#月次レポート研究所 のポッドキャスト 2022年5月 第3回 テキスト版
引き続き私のプロフィールがテーマのポッドキャストをテキスト化しました。シリーズ全6回のうちの3回目になります。
renny:羽生善治さん本の中で一番参考になったのが「決断力」とのことですが、その勝負師としてのその決断というのは、やっぱり忍耐というか、自分の考えが正しいというのを信じるとか、手を尽くして準備をしてきて判断をしたのなら、少々のことでは諦めちゃダメとかいうような感じですかね。
吉田:うーん、少し違って。たとえば一番効率の良い一手を打ち続けることはできなくて、そういうのは積み積み上げていくと最後は悪い手になっちゃうとか、経験を積み上げていくと逆に恐怖が出てきてうまく手が打てなくなるとか。。。
renny:なるほど。そういう意味では先入観にとらわれない方がいいとか、そういうことなんですかね。
吉田:そうですね。先入観にとらわれないで、いかに柔軟に物事を考えるかっていうのを、羽生さんは強調しているのかな。羽生さんは将棋だけではなく、幅広い分野に関心を持っていて、NHKスペシャルでも最近は人工知能の話に出てきたりするし、なにか将棋以外のことを学ぶことで、本業にも生かそうみたいな、そういうことも考えている方なんですよ。だから私もなるべく投資や経済のことだけじゃなくて、なるべく幅広く勉強しなきゃ、と教わりました。本当にいろいろなことを羽生さんから学んだと思ってます。
renny:なるほど。僕も「決断力」を読ませてもらおうかなと思います。次に2006年5月に日経ビジネスの取材。これは日経マネーではなくて日経ビジネスだったんですか?
吉田:当時また投資が盛り上がり始めて、日経ビジネスの別冊版みたいのが株式投資をテーマで出た、みたいなときに掲載されたんです。
renny:それで人生で初めてのモテ期到来という、本当にそんなことがあったんですか?
吉田:これは私の鉄板の持ちネタですから。
renny:それは雑誌をご覧になって寄ってくる人がいたってことなんですよね?
吉田:そうですね。なんかもう漫画みたいな状況でしたね。
renny:そうなんですね。その雑誌が出てから時間を置かずにそういうような状態だったのですか?
吉田:そこから半年間ぐらいは結構すごかったです。
renny:そうですか。これで単なるお金儲けのためだけの投資は豊かな人生には繋がらないと気付かれたんですね。この雑誌に出た後からの顛末っていうのは、強く吉田さんの考え方に影響を与えたってことですね。
吉田:そうですね。この影響は大きかったんでしょうね。
renny:お金を持ってることがいいことだ、って価値観を持っている人が、このときは女性だったのかもしれないけど、そういう人がどんどん寄ってくるってことを、身をもって体験されたってことなんですね?
吉田:世の中怖いなぁと。
renny:何かここを掘り下げていくと、なんかもっとすごいお話をお聞きできそうなんですけど、また機会を改めてお聞きできればと思います。この次に段落に非上場会社の株式買取価格を巡る裁判を経験するってことで、これどういった経緯でこういう裁判に関わられることになったんですか。
吉田:これは、うちの祖父が元々中小企業の社長で、大半の株式はもう手放してたんですけど、10%ぐらいまだ手元にあって。本当はその会社の株を全部買って、自分で建て直したかったんですよ。税理士事務所で中小企業の経営に接する機会があって、自分でやりたいなと思ってたんです。経営権を握ろうと株を買い集めようとしたら、会社側が株主総会で株式に譲渡制限をつけるっていう議案を出してきたんですよ。その議案に反対した株主は、会社に株式を買い取ってもらえるという会社法の規則があって。そのルートに乗っかったところ、買い取り価格で折り合いがつかなくて、裁判所で株価を決めましょうみたいな流れです。
renny:すごいですね。この当時、上場企業がMBOとかして、少数株主を切り離しちゃうとか、牛角の会社とかの買取価格で裁判になったりしていたので、そういうことなのかなあと想像してました。そうじゃなくて、吉田さんご自身の関係されている会社でこういうことがあったんですか。
吉田:はい。
renny:僕はこのエピソードを拝見して思ったのは、やっぱり価値と価格って違うんだよなと思いました。吉田さんはこの裁判でご自身のその株式投資にこれは生かせるな、って思われたことって何かありましたか。
吉田:このときに会社側が出してきた裁判資料の企業価値の計算がDCF法だったんです。DCF法って経営計画や割引率を、ちょっと操作するだけで金額が簡単に変わってしまって。会社の時価純資産の30分の1ぐらいの価格で出してきたんですよ。
renny:それはひどいですね。
吉田:だからDCF法って使われ方によっては、使い物にならないもんだなってことを学びましたね。
renny:でもかなり酷いですね。特にまったく縁もゆかりもない会社だったらともかく、少なくともその今回の会社は吉田さんのおじいさんが経営されてた会社なんですよね。その積み上げてこられた純資産の一部は、当然おじいさんが、会社の事業運営されたときに積み上げてこられた部分も含まれてるでしょうし、それを何分の1とかになるっていうのはちょっと何かつらいっすよね。
吉田:はい。でもこういう経験ってなかなかできないと思うんで、貴重な経験というか、ありがたい経験だったんじゃないかなって思ったりもします。
renny:なるほどね。次に2008年。この年に2冊の本、坂本光司さんの「日本で一番大切にしたい会社」と中野孝次さんの「清貧の思想」に出会って、投資や人生の方向性を決めたとお書きになってます。それぞれどんなインパクトを受けたか、ここのプロフィールにも書かれてますが、改めてお話していただけますか?
吉田:それまでは会計情報を中心に投資をしてたんですが、この坂本光司さんの本は、会社の定性的な情報というか、社会活動の面に光を当てて、地域から愛される会社みたいなのを紹介していて、それまで自分はそういう面を見ないで投資をしていたな、って気づかされたというのがありました。
renny:ちなみにどういうきっかけで、この本を手に取られることになったんですか?覚えてらっしゃいます?
吉田:私ずいぶん前から、毎月最新刊のビジネス書を4ページに要約して毎月送ってくれるっていう雑誌を取っていて「TOP POINT」いうんですけど、その要約を読んでこの本面白いなと思って買ったんです。
renny:そうなんですね。この本との出会いがなかったら数字以外の会社の定性的なところをもうちょっと見なきゃ!と考えることが、もしかしたらなかったかもしれない?
吉田:そうですね。最近はESG投資が流行っていて、企業のIR情報もそういうのが増えてきてるんで、目に留まるのかなっていうのはありますけど、当時は全然なかったので、この本で気がついたのは大きかったですね。
renny:次の「清貧の思想」はベストセラーにもなった本だったと思うんですが、これで何か気付かれたことはどんなことですか?
吉田:この本がきっかけで、いろんな古典を読むようになりました。古典は人間が人生で悩んできたことを書き記して、その中でもよかったものが今に残ってる、みたいなところがあって、これはすごい勉強になるなぁと。お金との向き合い方を書いたものも結構多いんですよ。たとえば「徒然草」が書かれた当時って、日本で本格的に貨幣経済が成り立つ時期で、結構お金の話が書いてあるんですよ。
renny:そうだったんですか。僕が覚えてるのは仁和寺のお坊さんが石清水八幡宮行くつもりが何か違うとこ行ってきてとか、っていうような笑い話しか覚えてなかったりします。日本の歴史教育って政治に偏ってますけど、やっぱり経済史的に鎌倉時代とか多分そういうのがあって急激に変わったから、宗教家みたいな人たちも出てきたのかなとかって。だから徒然草がお金について書いてるっていうのは見てみたいなと思います。
吉田:あとは賭け事の話とかも出てて、負けないようにやれ、みたいなちょっと投資に繋がるような話もあったりして。
renny: なるほど。2008年のお話なんですけど、リーマン・ショックの時になりますが、リーマン・ショックから半年ぐらい2009年の2月3月ぐらいまでだったんだと思うんですけど、あの頃ってどういう行動されてましたか? 僕自身は追加でちょこちょこ買い足してた記憶があるんですけれども。
吉田:まず訳が分からなかったので、あのときが唯一インデックス投資もした時期です。リーマン・ショックから1ヶ月間ぐらいは、アメリカ株のインデックスETFとか買ったりして。その後はさっき話した坂本さんの本とか読んだ影響で、ジョンソン・アンド。ジョンソンやP&Gとか、社会性の面で有名な会社をちょくちょく買っていました。
renny:どっちかっていうと、売るとかそのポジションを減らすというよりは、買い足すというか、買いに行くっていうような感じの行動をとられたってことなんすかね。
吉田:そうですね。その当時は株価が下がってもあんまり気にならなくなっていて、ベンツ1台炎上しちゃったと言って笑い話にして、ここで買えば今度はフェラーリぐらい買えるようになるから、みたいなことを周りに話してましたね。
renny:今から思えばあのときが、僕らが投資していて一番安くでいろんなものが買えたのが時期ですよね。
吉田:そうですね。
renny:そういう意味であの時期に始めたっていう人は、多分その前に始めるよりも、きっと今は評価額が上がっているんだと思いますけど。とはいえ、その後もいろいろ上がったり下がったりっていうのがあったんで、今もずっと続けられてる人がどれぐらいいるのかっていうのはあるとは思いますが。
ここで登場する「徒然草」の話は収録後、下記にまとめています。
文字起こししながら、あれどっちだっけ?と思ったのは、「TOP POINT」がきっかけで出会った本は、もしかすると「日本でいちばん大切にしたい会社」ではなく「清貧の思想」だったかもしれない。