ずかしい話ですが、実は我々が原因かもしれないのです。
エルゼレーヒ姫様はいつも城の中で習い事をしたあと、おひとりで遊んでいらっしゃいました。よく遊びに誘われたこともあったのですが、我々にも仕事があり、しかも姫様の遊び相手などおそれおおくて出来ず断り続けていました。
何度かそんなことが続いたある日、その日も同じように断りをいれたのです。するとエルゼレーヒ姫様が突然怒り出してしまって、その後からです。姿が見えなくなってしまったのは。」
「姫様はまだ幼いですが、いずれ花の王国を治める日がきます。その期待や不安、孤独がずっと姫様を苦しめていたのでしょう。今になって我々がきづくとは側近の兵として失格です。」
ビオラが悲しそうに言いました。
しろとくろはそれを聞き、顔を見合わせました。
「やっぱり、エルゼレーヒ姫は寂しかったんだ。」
くろが言いました。
「エルゼレーヒ姫を探そう。」
珍しくそう言うとくろは先頭に立ち、歩き始めたのでした。
「もう、どいつもこいつも何なのよ。」
一方そのころエルゼレーヒはぶつぶつと言いながら歩いていました。
ただだんだんと怒りはおさまり、代わりに心細い気持ちになっていました。
知らない場所でたったひとりで行くあてもなく歩いていたからです。
我を忘れて歩いてきてしまったので、帰り道がどっちかもわからなくなっていました。
はぁ、、、
ため息をついてエルゼレーヒはその場に座り込みました。
足も心もズキズキと痛みました。
本当はもっと素直に話したいし、優しく接したいのです。
しかし姫として崇められるようになるにつれ、自分が皆の期待を背負っているというプレッシャーに追い詰められたまま、気づけばどう皆と接していいかわからなくなっていました。
そうしているうちにだんだんと国の皆が声をかけてこなくなっていったのです。
「もう姫をやめてしまおうかしら。」
エルゼレーヒはそう言うと頭についていたティアラをとり、じっと見つめました。
あんなにお姫様に憧れていたのに。
そう考えているうちに、勝手に涙が溢れてきました。
その涙が流れてしまわないよう、あわててエルゼレーヒは目をこすりました。
と、その時です。
その声はとても小さな声でした。
はじめは聞き間違いかと思いましたが、その声は次第に大きくなってきました。
「エルゼレーヒ姫!どこですか?エルゼレーヒ姫。」
エルゼレーヒを呼ぶ声がするのです。
エルゼレーヒは思わず立ち上がりました。
「ここよ。わたくしはここよ。」
自然とエルゼレーヒも声を出していました。
そして声のする方へ走り出していました。
しばらく走ると、前方から見慣れた生き物が見えました。
「いた。こっちだ!」くろが言いました。
続いてしろと、パンジーとビオラが見えました。
「エルゼレーヒ姫。」
パンジーとビオラが同時に叫びました。
そしてエルゼレーヒ姫はその2人に向かって飛びついていました。
パンジーとビオラは勢いよく飛び込んできたエルゼレーヒに驚きつつも、優しく受け止めました。
「エルゼレーヒ姫、ご無事でよかったです。」
「もう、来るのが遅すぎよ。」
エルゼレーヒは相変わらず厳しい口調で言いましたが、涙が抑えきれず流れていて声は震えていました。
しろとくろはその姿を見てほっとすると顔を見合わせ、ほほえみました。
それからしろたちは絵本のところまで戻ってきました。
その道中しばらくの間誰も話しませんでした。
すこししてまず口を開いたのはエルゼレーヒでした。
エルゼレーヒは前に進み出ると言いました。
「みんな、聞いてくれる?
あなたたちに話したいことがあるのだけど。」
「うん。いいよ。」
誰よりも早く返事をしたのはくろでした。
エルゼレーヒはくろをじっと見つめた後静かに
「ありがとう。」
と言いました。
絵本まで着き、絵本に皆は腰をおろしました。
エルゼレーヒが話し始めました。
「わたくし、さっき1人になって考えていたの。花の王国の立派な王女になろうとこれまでがんばってきたのに、頑張り方を間違えていたのかもしれないって。
完璧な王女になれたとしても、話し相手や友達がいなかったらとっても寂しいって。
勝手よね、今まであなたたちやたくさんの人に厳しいことを言って怒らせてきたのに、友達が欲しいだなんて。」
エルゼレーヒは拳をぎゅっと握りしめました。
「うん、そうだね。都合が良過ぎるね。」
くろが言いました。
くろの厳しい言い方にあわてて、パンジーとビオラが言いました。
「エルゼレーヒ姫様は心細かったのです、寂しい思いをさせたのは我々側近の家来や国の民です。エルゼレーヒ姫はなにも悪くありません。」
「いや、それはちがうよ。」
くろが言いました。
「仮にエルゼレーヒ姫が寂しかったとしても、誰かを傷つけていい理由、許される理由にはならないってぼくは思う。そのままじゃずっと寂しいままだし、友達もできないよ。家来や国の人たちがエルゼレーヒ姫を守ったって、エルゼレーヒ姫のためにはならないんじゃないかな。」
「わたくしは誰かに守ってもらいたいと思わないわ。わたくしが招いたものだもの。」
エルゼレーヒが言いました。
「ねぇ、くろ。わたくしはどうしたら良いのかしら。」
「簡単さ。今までのことを謝って、これからはいまより素直に生きたらいいんだよ。」
「でも姫様にそれができるかな。自分より身分の下のものに謝るなんてこと。」
くろがそう言うとチラリとエルゼレーヒを見ました。
エルゼレーヒは真剣な顔でくろを見つめていました。
それなら大きく深呼吸をしました。
「わたくし今まで傷つけた者たちに謝りたいわ。そして花の王国のもの皆と友達になれるなら、なんでもするわ。」
それからエルゼレーヒは頭を下げました。
パンジーとビオラはあわてて立ち上がり頭を下げるエルゼレーヒを止めようとしましたが、寸前で思いとどまりました。
「まずはあなたたちに謝らなければならない。こんなに親切にしてくれていたのに傷つけてしまって嫌な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。」
そう言った後、エルゼレーヒはおそるおそる顔をあげました。
「姫様、我々はまったく気にしておりません。
エルゼレーヒ姫様が笑顔でいられるなら、我々はなんでもいたします。あなたに支えてからずっとそう決めていましたから。」
パンジーとビオラが言いました。
「ありがとう。これから、積み木の国と花の王国に行きたいのだけど、一緒に来てくれるかしら。」
「もちろんです。」
それからしろたちは積み木の王国に再び向かいました。
エルゼレーヒを見て嫌な顔をする小人や、関わるのを嫌がるようにすぐ立ち去ろうとする小人もいました。
その小人たちに向かってエルゼレーヒは謝りの言葉を告げ、頭を下げました。
その隣でパンジーとビオラも頭を下げました。
謝るエルゼレーヒに小人たちは戸惑っていましたが、謝るエルゼレーヒのからだが震えていることに気づき
1人、またひとりとエルゼレーヒに寄り添いました。
その中には怒りの言葉をぶつけた老人小人の姿もありました。
それからエルゼレーヒは機関車に乗り小人たちに案内されて、積み木の王国を見てまわりました。
「美しい国ね。これをみんなでつくってきたのね。」
エルゼレーヒが言うと、小人たちは嬉しそうに笑いました。
帰り際小人のトッピーが言いました。
「エルゼレーヒ姫様、またあそびに来てください。姫様が次来てもいいように姫様の家を作っておきます。」
「いいの?」
「もちろんです。姫様が住んでいるような立派なお城はできないかもしれませんが。」
「ううん、それでいいの。わたくしここでは姫ではなくあなたたちの友人としていたいから。」
それを聞いて小人たちは飛び跳ねて喜びました。
「エルゼレーヒ姫様の友達なんて光栄です。遊びに来てくれるのを待っていますね。」
皆が見えなくなるまで、小人たちは手を振って見送っていました。
絵本の前でエルゼレーヒは言いました。
「しろ、くろ。本当にいろいろとありがとう。
あなたたちのおかげでわたくし素直に生きられそうよ。」
「ぼくたちはなにもしてないさ。エルゼレーヒ姫が勇気を出したからだよ。」
くろが言いました。
「あなたたちのこと一方的に家来なんて言ってしまって本当にごめんなさいね。よかったら、これからは1番の友人でいてほしいわ。」
「うん。」くろが言いました。
「またあそびにきてね。」しろが言いました。
エルゼレーヒとパンジー、ビオラは見えなくなるまで手を振り続けていました。
手を振るエルゼレーヒの顔は、まぶしいくらいの笑顔でした。
その後エルゼレーヒは花の王国でも国の民に謝って回り、それからは王女という身分を忘れたかのように城内でコックや家来や召使いとおしゃべりしたり、街に出て行って国の民と遊んで暮らしました。
そして花の王国で愛される王女になったのでした。
✳︎ひとこと✳︎
最後まで読んでくださり、ありがとうございます💐
素直になれない時、寂しさを誰かにぶつけてしまう時ってあるんじゃないでしょうか。
自分に余裕が持てない時って、周りに強く当たってしまう、でまた後悔するみたいな😅
たとえば弱みを見せないで、思ってることを押し殺して関係性を築けたとしてそれは本物ではないかもしれないし
素直になって、弱い自分をみせてはじめて大切な存在に気づくこともできるかなと思います✨
ほんとはどんな人なのかな?
どんな葛藤をしてるのかな?
ってその人の裏側や本質の部分もわかろうとする努力を。
また意地を張ってしまう、寂しいのに素直になれないって時はたった1人心許せる誰かにほんとの心を打ち明けてみるとなにか変わるかもしれません。
自分のことも、目の前の相手のことも許し合ってもっともっと優しい時間が流れますように🌷
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