229回 In My Shoes


突然だが、私の足のサイズは23.5cmである。
この23.5cmというのは、日本人女性の平均サイズなんだそうだ。全体の27%程度がこのサイズで、22.5cmから24.0cmの間に全体の8割が収まるとのこと。足のサイズというのはそれほど変わらないものなのだと、妙に感心する次第。
確かに靴のサイズで苦労したことはない。どんなタイプの靴でも、23.5cmといえば置いていないことはまずないからだ。逆に考えれば、この8割から外れたサイズの人は靴選びにかなり苦労することだろう。

簡単に足のサイズと書いたが、ここでいうサイズとは靴のサイズのことである。
では実際の足の大きさはと言うと、じっくり測ったことがあるという人はあまりいないのではないか。かく言う私もかつて一度だけ測ったが、左右で結構違うのに驚いた覚えがある。

実際に測った足の大きさを「足長」という。踵から足の一番先端までの長さだ。この先端というのは、実は人によって親指か人差し指かどちらになるか異なるのが面白い。日本人の70%程度は親指が長い「エジプト型」で、20%は人差し指が長い「ギリシア型」だ。残りの5%の「ローマ型」は、親指から小指まで指の長さがほぼ均一で、全体のシルエットが四角なので「スクエア型」とも言われている。
足先の形が違うのだから、靴の形状もそれぞれ合うものが異なる。ギリシア型の足には先の尖ったポインテッドトゥ、ローマ型にはスクエアトゥといった感じだ。エジプト型は普通の形なら無難に履けるだろうし、スニーカーならどんな足の形でも問題ないだろう。
靴を選ぶ際には、単にデザインが気に入ったというだけでなく、もう一度自分の足先を眺めて合った形状を選ぶようにしたい。

靴のサイズを選ぶ際には、足長だけでなく「足囲」も大事なポイントだ。
足囲というのは、親指の付け根と小指の付け根の両方の骨が出っ張ったところを通るように、足を一周して測ったサイズである。ここで大事なのは「一周」というところで、単に付け根と付け根を測っただけでは「足幅」になる。
靴に表示されているサイズには、足長の他に「ワイズ」というのがあるのはご存知だろう。ワイズは足囲のことである。ワイズには、AからEまで、そしてEE、EEE、EEEEがあるが、日本人の平均はEだそうだ。

よく「幅広甲高だからワイズは大きい方がいい」とか「試着したらきついので0.5cm大きめにした」ということをやってはいないだろうか。実はこれは大きな間違いなのだ。
靴がきついという場合は、2つの異なる理由が考えられる。ひとつは足長のサイズが小さい場合で、これはサイズを上げる必要がある。
もうひとつはワイズが大き過ぎるために足が前にずれて、つま先が靴の先の細い部分に当たって痛いという場合。この場合はワイズのサイズを下げる、つまり一段階細くすれば、足がしっかりホールドされるので前に滑らず痛くならない。

靴は、23.5cmといってもぴったりその長さでできているわけではない。足の先から靴の先までの間に、1~2cmの「捨て寸」という隙間を持つように作られている。
この隙間はデザインによってどれくらいあるかが異なり、スクエアトゥなら殆どないだろうし、ポインテッドトゥになればかなりの長さになるだろう。ということは「23.5cm」の足長の靴の大きさを測ってみると、デザインによっては24cmから下手をすると26cm位になっているということになる。
いずれにせよ足長と足囲の両方がバランス良く合っているのが、歩きやすい自分の足に合った靴ということになるのだ。ワイズが大きければ履きやすいというものではない。

革靴を作る際には、木型(ラストとも言う)が必要となる。
靴の土台となる「型」で、木製なので「木型」なのだ。
一般的な製法では、この木型に革を型紙通りに縫い合わせた甲革またはアッパーと呼ばれるものを被せて、力をかけながら木型に添わせて接着剤で留める。そして皺にならないように慎重に革を叩きながら木型の形に馴染ませていく。熱をかけたり冷ましたりしながら数日放置して安定したら、ヒールを釘で打って靴底を貼り、完成である。
一見異なるデザインでも同じ木型から作られれば、靴の内部の空間は全く同じになる。反対に同じようなデザインでも木型が異なれば、履き心地は違ってくるはずなのだ。
またヒールと靴の接触する部分を「椀(わん)」と言うが、この部分は大きさや傾斜が一つ一つ異なるため、同じ高さでもヒールの形状が違えば木型は異なり、もちろん高さが違えば違う木型になる。
このように見た目が同じように見えても木型が異なる場合は多いため、やはり靴は履いてみなければわからないということだ。

何度も書くが、靴はサイズ選びが命だ。合わないサイズの靴を履いていると、ろくなことがない。
「浮き指」という症状をご存知だろうか。立位や歩行時に足の指が床や靴底に接地しない、または接地はしていても指先に力を入れて踏ん張れない状態のことである。
特定の1本の指だけが持ち上がっている場合から、全部の指が浮いている場合など、人によって症状は異なるが、いずれにせよ体を上手く支えることが難しくなるため、バランス感覚に異常を来たし、踵に重心が寄った猫背気味の姿勢になりがちだ。女性の場合、浮き指は左足の人差し指や中指に多くみられる。
浮き指の原因となるのは、骨格の基盤を形成する3~6歳の時期にあまり歩かなかったり、靴のサイズが合っていなかったりしたことが多い。
かくも靴のサイズというのは一生の問題なのである。

これまでデザインが気に入れば、多少合わなくてもそのうち足が慣れるだろうとたかをくくっていたが、結局履かなくなってしまうことが多かった。
これからは自分の足を靴に合わせるのではなく、足に合った靴を選んで、しっかりと足の指を踏みしめて歩きたい。


登場した漢字:指
→医学用語では「指」といえば手の指だ。足の場合は「趾」という漢字を使う。文中ではわかりやすいように「足の指」と書いたが、「趾」でないとどうも居心地が悪い。
今回のBGM:「ケルトの叫び」by デヴィッド・キング指揮 / ヨークシャー・ビルディング・ソサエティ・バンド
→「リバーダンス」で有名になったアイリッシュダンス。16世紀にイギリスから禁止されたダンスを、窓の外から見られてもわからないように、上半身は動かさずに下半身だけで踊るようになったそうだが、それほどまでに踊りたかったとは。競技用のハードジグに用いる靴は、つま先とヒールが厚いグラスファイバーでできていて、よく音が響くようになっている。


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