320回 初売り大吉


明けましておめでとうございます。
昨年は元旦から大変な災害が起こったり、世界的にも悲惨な出来事が多かったりと、何かと暗い話題が印象に残った。個人的にもクルマをぶつけてドア交換になったりしてショックを受けたが、よく考えると決して悪いことばかりではなく、良いことも楽しいこともあった。
ともすれば悪いことの方が印象が強いのでそればかり頭に浮かんでしまうが、そうではないのだ。禍福は糾える縄の如し。悪いことの後には良いことがあると信じたい。

今回は軽く正月の思い出などを書いてみようと思うので、少しお付き合いください。
今年の元日、つまり今日だが、都内の百貨店が全部休業になるというのが話題になっていた。元日だけでなく2日も休む、三が日は休むなど、百貨店だけでなくスーパーも、今年はしっかり休みを取る店が増えているという。
具体的に書いてみる。高島屋が23年ぶり、大丸・松坂屋が25年ぶりに、1月1日・2日とも休みとなる。阪神阪急も2日まで休業。そごう・西武4店舗、東武百貨店、三越伊勢丹は、1日のみ休んで2日から営業。西武池袋店が元日休むのは13年ぶり。一方そごう横浜店はいつも通り元日から営業するそうだ。
それにしても、これまで正月も休まなかったという方が意外である。確かに毎年元日のニュースでは、初売りの福袋に殺到する人々の様子などが映っていた。元日を営業として2日は休む、というパターンもあったような気もするが、いずれにせよ休んでいない。

それにしてもいつからこんなに店が休まなくなったのだろう。
「昭和の風物詩として元日の初売りに殺到する風景があり」などと書いてある記事があるが、それは違う。私が知っている昭和の東京では、正月三が日は店はどこも開いておらず、静まり返っていた。もちろん百貨店もお正月は休みで、初売りといえば4日からであった。
正月三が日と旧暦のお盆の頃は、それ以外では見たことがないほど東京の空が青く澄んでいたことをよく覚えている。初詣の神社などはそれなりに混んでいたが、それ以外はどこにも出かけず家でのんびり過ごしていたものだ。たかだか3日間くらい、別に店が開いていなくても特に不便などなかった。

調べてみると元日の初売り営業は、1996年にダイエーとイトーヨーカ堂というスーパーが始めたのがきっかけであったらしい。それに追随して他のスーパーも元日営業を始め、2010年代にはついに百貨店も元日から営業するようになった。
そもそも百貨店の初売りは1980年代までは、伝統的に仕事始めに合わせて1月4日であったのだ。それが西武百貨店が2日から初売りを始めたことで、雪崩を打つように他の百貨店も2日になり、そして西武が2012年に元日営業を開始すると、それが当たり前となってしまった。
となると元日の初売りは昭和の風物詩などではなく、完全に平成の時代に始まったことになる。
しかし実際は2010年あたりから、元日営業の利点がないことを理由に取りやめる中小スーパーが増えてきたそうだ。

そして最近では、働き方改革や従業員の確保の問題もあり、「年末年始は休まず働く」という風潮から「正月はしっかり休みを取る」ように変わってきた。とても良いことだ。
コンビニもファミレスも、近頃では24時間営業を止めるところが増えている。
便利なものやことというのは、すぐに慣れてしまうものだ。我々はあまりにも便利さに慣れ過ぎてしまった。店がいつでも開いているというのは、考えてみれば異常だ。それはきっと誰かの過度な負担や犠牲の上に成り立っている。
我々はいざという時に備えて、便利に慣れるよりも不便に慣れた方が良さそうだ。そういう時はいつ訪れるとも限らないということを、実感した昨年一年であった。

年が改まって初めて店を開けて売るのなら、元日だろうが10日だろうが初売りだ。
たかだか正月三が日の不便、それと引き換えに東京に青空が戻ってくると思えば、それもまた一興。今は遠くに住んでいるのでそれを目にすることはできないが、かつての東京の正月の空を思い出しながら、のんびりと過ごそうと思う。
今年は明るい話題が多くなることを願いながら。


登場した行事:初売り
→豪華な景品や特典がつく国内最大級の「仙台初売り」が有名。購入金額以上の景品がつく仙台初売りは、かつては江戸時代からの商習慣として公正取引委員会の特例として認められるほどであった(現在は全国一律)。
今回のBGM:「君だけが憶えている映画」by 筋肉少女帯
→「楽しいことしかない」ような、良い年になりますように!


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