幼なじみの奇行
ぴよこ谷はわりと貧民区にすんでたので、ヤベェ生き物はだいたい友達です。
ヤンキー、暴走族、暴走族狩り、少年院卒、戸籍のアレな人等
その中で、奇行の激しい友人をいっちょあげておく。
属性、オタク。
ちょっと夢女。
2つ年上。
ぴよこ谷は極めてオタクで、一過性の友達は簡単に作れるけど、長期友達は作れないタイプ。
行動力があったから、一人でライブ行くし、同人誌頼まれたら原稿描くし、ゲーセンも一人で行くし、オフ会で酒飲んでゲラゲラ笑ったりしてる。
わりと人を振り回す悪い人。
友人は先に書いたけどオタク。
知り合ったのはサークルスペースが隣だったくらいという事で茶を濁す。
年上だけど、あんまり年齢とかわかんない感じの人。
距離感がおかしいから、友達は近距離では出来ない人。
遠距離のネトゲやオンラインで遊ぶには大丈夫なタイプ。
友人関係が続いているのは、その友達が気が長くて私と縁を切れば近距離で遊べる友人がいなくなるからだろうと思われる。
金で頬を叩くような縁の切り方をしたけど、それは別件。
同人誌というものを描いたりしてた。
まぁ普通に絵は描けた。
多分今も下手ではない。
けど上手くはないので普通。
だから二昔くらい前だと、「あの人絵を描くの早い」「背景描いてる」「めっちゃ気安いな」くらいで、ガンガン友達は増えるわけです。
絵描きのコミュニティとかは人格とかじゃなくて、絵を描くかどうかで強さが決まるわけです。
それで会員制サークルとかだと、返事をきちっとするだけでいい人扱いです。
そのコミュニティに彼女も属してたので、イベントの度に「ぴよこ谷と私は仲良し」ってアピールしてた。
絵描きの集まりの中では、絵がかけるか描けないかでカーストが決まるのは属していればわかるだろうけど、下流は本当にしんどい。
ぴよこ谷は絵自体は下流でいても、漫画のコマワリが出来て、ストーリー漫画も四コマも描けたんで、別にコンプレックスもなく、自由にしていた。
そのうち絵を書くよりネトゲにハマったんで、仕事の時間以外はほぼネトゲ廃人になって、休日は朝から晩まで一狩りどころか延々と狩ってた。
上手くはなかったけど、誰かと遊ぶのタノシーで、すっかり絵は忘れた。
けど、彼女は私の投げ捨てた世界でそれなりに努力をして、友達を作ったりしていた。
狭いコミュニティなんだし、誰もプロレベルはいない馴れ合いの場で、それでも頑張っていた。
ぴよこ谷は人間として上等に出来てないので、努力とか続かないのに、彼女は毎回イベントで本を書き続けた。
そこは素直に尊敬するし、逆に彼女がそういう人でなければ絵描きとしての私は彼女に興味を持たなかった。
人の目と無関係に常に努力が出来る人である。
まぁ努力しても上手くなるかとか、人目を引く絵が描けるかは別なので、彼女は未だ私より下手である。
なのでちょっとややこしいことが起きた。
「ぴよこ谷さんはもうゲストに呼ばないの?」
多分屈辱だったんじゃないかなぁと思う。
それでも心根の優しい彼女は、「友達が評価されてるの嬉しい」みたいな記録を残してて、ド屑な私もさすがにホロッときた。
彼女は本来、とても誠実な人である。
他人との距離感がおかしくて、人間関係を構築するのが苦手なだけで、他人の没落やら不幸を喜ぶような所が少しもない。
初対面で隣のスペースの私に「サンドイッチもう食べないならもらって良いですか」なんて、気の狂ったような事を言うてきた変な人だけど。
他に売り子も居らず一人でスペースに居ればお腹すくよねと、ドン引きしたけどいきなり食ってたわけではない。
赤の他人の歯形のついたサンドイッチを狙うとか、正気かどうか以前に意味不明過ぎる距離感だし、ペットボトルの回し飲みすらイヤな私には完全に異世界だった。
彼女からすれば、マクドでナゲットのソースを他人の物を使っても自分の分を差し出したのにブチギレるような生き物は想定外だったらしい。
創作物以外の人間性において、私は屑だが彼女はデリカシーというものを持ち合わせていなかった。
嫌いだから会いたくないと言わずにすむように、私だってわざと彼女を困らせるような事もした。
若気の至りと許してくれるのが彼女のおおらかさだというか、なんも考えてねぇだろって気もしないけど悪いやつではないんだ本当に。
異文化過ぎて気が狂いそうになるだけで。
なんだかんだ言いつつ仕方ねぇなぁって原稿の依頼を受けた。
ここでこの手のオタク文化を知らない人に向けて、変な例で例える。
同人誌即売会やら本ってのは、言うたらお茶会ですね。
私の好きなケーキをみんなで食べましょうって、オウチを解放するようなものです。
お茶会に呼ばれたからって必ず参加しなきゃならないわけでもないし、好きじゃないなら食べなくても良い。
それぞれ手持ちで自分の好きなものをもって行きます。
彼女から、私は「次のお茶会にケーキ焼いて欲しい」って誘われた感じですね。
ぴよこ谷さんがケーキ焼くよって、もう事前に友達に言っちゃったとか事後報告で言われたようなもんです。
ケーキ焼かないのが一番私には楽な選択肢ですけど、そうすれば彼女の面子が立たない。
「美味しいって評判なの」なんて言われたら焼くよね。
材料費かけて焼いた。
そして原稿持ってったんですよ。
わー、嬉しい。
ありがとうって喜んでもらったわけですね。
久々で下手になっててすまんね、とか謙遜しつつ。
そして言われた「じゃ、印刷代下さい」。
は?
さっきのお茶会の話に戻る。
ケーキ焼いてとたのまれた人間が、材料費かけて焼いてる。
ケーキはお金がかかるくらいは、彼女だって同じ作り手だから知ってる。
普通のヒトだと金一封とまではいかなくとも、材料費は出してもらえる。
それを「ケーキ飾るお皿買うから出して」とか言われたようなものですね。
私、そのお茶会に参加しないのにな。
一方的搾取もええとこやないけ。
百歩譲って私がやりたいとか、試したいことがあってその場を借りたならお金払うのはいいよ。
あと事前に言われてたらね。
参加するのにお金かかりますよって。
描いてくださいってお願いしてきた立場の人間が、なんで金までもってゆくのか?
十代ならまだしも、あなたも私も三十路超えてるよね?
その考えがさっぱりわからん。
彼女は「頁割りだから。スペースはこっちで持つし」とか、さも自分が面倒全部受けるみたいな事で恩着せがましく言うてきてな。
は?
言うたらこちとらゲストやぞ?
その場で原稿捨てるぞって気にもなったし、なんで貴様の私との仲良しアピールの為に金払わねばならんねんと、だからあなたは友達が出来ないんだよと思ったけど、小銭払って「呼ばれても二度と描かない」と宣言して、私のお絵描きライフは終わった。
一事が万事そんな感じだったので、そりゃ友達出来ないわなぁという人でした。
お金というか、相手への気遣いって大事だよね。
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