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ラペの桃コース、松岡正剛さん逝去、後継者問題 / ポッドキャスト『投資家の日常は、いとをかし。』 #18 2024年9月 後編 テキスト版

前編はこちら

以下はこちらのポッドキャストのテキスト版でする



三越前フレンチ「La paix」の季節限定・桃コース

renny:前編は投資の話から始まって最後にスルメイカやサンマの漁獲量の減少のお話をさせていただいたんですけれども、このポッドキャストでは、吉田さんの美食のお話をしていますが、今回も最近訪れられたお店のお話をしていただけるということで。

吉田:今月は三越前「La paix(ラペ)」というフランス料理店で季節限定の桃コースを食べてきました。

renny:桃のコースはなかなかあんまり聞かないですよね。

吉田:6~8月の時期は桃のコースをやってる店が結構あるんですよ。

renny:そうなんですか。桃ってそんな可能性があるんですね。僕は普通に桃のままで食べることぐらいしかあんまりなくて。子供の頃を思い出す、桃缶詰ぐらいかな。例えばどういう使われ方をされてるんですか?

吉田:風味にうまく甘みをつけるような感じで、桃の冷製パスタなんかは定番ですね。ちょっと塩を入れて塩味と甘みのバランスが絶妙みたいな感じで。あとはカルパッチョに混ぜたり、味の邪魔になることはないし、ちょっと変化をつけるための食材として使われているのかなと。

renny:同じように果物をテーマにコースが組み立てられているものって、桃以外にあったりするんですか?

吉田:そういえば桃以外にあんまり聞かないですね。

renny:桃が何でそういうふうなポジションを得たのかっていうのは、ちょっと気になるところですよね。

吉田:それは調べてみないと。ちなみに、この店に行ってみようと思ったのは、元々廃棄されてた桃を使ってあげよう、っていうことで始めたものだったらしいんです。シェフの故郷が和歌山県で、見た目が悪いだけで味同じなのに捨てられちゃってた桃を、通常の価格で大量に買い取って、それをコース料理にして提供しているという話を聞いて、応援したいと思ったんです。

renny:桃って和歌山でそんなに作ってるんでしたっけ?

吉田:全然イメージなかったんですけど、作ってるらしいんですよ。

renny:桃太郎だから岡山のイメージでしたがそうなんですね。廃棄されてた桃を再利用というか、それを生かすっていうようなことで始められてた、っていうことは季節定番のコースだったってことなんですか。

吉田:そうでしょうね。廃棄された桃を使うのは2010年頃からやられてたそうです。

renny:結構古くからやられてるんですね。

吉田:最近になってSDGsとか、アップサイクル、捨てられていたものに付加価値をつけて商品化みたいな話あるんですけど、そんな話が出るずっと昔からはこういう活動されてたお店だったんですよ。

renny:その桃のコースというかお店の印象はどんな感じだったですか?

吉田:品数多いのに重くなくてよかったですね。フランス料理ってカロリー高めでお腹パンパンになりがちですが、爽やかな感じの料理でした。桃のおかげかな。

renny:今回のお料理も和歌山の廃棄されるはずだった桃だったんですか?

吉田:今回は和歌山のではなくて、3ヶ月ぐらい桃のコースをやってる中で、前半は和歌山の桃が中心らしいんですね。産地によって収穫時期が違うので、今回最後の方だったので、新潟の桃を使ってましたね。

renny:新潟でも桃を作ってるんですね。

吉田:意外な産地が多いですね。

renny:僕はお店の名前を伺った時、フランス語で「paix(ペ)」は平和って意味だなっていうのを思い出しました。何年か前の大河ドラマ「いだてん」で東京オリンピックのテーマにしたものがあったときに、その前半のキーパーソン嘉納治五郎の役を役所広司がやってたんですけれども、「paix」って言葉を言いまくってたんですよね。だから、この桃のコースも平和とも繋がるのかなというふうにも思ったりしました。

水産資源の減少と未利用魚の活用

吉田:私が食べたときはそうじゃなかったんですけど、普段は魚料理に水揚げされても、料理に使いにくいからって捨てられちゃうような魚を、うまく料理して出してたりもするそうなんです。未利用魚って呼ばれてるらしいです。

renny:最近なにで見たのかな。未利用魚を商売にしてるとかっていうのは時々聞きますよね。レストランじゃなくても小売の店舗とかもやってたりはするとか。未利用魚って基本は漁獲量がそんなに多くないっていうことですよね。

吉田:そうですね。だからシェフがよっぽど力のある人じゃないと、日々見慣れない魚が届いて、どういう料理をしよう?って考えないといけないから、大変なことだと思います。

renny:本来使えるのに諸般の事情より使えない魚に価値をつけて利用できるようにするレストラン、ってそんなに数多くあるわけじゃないんですよね?

吉田:あんまりないでしょうね。でも海洋資源、日本周辺の魚が減ってきてるって危機感を持ってるお店の方ってのは結構今いらっしゃるようで。

renny:それさっきのイカとかサンマの話に繋がるような話ですよね。

吉田:料理人のみなさんの勉強会みたいのがあって、「Chefs for the Blue」っていう集まりがあるんですけど、実は最近、私もコミュニティに入れてもらって、さっきの漁獲量のデータはそこで教えてもらったものなんです。

renny:そうなんですね。

吉田:危機感を抱いている料理人が増えてきているので、そういうお店増えてくるんじゃないかな。

renny:漁に出て水揚げされる天然の魚もあれば、養殖魚もあるじゃないですか。養殖できる魚とできない魚もあると思うんですけど、やっぱりその養殖とかっていうのは一つの解になり得るんですかね。

吉田:高く売れる魚はおそらく養殖されるんでしょうね。私にとって一番問題なのは天ぷらの食材なんですよね。天ぷらでしか使われないような魚は養殖しても買い手が少ないから、天然のものに頼るしかないんですよ。

renny:使われる用途によっては養殖が広がらないってことになるんですよね。

吉田:そうですね。マグロとかはもういろんなとこが必死になって今研究してますよね。実現したらいい値段が付く魚なので。

renny:そうか、それこそキスとかは、なかなかそういう土台に乗っかってこないという感じですね。

吉田:天ぷら以外でほとんど使ってもらえないから。

renny:そうですね。天ぷらとフライぐらいしか思いつかないですもんね。前編でお話したスルメイカみたいに、30年ぐらいでもうそれこそね9割近く漁獲量が減っちゃう世の中なんで、これから20年、30年経ったら、日本の食文化も変わってしまいそうな感じがしますよね。

吉田:そうですね。問題なく捕れてるのは、鯛、ホタテ、ナマコ、みたいな話も聞きました。

renny:ナマコ?

吉田:ナマコは調理がしにくいのと、見た目がグロテスクでイメージがあんまり良くないっていう問題もあったりして、あまり使われてこなかったけど、これからどうやって美味しく料理して、みんなに受け入れてもらうか考えないといけない、みたいな話題が料理人の方から出てました。

renny:お魚食べる民族としては、辛い未来が待ってるかもしれないですね。地球温暖化が原因の一つだと思うんで、こういうところにこそ、お金使う意味あるんじゃないかと思ったりするんすけど、難しいもんですね。

松岡正剛さんを偲んで

renny:グルメのお話はこのあたりして読書のお話で、吉田さんがお世話になったっていう言い方がいいんですかね、そういう方が最近お亡くなりになったということで。

吉田:先月、松岡正剛さんが亡くなってしまってですね。癌になってもタバコをボコボコ吸い続けて、それでも80歳まで生きられたんで、長生きだったんだろうなとは思うんですけれども。この十数年、思わぬ本を手に取るきっかけをいただいてた方なので、考えを深める上での羅針盤を無くした感じで、こういうときはどう対応していったらいいのかな、っていうのは最近悩みですね。松岡さんもそうだし、まだ亡くなってはいないんですけど、将棋の羽生善治さんはタイトルを失ってから、著作物は出てこなくなっちゃったし。これから藤井聡太さんが本を書くようになったら、参考にできるのかもしれないけど、藤井さんはタイトル戦が忙しすぎて、本を書いてる場合じゃないし。自分にとって替えがきかない人がいなくなっていってしまうなと。

renny:そもそも松岡さんとの出会いというか、きっかけは何だったんですか。

吉田:テレビで見たのか、仕事関係で名前を知ったのか、多分同時ぐらいだったと思うんですよね。

renny:羅針盤というふうに思われるようになった理由って何なんですか。

吉田:あの方はありとあらゆる分野の本を読まれていて、何かの話をするにも、もっと詳しく知りたい人はこの本をと紹介してくれるので、それに従っていくと、自然と自分の知識もどんどん広がっていくみたいな。松岡さんを追いかけていると、知的好奇心を思わぬところまで広げてくれるような、そんな存在だったんですよ。

renny:いわゆるキュレーターって感じなんですかね。

吉田:そうですね。

renny:こんなところに行くとは思わなかったとか具体的な例は何かありますか。

吉田:一番単純な話だと、好きな歴史上の偉人は?と聞かれたら、大体多くの人は信長、秀吉、家康から選ぶみたいなところだと思うんですけど、私の場合は紀貫之だと思ってるんですよ。

renny:紀貫之は滅多に出ないですね。

吉田:一般的には紀貫之に関する知識って、日本史や古文の授業で「古今和歌集」をまとめた人で、女のふりして「土佐日記」を書いた人ってぐらいですよね。

renny:そうですね、それが普通だと思います。

吉田:松岡さんの本だと紀貫之は、漢字で書く漢文が主流だった世の中で、ひらがなの世界をくっつけてようとした人物。つまり、漢字とひらがな混じりの日本語の原型を作った人とも捉えられると。春夏秋冬の四季の感覚も、古今和歌集で歌を春夏秋冬に分けてたのが最初。それを編集したのが紀貫之。季節感の原型をたどると紀貫之で、本当にすごい人なんだなと。大河ドラマでやってくれないかなと思ってるんですけどね。

renny:でも今のお話を聞いててすごく不思議に思ったのは、英語っていうか、世界も基本季節を四つに分けますよね。Spring、Summer、Autumn、Winterって。なんで同じように四つになったのかな。

吉田:たしかに四季があるイメージのない場所なのに不思議ですね。

renny:今のお話だと紀貫之がある種人為的に季節を分けたと捉えるなら、4つの分け方以外の方法もあっていいんじゃないかな、と思ったりもしたんです。

吉田:たしかにそうですね。

renny:でも何かそういうような、普通とは違う発想で本を探すとかっていうようなところでは、松岡さんがすごくいい道しるべになられてたっていう感じなんですね。

吉田:そうですね。もう知ってることでも、その新しい見方を教えてもらえるっていう感じでしたね。

renny:そうなんですね。これから本を選ぶ際にどうするか? また考えなきゃいけないわけですね。

後継者問題は投資でも

吉田:やっぱそういう方が亡くなってしまうと、替えがきかないですね。投資の分野でも困ったな、って思いながらも十数年経ってしまった方がいて、ピーター・バーンスタインさん。「リスク」「証券投資の思想革命」「アルファを求める男たち」といった本を書かれてた方です。投資理論の最先端を分かりやすく紹介してくれる方だったので、2009年に亡くなって以降、情報が途絶えてしまったっていう感じですね。その後釜にあたるような人が見つからないままです。

renny:吉田さんでも今でも投資に関して、新しい何かと出会うことがあると思いますか?

吉田:あるんじゃないかな。脳科学と掛け合わせて研究してる人がいるとかいうのを聞いたことあるし。

renny:脳科学と投資ですか。

吉田:いろんな分野との融合がどうやら進んでいるようなんだけれども、それを取材して、分かりやすくまとめてくれる人がいないなぁと。

renny:脳科学って確かにわからないことはたくさんありそうだから、投資判断とか、そういうようなことに関わってくるとかそういう文脈なんですかね。

吉田:はい。それともう遅かれ早かれいなくなってしまうであろう、バフェットさんもあの手紙が読めなくなるとかってなると、これもまた大きな喪失だろうなぁ。

renny:そうですね。バフェットさんもこないだ誕生日を迎えられて94歳。

吉田:相棒の方は亡くなっちゃいましたし。

renny:マンガーさん亡くなられましたね。確かに替えが利かない人ですよね。バフェットさんも経営者というか投資家というか、その手腕を頼りにお金を託されてる存在なので、後継者がどうか?と考えざるを得ないようなお年ですよね。僕も今年の春先に出た、杉本貴司さんの「ユニクロ」って結構分厚い本を読んだんですが、柳井さんが中高校生ぐらいの頃のお父さんの話から始まってるのかな、それぐらい長い話で。あの会社も何回も後継者っぽい人が出てきてはいなくなり、ニデック日本電産の永森さんもですけど後継者問題が…。そういうのをうまくやってる会社って、何か思い当たる会社はありますか?

吉田:代表例はトヨタなのかな。何代かに一度、創業家の人がトップになって、っていうような感じですよね。ユニクロも柳井さんの息子さんが取締役には一応いるんですよね。

renny:そうらしいですね。ゴールドマン・サックスかなんかで働いていたお子さんが入られてるとか。

吉田:柳井さん本人が息子には継がせない、って公言しちゃってはいるんだけど、最悪、長男が継ぐんじゃないかなって見てます。

renny:最近ちゃんと見てなかったんですけど、創業系が社長やってる大きな会社いくつもありますけど、昔の記憶だと武田薬品はトップが創業家から外人の方に代わったり、いろいろあって、でも今は時価総額で第一三共に大きく後れ取ってしまってるんですね。

吉田:そうですね。武田薬品は最近、あまり名前を聞かなくなったなぁ。

renny:だから何か難しいんだなと。最近話題になったドン・キホーテのパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも、創業者のすごい若い息子さんが役員になったとかニュースになってました。代替わりを見据えてみたいな話なんですかね。今日の松岡さんの話じゃないですけど、後を継ぐみたいな人を吉田さんは探さなきゃいけないってことですよね。

吉田:そうですね。でもなんか難しそう。

renny:でも松岡さんが一緒に仕事されてたような方も、いらっしゃったりするんじゃないですか。

吉田:たくさんいるはずなんですよね。松岡さんは学校もやってたのでそこの卒業生とか。松岡さんは結構手広く事業をやっていたイメージがあるので。

renny:そういうところから新しい羅針盤になる方が出てくるかもしれない。

吉田:そうですね。

renny:こういう後継者の話ってなかなか上手くはまるものばかりじゃないから難しいですよね。バフェットさんにしても、柳井さんにしても、必ずどこかで代が変わるものですから。僕の場合は子供もいるから、投資家として残すものにそれなりのメッセージを込めたいな、とは思ってはいますけどね。そういうのはまだ考えなくてもいい年なのかもしれないけど、ちょっとずつ考えなきゃいけないなと思いました。

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