261回 Easy Listening


最近ある海外ドラマにハマっている。
普段はあまりドラマを観ない。映像はその時間拘束されるので、自分で速度をコントロールできる読書のほうが性に合っているということと、感情移入しやすいため観てしまうと諸々の感情を引きずってしまうということがあり、あまり観ないことにしているのだ。
それがたまたまそのドラマのシーズン2が公開になったので、シーズン1は面白かったなあ、また観てみるかと観たら、まんまとハマってしまった。まず吹き替えで観て、日本語字幕でもう1周観て、そして英語の字幕を見ながらできるだけ聞き取れるように頑張って観た。
その結果、ここしばらく英語に接していなかったため、聞き取り能力が顕著に低下していることを痛感。その前も大して聞き取れるわけではなかったが、英語の論文を読む機会が多かったり、海外の学会に定期的に参加していたりした時には、それなりに英語に接する時間があったので、少しはマシだったと思う。
これはちょっと心を入れ替えて、英語を読んだり聞いたりする時間を増やそうと心に決めたことであった。

語学というのは、いかにまめにその言語に接するかにかかっているのではないか。
もちろん生まれながらに語学力に優れた人というのもいるだろうが、通常は母国語以外の言語を学ぶ場合、目でも耳でもとにかく慣らすというのが一番大事だろう。一応中学高校と英語の授業はあるわけだが、その後も日常的に英語に接する機会というのは、仕事で使う必要がある人以外には殆どない。法医学教室に勤務していた時は、その必要があった。
とはいえ論文は意外と読みやすい。何故かというと、テクニカルタームは元から英語であることが多いため大まかな単語は知識として知っているし、文芸作品ではないので構文自体はそれほど難しくないからだ。論文は英語を母国語としている人以外にも読んでもらう必要があるので、美文よりも誰にでも意味がわかりやすい文章であることが大切なのである。
それでもその論文の中には、わかりやすいだけでなくウィットに富んだ洒落た文章で書かれたものもあり、そういうユーモアをお堅い論文の中に仕込むセンスに感心したものだ。

思えば勉強以外で英語に馴染んだのは、10代の頃よく聴いていたラジオだった。
それなりの年齢以上の人には聞き覚えがあるだろう、ウルフマン・ジャックがDJをしていたFENの音楽番組である。FEN(Far East Network)というのは、1945年から在日米軍向けに放送されていたラジオ放送で、1997年にAFN(American Force Network)に統一されたそうだ。AFNは、海外に駐留する軍人軍属とその家族に向けてテレビやラジオを通して情報やエンタメを提供する役割を担っていて、24時間英語での放送を行なっている。ちなみにこのAFN、アメリカ国防省下のDMA(Defence Media Activity)の管理下にあるため、日米地位協定に基づき日本の放送法の適応外なのである。
そのAFN(当時のFEN)は普通のラジオでも受信できたので、自分の部屋でずっと流しっぱなしにしていたのだ。中でも「Wolfman Jack Show」は最新のアメリカのヒットチャートを聴けるのと、軽快な彼のDJが面白く、いつも楽しみに聴いていたものだ。
ウルフマン・ジャック、本名ロバート・ウェストン・スミスは、そのトレードマークである犬の遠吠えから“Wolfman”と名乗り、1970年から1987年の間、AFNのために音楽とコントの番組を制作していた。日本のFENで流されたその番組を、私も当時愛聴していたのである。彼のマシンガントークを全部聞き取れたわけではないが、それでも毎日流していれば少しはわかるようになる。
その頃も喋る方はままならなかったが、英語を聞きとる方は今より少しはマシだったと思う。

インドには多くの言語があるが、イギリスの植民地だった関係で英語がかなり通用する。
と言ってもインド英語である。所謂アメリカ英語ではない、イギリス英語が元になっているので、かなりクセがあるが、慣れればかえって聞き取りやすい。よく日本人は英語の発音が苦手なので臆してなかなか喋らないと言われるが、そんなことはなんのその、インド人はガシガシとインド訛りで英語を喋る。あ、これでいいんだよねと気が楽になり、インド訪問の折にはこちらもガシガシと日本訛りの英語で値段の交渉をした。
これは海外の学会に参加してもよく感じることで、それぞれの国の人がそれぞれの国独特の訛りで、英語を喋る。誰しも躊躇なく自分の意見を発してくる。つまりどういうことかと言うと、言いたいことがあれば発音や文法などは気にせず(いやもちろん気にした方がいいのだが)、とりあえず喋ってみることが大事なのだなと思った。そしてその前にまず、自分の意見がしっかりあるかどうかが一番重要なことなのだが。

英語の聞き取りに関しても、まずはモチベーションが問題なのである。
海外ドラマの熱いファンの中には、好きな俳優のセリフをちゃんと聞き取りたいという熱意で、英語を学びなおす人が結構いる。それが高じて実際にその国に行ってみるまではわかるが、ビザを取って住んでみるというレベルの人もいるのが凄い。
日常会話に使われる単語や文法は複雑なものではないが、それが故に省略化されたりスラングだったりする分、かえってわかりにくいことも多い。それこそ慣れるしかないと言えるが、そのためにはとにかく好きなドラマでもなんでも聴き込むことだ。
内容はもう頭に入っているので、ハマっているドラマも今度は字幕なしでチャレンジしてみようと思う。スプリプト・ブックも注文したので、これで準備は万全。
シーズン3が公開になる頃までに聞き取れるようになっていることを願う。


登場した科目:英語
→高校の英語の副読本が、ウィンストン・チャーチルのエッセイだった。1ページほぼ1文しかないという何重にも関係代名詞が入り組んだ悪文!の解読には、ほとほと手を焼いた。彼は学校では落ちこぼれの問題児だったが、文章力に秀でて文才で生計を立てていたそうだから、所謂悪文ではないのだろうがとにかく難しかったのだ。
今回のBGM:「Tonight’s the Night」by Rod Stewart
→ウルフマン・ジャックも紹介していただろう、1977年のビルボード年間第1位となった曲。日本でも「今夜きめよう」というタイトルでヒットした。あのハスキーボイスは印象的でしたね。


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