SHIRO ✳︎歌う人形の物語✳︎
しろとくろは大きな二階建てのお家にやってきました。
広いキッチン、お風呂にトイレ、大きな食器だなの中にはたくさんお皿とカップが並んでいます。
花柄の壁に白いカーテンといかにも女の子が好きそうなお家でした。
誰かいないかなとしろがのぞきこむと
「あら?こんにちは。」
と後ろで声がしました。
振り向くと、花柄のワンピースを着た女の子の人形が立っていました。
「こんにちは。」
しろが挨拶を返すと女の子の人形は嬉しそうに
「お客さんなんて久しぶりだわ。
お茶とケーキを用意しなくちゃ、よかったらあがっていって。」
と言って、しろとくろをテーブルに案内しました。
案内されるがまま、椅子に腰掛けると女の子の人形が
「ベル姉さん!ベル!どこなの?お客さんよ!」
と誰かを呼んでいるようでした。
しばらくして、足音がしたかと思うと3人の人形が入ってきました。
しろはその3人を見てびっくりしました。
なんとその3人とも、色違いの花柄のワンピースで髪型も顔もそっくりだったのです。
「あら、いらっしゃい。お客さんなんて久しぶりだわ。」と1人が言い、
「お茶とケーキを用意してお茶会しましょう。」と1人が言いました。
えっと、、としろが戸惑っていると、案内してくれた女の子の人形が
「ああ、紹介がまだだったわね、
私たちみんなベルと言うの。
お姉さんとかベルちゃんとか、、みんな呼び方を工夫してるわ。」
みんななまえが一緒だ、、、
しろが驚いていると、それに気がついた案内役のベルが
「みんななまえが一緒だから戸惑うわよね。
でもみんな一緒なのよ。」
と笑顔で言いました。
それからカップを人数分並べて、キッチン横の冷蔵庫からケーキを取り出してテーブルに置き、
「あ!ねこちゃんにはミルクがいいかしら?」
とくろに声をかけました。
「あっおかまいなく。
どちらかというとブラックコーヒーが好きなんだ。」
くろが答えると
「ブラックコーヒーはないわね、ごめんなさいね。」
と案内役ベルがさらっと言いました。
それから、そのままベルたちも席に着きお茶会がはじまりました。
話題はしろやくろがどこから来たのか、しろの見た目が不思議だったようでたくさん質問が飛んできました。
その質問に慌てながら答えていましたが、1人の黄色い花柄ワンピースのベルがひとり会話にあまり参加せずにいることに気がつきました。
しばらくしてその黄色いベルが
「ごちそうさま。わたしちょっと先に部屋に戻るわ。」
と言って立ち上がりました。
「ベル、お客さんいらしてるのだから、ゆっくりしていってはどう?」
赤いベルが声をかけましたが、その呼びかけには応えず黄色いベルは部屋から出て行ってしまいました。
黄色いベルが見えなくなると、赤いベルがふぅとためいきをついて
「ごめんなさいね、あの子気が利かなくて。最近ずっとあの調子なのよ。」
といいました。
「なにかあったの?」
しろが尋ねると
ベルたちは顔を見合わせて言うかどうか少し迷っていたようでしたが
「じつはね、、、」と話し始めました。
「困ったことに、、あの子ベルでいることが嫌なんですって。」
「え、どういうこと?」
しろが驚いて聞き返しました。
「びっくりするわよね、自分でいることが嫌だなんて。私たちも不思議で、、でもずっとあんな感じだから私たちも困っているのよ。
ベルでいることが嫌と言っても、、私たちはベルじゃない?だから、、、」
青いベルは一生懸命話していましたが、自分で話して混乱しているようでした。
「あぁ、ごめんなさい。
自分でいるのが嫌だなんて、考えたことがなかったからわからないわ。
きっと気まぐれで言ってるのだと思うの。
少し経てばまた元のように過ごせると思うのだけど。」
「ぼく、話聞きに行ってみてもいいかな?」
しろが尋ねました。
ベルたちは驚いた顔をしたあとに
「ええ、別に構わないけれどあの子ちょっと様子が変だから、、ご迷惑になってしまうかもしれないわ。」
と言いましたが
「ううん、大丈夫だよ。
もしかしたらなにかわかるかもしれないから。」
しろはそう言って椅子から立ち上がり、くろに目でいこうと合図をしました。
くろも小さく伸びをしたあと、
「変な人ほど面白い話をしてくれるかもしれないね。」
と言って、しろの後をついていきました。
おうちの2階は1人1人の部屋になっているようで、黄色いベルの部屋はすぐにみつかりました。
部屋の扉にそれぞれそのベルの花柄の色の表札が下げられていたからです。
しろは黄色い表札の下がった扉をノックして声をかけました。
しばらくすると、扉がゆっくりと開いて
浮かない顔の黄色いベルが顔を出しました。
「きみの話をすこし聞きたいと思って、、。
入ってもいいかな?」
とおそるおそる尋ねると
黄色いベルは少し部屋を気にしていましたが
「ええ、どうぞ。」
と言って扉を開け、しろとくろを招き入れました。
黄色い花柄のベッドに白のカーテン、机に鏡に洋服ダンスが並ぶその部屋は優しいメロディーが流れ、壁にはさまざまなポスターが貼られていました。
流れていた音楽を消し、黄色いベルがしろとくろに座るよう促しました。
「さっきはごめんなさいね、気を悪くしてしまったかしら。」
黄色いベルが悲しそうに声をかけました。
「ううん、僕は平気だよ。急に来てしまったしね。」
それから少し間をおいて、言うべきか少し悩んだ後
「きみこそ、、大丈夫?元気がないみたいだけどなにか困っていることがあったりするの?」
とおそるおそる尋ねました。
黄色いベルはその質問に目を見開いて、驚いた表情を見せしばらくしろの顔を見た後、言うべきかどうか悩むように目を逸らし考え込みました。
「きみが最近変だって、下の階のベルたちが言っていたよ。」
くろが投げかけると
「変だなんてそんな!
変なのはベル姉さんたちの方よ!」
と立ち上がって、黄色いベルが言いました。
「あ、、ごめんなさい。つい、、
姉さんたちはなんと言っているの?」
「えっと、、きみがベルでいるのが嫌だと言っていたって。」
しろが答えると
「そうね、それは間違いないわ。」
黄色いベルが落ち着いてそういうと、それから話はじめました。
「あなたたちも不思議に思ったかもしれないのだけど、私たちみんなベルって名前なの。顔も似ているし、洋服も色違いだしほとんど見分けがつかないくらい似ているの。
姉さんたちはそれがとても嬉しいと言っているのだけど、私は嫌なの。
似たような服を着て毎日おなじ生活で、それが嫌なの。」
それからその後を言うべきか悩んだ後絞り出すように
「私ね、やりたいことがあるのよ。
だからみんなと同じは嫌で、だからベルであることが嫌なのよ、、、。」
と消え入るような声で言いました。
黄色いベルの叫びをしろとくろはじっと聞いていました。
言い終えるのを待ってから
「きみの、、やりたいことってなんなの?」
としろが尋ねました。
黄色いベルはそれも答えるか迷うようでしばらく黙っていましたが、
「わたし、歌が歌いたいの。」
と言いました。
「とってもいいじゃない!
きみの歌、ぼくも聴いてみたいな。」
しろが言うと、黄色いベルはあわてて
「だめよ!だって、、、自信がないわ。
姉さんたちに反対されるかもしれないし、他の人にも、、馬鹿にされてしまうかもしれない。
聴いてくれるお客さんだっていないし
きみの歌好きじゃないなんて言われたらわたし耐えられない。
だから、ベルでいることは嫌だけどでもきっとどうしようもないの。」
黄色いベルはもう泣きそうな顔をしていました。
しろはこれからかける言葉をひとつひとつ大切にしようと、ゆっくりいいました。
「きみのこと、誰も反対なんてしないよ。
だってきみはベルだけど
お姉さんたちも顔が似てるかもしれないけど
でもきみと同じ人は存在しないんだよ。
音楽が、歌が大好きなベルはきみだけなんだよ。
だからきみはきみが思うまま、なにをしたっていいんだよ。
それに、ベルって素敵な名前だと思う。
だってベルってすてきな音色だものね、聴く人を幸せな気持ちにしてくれる。
歌が大好きなきみに、ぴったりじゃないか。」
しろの言葉を聴きながら、黄色いベルはポロポロ涙を流していました。
しろはそれを見て慌てて、どうしようとくろの顔を見ましたが、くろは
大丈夫と言うように優しく微笑んだだけでした。
「ありがとう。そんなふうに考えたこともなかったし、初めて言ってもらえたわ。
あなたの名前は何て言うの?」
「ぼくの名前はしろだよ。
見ての通りぜんぶ白色でしょう?」
おかしそうにしろが言うと
「ふふ、そうね。
でも素敵な色だわ。私白色すきよ。」
黄色いベルが涙を拭きながら小さく笑い、言いました。
「もしよかったら、、、
わたしの歌、聴く最初のお客さんになってくれる?」
「もちろん!」
しろの答えに、黄色いベルはほっとした表情をして微笑みました。
黄色いベルはベッドの上に立ち、すーっと深く息を吸い込みました。
正直怖い、、誰かに自分の歌を聴いてもらったことなんてない。
これで聴かなきゃよかったってなったらどうしよう、嫌そうな顔を見たら歌い続けられない。
不安だけど、、でもこれを逃したらもう歌を届けるチャンスはないかもしれないわ。
がんばるのよ、ベル。
勇気を出して。大丈夫、できる。
心の中で黄色いベルは自分に言い聞かせ、震える手をぎゅっと握って歌い始めました。
歌い終え、しろたちの顔を見ると
しろたちは唖然としていて、しばらく無言でした。
あぁ、やってしまったんだわ。
黄色いベルが激しく後悔し恥ずかしさで顔を隠そうとした瞬間
「すごい!!とても綺麗な声だね!!
感動したよ!!」
すかさずしろが大きな拍手と共に声をかけました。
そして、その拍手はずっと鳴り止みませんでした。
「きみの歌、とっても素敵だよ。
もっとたくさんの人たちに聴かせてあげられたら、、きっとみんな幸せな気持ちになるんじゃないかな。」
それを聴いてまたベルの目から涙が出ました。でも今度の涙は安心できて嬉しい気持ちからでてきたものでした。
「ありがとう。本当に。
はじめてのお客さんがあなたたちでよかったわ。」
しろと黄色いベルは微笑み合いました。
歌を終え、部屋を出ると部屋の外にベルたちが立っていました。
出て来たしろたちと出くわし、気まずそうにしていましたが
青いベルが進み出て
「ベル、、今の歌あなたが歌っていたのよね?」
と尋ねました。
「えぇそうよ、ベル姉さん。わたし、、本当は歌が歌いたいの。
みんなと同じもいいかもしれないけど、でもわたしもっと自由でいてもいいと思うのよ。
それを、、、しろたちが教えてくれたわ。」
黄色いベルは絞り出すように
でも歌う前より自信を持って言いました。
でも言い終えてから、反対されるかもしれないという恐怖を思い出し、また手をぎゅっと握りしめました。
「あなたの歌が聴こえたの。
わたしたち、思わずあなたの歌に聴き入ってしまったわ。
ベル、あなたの歌とっても素晴らしいじゃない。
これからはたくさんあなたの歌を聴いてもらいたいって思うわ。
あなたの気持ちに気づかず、強く当たってしまって今までごめんなさい。
これからはあなたのことを応援させて。」
赤いベルが進み出て、黄色いベルを優しく抱きしめて言いました。
「そうね、お客さんをおうちにたくさん呼んで、コンサートとかできたら素敵だわ。」
「わたしたちも、もっとあなたの歌を聴きたいしね。」
青いベルも緑のベルも言いました。
「みんな、、ありがとう。」
黄色いベルが他のベルたちに囲まれて、温かいメッセージをもらえている姿をしろとくろは嬉しそうに見ていました。
それからのベルたちは、黄色いベルの影響もあり生活が変わっていきました。
まず呼び方を変えてみたり、服もお揃いの花柄のワンピースだけではなく、他の服も揃えて着るようになりました。
部屋もそれぞれ家具やカーテンを好きなものにして、置くものも変わりました。
髪型も化粧もそれぞれ変えてみたり、青いベルは料理を赤いベルはガーデニングを緑のベルは縫い物をたくさんやるようになりました。
みんなそれぞれ、やってみたいことを楽しむようになったのです。
そしてお家にたくさんのお客さんを招き、用意したステージで黄色いベルが歌をうたうコンサートをするようになりました。
その時に黄色いベルが決まって着る衣装は、髪に黄色い花とベルのついた飾りと、白いワンピースでした。
✳︎ひとこと✳︎
最後まで読んでくださり、ありがとうございます💐
SHIROの物語を書き始めたとき、1番最初にうまれたのがベルの物語でした。
やりたいこと、挑戦したいことがあるけど、自分ひとりだけ周りと違うことをする。
それが怖かったり不安だったり、
いざやろうとしたら反対されたりマイナスなこと言われたり。
新しいことに挑戦しようとするとき、全部がすぐうまくいくわけじゃないし
様々な不安と戦っていく場面も出てくる。
そんなときしろやくろのように後押ししてくれる、応援してくれる存在がいたら
出せずにいた一歩が出せるかもしれない。
そして、一歩出たらそこから世界が変わっていくかもしれない。
そんなメッセージを込めた物語です。
次回もお楽しみに😌
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