公認会計士試験の難易度の実態 ~3大難関国家試験というハロー効果に騙されてはいけない~
-確かに3大難関国家資格なんだろうけど、「最」難関といえるか
公認会計士試験は、司法試験、医師国家試験と並び、日本における3大難関国家資格と呼ばれることが一般的です。合格のための平均総勉強時間も3,000時間とも5,000時間とも言われますし、合格率もここ直近5年も10%前後と、日本屈指の難関資格であることは疑う余地はありません。また公認会計士試験を受験する層も、ある程度受験という関門をくぐってきた方々が多いです。公認会計士試験の合格者no1の大学は、23年連続して慶應義塾大学です。
しかし、だからといって「最」難関といえるのでしょうか。一般人がチャレンジしても、歯が立たないのでしょうか。結論、筆者の回答は「NO」となります。
まずは、それぞれの試験へ参入するプレーヤーの実力という観点で見ていきましょう。
ー医師国家試験と並んで語ることへの違和感
まずは医師国家試験です。医学部を卒業した者が、医師となるために受験する試験が医師国家試験です。医師国家試験自体の合格率は高いものの(2020年は92.1%)、試験へ参入するプレーヤーは当然ながら医学部卒業生となるため、試験は大変な難関となります。
大学受験において、そもそも医学部に入学することは非常にハードルが高く、特に有名国公立大学および有名私立大学の医学部入学へのハードルは、偏差値ベースでいえば東大法学部と同等か、それ以上となります。
AERAが発表した、医学部に強い高校最新ランキング(2019年)のトップ5の高校は、東海(愛知)、灘(兵庫)、洛南(京都)、開成(東京)、ラ・サール(鹿児島)です。聞いているだけで寒気がしませんか?
のちほどふれますが、公認会計士試験の参入プレーヤーの中心は私立文系です。医師国家試験との難易度の差は、説明不要で医師国家試験に軍配があがると考えて間違いないでしょう。(財力があれば入学できる学部があるよ!といったツッコミは、本書では例外として扱います)
ー司法試験との難易度の比較
次に司法試験との比較です。一般的に、司法試験には2つのルートがあります。一つは法科大学院を修了し、司法試験に合格すること(法科大学院ルート)。もう一つは、予備試験に合格し、司法試験に合格すること(予備試験ルート)です。ここでは、公認会計士試験との比較の観点から、試験一発勝負である司法試験予備試験を中心に見ていきましょう。
★司法試験予備試験★
合格者の出身大学別ランキング(令和元年)
1位東京(92名)、2位慶応(48名)、3位中央(39名)、4位早稲田(32名)、5位京都(13名)
合格者に占める最難関国立大学(東京、京都、一橋)の出身割合:37.8%
合格者に占める最難関国立大学+その他旧帝大の出身割合:43.9%
★司法試験(法科大学院ルート)★
合格者の出身大学別ランキング(令和元年)
1位慶応(152名)、2位東京(134名)、3位京都(126名)、中央(109名)、早稲田(106名)
合格者に占める最難関国立大学(東京、京都、一橋)の出身割合:27.5%
合格者に占める最難関国立大学+その他旧帝大の出身割合:39.0%
法科大学院・予備試験別合格率ランキング
1位予備試験(81.8%)、2位京都(62.7%)、3位一橋(59.8%)、4位東京(56.3%)、5位慶応(50.7%)
★公認会計士試験★
1位慶応(183名)、2位早稲田(105名)、3位明治(81名)、4位中央(71名)、5位東京(40名)
合格者に占める最難関国立大学(東京、京都、一橋)の出身割合:8.4%
合格者に占める最難関国立大学(東京、京都、一橋+その他旧帝大)の出身割合:不明
ー司法試験のメインプレーヤーは難関国立大学勢
上記データの太字部分が難関国立大学です。
予備試験合格者は、やはり東京大学出身者がダントツトップです。それを反映して、東大、京大、一橋といった最難関国立大学出身者が、合格者の3人に1人を占めていることがわかります。ここにその他旧帝国大学(北海道、東北、名古屋、大阪、九州)を加えると、その数値は43.9%と、2人に1人に近い数値となってきます。しかも彼らは、文系の偏差値ベースでトップである法学部が大多数と思われ、彼らが参入している時点で、司法試験予備試験はかなりのレッドオーシャンです。
法科大学院ルートについても、合格者数1位こそ慶応ですが、2位および3位に東大、京大が続きます。結果、東大、京大、一橋といった最難関国立大学出身者が、合格者の4人に1人以上を占めていることがわかります。合格率のTOP3というデータも開示されていましたが、最難関国立大学(東京、京都、一橋)が予備試験合格者を除き独占しています。
そもそも、これらは法科大学院の学歴であり、出身大学のデータではありません。その意味で、司法試験予備試験および公認会計士試験との単純比較は難しいところです。しかし、各法科大学院の出身大学は同系列の大学がメインとなりますので、傾向を掴む意味では問題ないでしょう。結論、司法試験は最難関国立大学を中心とした戦いが展開されていることがわかります。
公認会計士試験のメインプレーヤーは私立文系勢
一方で、公認会計士試験は、東京大学の参入はあるものの、その割合は少なく、合格者を輩出する大学は私立文系(慶応、早稲田、明治、中央)が大多数です。その裏返しとして、最難関国立大学出身者(東京、京都、一橋)が合格者に占める割はは10人に1人もいない(8.4%)ことがわかります。加えて彼らは、法学部よりは偏差値ベースで低い傾向にある経営・商学・経済系の学部が中心となります。会計士試験における中心プレーヤーは明らかに私立文系勢と言えます。
-第一線で活躍する公認会計士達も私立文系勢
加えて、現在筆者は修了考査受験資格要件を満たすために、会計教育研修機構が提供する研修を受けているのですが、そこで講師を担っている実務家(全員がほぼ現役の公認会計士)の最終学歴について、判明する限り調べたかぎり、延べ人数TOP5は以下の大学でした。
第一位早稲田、第二位慶応、第三位明治、第四位日大、第五位東大
このように、実務の第一線で活躍する一流の会計士であっても、最終学歴の大多数は私立文系というのが現実です。東大、京大といった難関国立大学の法学部勢が少ないことを実務の世界においても裏付けされていると言えます。
競争相手が誰であるかは、試験の難易度を計るうえで大変重要です。その意味で、合格者の割合や実際に活躍する面々を見るに、医師国家試験、司法試験、会計士試験と比較すると、会計士試験が相対的に難易度が低いことはデータ上示されていると言えます。
-そもそも公認会計士試験に、大卒かどうかすら関係ない!(司法試験は、残念ながら関係ある)
もう一つ、ご参考までに、高卒受験生の合格状況について、司法試験予備試験と公認会計士試験を比較してみましょう。
★司法試験予備試験★
過去9年間の累計高卒受験者 1,563名
うち合格者 0名 (合格率0%)
★公認会計士試験★
過去9年間の累計高卒受験者 13,740名
うち合格者 882名 (合格率6.4%)
司法試験予備試験が過去9年分しかデータ開示されておりませんでしたので、比較可能性の担保のため、9年間のデータとなります。
これを見て何をみなさんは感じましたか?
私は感じたのは、司法試験予備試験は、誰かにとって「無理ゲー」になる可能性がある一方、公認会計士試験は、決してそんなことはないということです。合格率に関しても、高卒者の合格率は6.4%と、全体合格率9.2%(9年平均)と比較して低いものの、それでも大学卒が中心の公認会計士試験の中にあって、善戦しているといえます。
学歴やバックグラウンドにかかわらず、その試験のために正当な努力をすれば、合格するチャンスがあるということです。
3大国家資格というワードに引きずられて、必要以上に公認会計士が難関ととらえられている気もします。いわば、ハロー効果が発生しているということです。
難関だから自分には無理かも・・・と思う前に、興味があれば試しに調べてみることをお勧めします。頑張り続けたら意外と受かる試験であることは間違いないので。少なくとも「無理ゲー」ではないのです。
参考データリンク先
金融庁HP : 各年度の合格者調を参照ください
法務省HP: 各年度の合格者調を参照ください
公認会計士三田会 : 合格者出身大学が確認できます
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