小野丸美愛のこと、あるいは土の中からの虫

 別名を「開幕でRP面に干渉しない宣言をしたゲームで初めてのアフター参加をしたその後」。
 感想文とともに設定・挙動に関する意図の面を中心に。その過程でたまに出なかった設定の話がでてくる。


・発端

 暗夜迷宮本編で動かしていたメインキャラクターは箪笥の付喪神・五容ごよう
 穏やかな、あるいは年を取って角の取れた付喪神たちの集められた老人ホームのような収蔵庫から、異変の報を受け目付け役の職員を供にして立ち上がった付喪神。戦闘経験はゼロ

 そのプロフィールには、ゲームが開始した当初からこう書かれていた。

RPルームには出現しません。戦闘結果と日記に生息しています。

 参加目的が3か月12週、24更新予定のうち案出し段階で20更新分が埋まった日記を書ききることでRPに充てる時間がない。
 またRP適正が少人数短期にあり、3か月も期間を与えられると先に気力と話題が尽きてしまう。
 そして都市における現代人の動線がわからないので、都市を舞台に自由にRPしてくれと言われても何をしていいかわからない
 そういう理由で生まれた一文だった。
 似たようにルーム制チャットシステムがあったイバラシティにスポット兼キャラクターを設置しチャット欄にひたすら地の文を書いていた人間、何も進歩していない

 ただ他の人の日記やツイートを追う余裕はあったので、柊鬼商店街については所属者の日記を読んでいたりツイートに反応したりしていた。
 そこからのご縁により、イベント「悪鬼招来 異界:柊▓商店街」の設定・テキスト面で協力させていただく。

 イベント開始後のTwitterログにはひたすらうちわを振ったり感動して震えるPが見られる。
 冒頭の一文をプロフに書いた人間がこんな体験をできるとは思わなかった。それに尽きる。
 舞台は用意されるだけでは足りず、そこに誰かが上がって初めて意味を持つものだ。
 最高のメンバーに上がってもらった。しかもその様子をリアルタイム観戦できる。なんてこった。イベント会場の壁になった気分だ。

 そもそもRP上のイベントに関わったことはほとんどなく、運営側に関わるのはこれが初めて。
 舞台を用意することに関しても、前述のスポット兼キャラクターをぽつぽつと利用してもらった程度。
 そんな人間にはあまりにも眩しい光景だった。

 そして心から実感した。
 ここにはアイデアを何十倍にも膨らませてくれる人がたくさんいる。
 一人では決して見られないものがある
と。
 その交流の楽しさの原点を目の当たりにして、光に引かれ暖気で目覚める虫じみて、人気のある方へ出ていきたくなった。

 といっても用意できるのはロールフックくらいだが、それでよかった。
 いきなり話し込める体力があるか自信がないし、既に本編ストーリーや運営期間は最終盤
 フックになれるが応対は必ずしも必要ない形態は妥当だろう。
 メインキャラクターの箪笥には日記へ戻ってもらう。

 その時に思い出したのはゲーム中のアイテムを実際に加工できる店舗形式のルーム。
 アイテム譲渡などのログをチャットに表示できるのは「IDEA CRAFTERS」から続く機能だが、その上手い使い方の一つだと思った。
 中でも屋台やキッチンカーといった移動型店舗なら街での生活実態の描写もなくていいし、利用側だけがRPをしても不自然ではない。

 アイテム欄に山積みになっていた解けない氷から着想した「解けない氷をかき氷に加工する」を経て、最終的に1D100で盛るソフトクリームや1D6フレーバーラムネなど、ダイス遊びのできるキッチンカーに決定。
 実際に動けるのはゲーム・日記更新すべてが終了した後になることが確定していたので、事態が落ち着いた後の日常回としてもいい。

 形式は完全にセルフでダイスを振ってもらうだけ、アイコンもシルエットの人影で用意する方向で考えていたが、ご厚意でおかゆさんにアイコンを描いていただき、会話応対が可能になった。
 これがなければ小野丸美愛は生まれていない
 その後もアフター回ごとに新アイコンをいただいており、表情豊かなキャラクターになった。本当に何から何までお世話になっています。

・暗夜迷宮本編

 当初は自前のチャットルームを建てる予定でいたが、柊鬼ふれあい広場がキッチンカー利用OKとの情報を教えていただき、そちらにお邪魔することに。
 この段階で大まかに決まっていたのは、外見・性格・稼業・出身・背景の5つ。

 本編で触れる機会のなかった出身と背景については、

 札幌圏、親世代の頃にできた新興住宅街の出身。
 スキーやビーチのリゾートバイトから一次産業関係まで各地を回っての季節労働経験があり、浅く広く様々な縁がある。
 特に縁故が深いのは沖縄で、初めての行き先であるそこを今でも冬季のバイト先に選んでいる。

 とメモにある。
 フルーツ系に強く「北海道ミルクとゴールデンパインの南北コンボ」を名物に持つ、移動販売のアイス屋はこうして生まれた。

 せっかく完全な一般人なので、退魔師とは明確に違う方向性を向きたい。
 そんな目的で「一代前で生まれた新興住宅街の出身」であることはこの時点で確定。家の系譜もなければ生まれた地の歴史も浅いという設定になっていた。
 家系についても地域の伝承や怪異についても、知る必要も興味もなかったから知らなかった。一般人とはその姿勢を許される存在だと思った。
 生まれた時から自分のルーツや家系が根差してきた土地と、あるいは決定的な過去やそれが起きてしまった瞬間と向き合う退魔師とは違って。

 北海道出身者設定には「北海道ミルク」を店の看板に使っていること、社会経験の浅いうちの沖縄行きを選択肢に入れる人間であること以外の意味はあまりない。
 自分自身道民ではあるが、母校はさほど多くもない進学者の中からなぜか毎年沖縄へ飛び立つ人間を輩出していた。憧れは何となくわかる。
 それに加え、強いて言えば実生活の中で歴史や地域伝承から最も遠い場所と感じているので、上で書いたことが補強されるかと思った。
 しかし生活環や口調を考えると案外援農で北海道へ行った経験がある関東民辺りかもしれない

 実際に動かしてみるとソフトクリームのチュートリアル代わりの初発言が1D100=3で綺麗な出オチになった。
 それはセルフで客に盛らせる。

証拠写真

 実稼働していたのは6/13~17の4日間。
 Twitterで交流のある人になら利用してもらえるだろうか、程度に思っていたものの、予想以上にたくさんの人に利用してもらうことができ非常に驚いていた。
 そしてその分ダイス目を自在に乗りこなしてくれる姿をたくさん見ることができ、その結果や解釈、リアクションを見ているだけで楽しかった。
 自分で何かを建てると好きな人が集まる施設の壁になれる。

 また実際に会話応対をする機会もいただき、いただいたアイコンも大活躍。
 ただ設置型のロールフックキャラではあるものの、何かとリアクションをしそうな話好きのキャラクターだったので返信するかをだいぶ迷うシーンもあり、最終的に多少の応対があったRPをまとめて入れることに。
 応対なしOKを謳いながら勝手に応対を入れるこの傾向は夏祭り編の出店でも続いていた。一往復程度が最もやりやすいのかもしれない。

・夏祭り編

 実はアイス屋の話が出た当初からマンション側へのお誘いをいただいており、アイコンを描いていただいたのも自作アイコン可の村の条件である

あなた自身が作成した、もしくは、あなたが依頼し、あなたのために作成された、このサイトでの使用を許可されている画像を使用してください。
一般公開されている著作権フリー画像や、それを加工したものはNGとします。

WOLF MANSION「本サイトは」

 を満たすためでもあった。
 そこから生まれたアイコン群を実際にマンション側で使える機会を逃す手はないし、紹介や縁故があれば商店街の外からでも参加可能な企画だ。
 一人くらい商店街外のキャラクターがいる方が、本編ではあまり関わる機会がなかった人も参加希望を出しやすくなるかもしれない。
 またマンション人狼の推理があまり苦にならない人間なので、推理面の人数合わせとしても丁度いいだろう。
 そして何より実際のRPでできた参加する理由がある! PC視点で交わされた次の約束は強い。

 ということで企画開始当初に手を挙げて運営サイドへ。
 先述の通り現代の都市生活がぜんぜんわからない人間ながら、委員会の方々には本当に暖かくお迎えいただいた。ありがとうございました。

 正式な参加申し込みにあたっていよいよキャラ名が必要になり、ここでようやく名前が決まる
  退魔師・怪異のキャラクターに和語や古風・伝統的な名前が多い印象から、本編登場時同様に退魔師との差別化の一環として下の名前を「西洋名に当て字」にすることは早くから決めていた。
 上の名前も、できれば取り立てて珍しさは感じさせないが現実に多くはないものが望ましい。この世界ではうっかり参加者の実名と被っても言い出しにくい。

 そうしたこだわり以外の部分は音の響きから3秒で決めるタイプなので、まず響きだけで出して字を当てたのが小野丸美愛オノマルミア
 上は実際に人名として多くはないこと。下は暗夜迷宮本編キャラクター検索で実際に少ない名前であることを確認してから決定。

 店名「One more Scoop」の決定タイミングも同一。
 シングルからダブルでもリピーターでも、アイスを「もう一度掬う」ことは何かしらアイスや店を気に入ってくれた証拠だし、きっとPC的にも目指すところだろう。

 残りの思案はアイス屋再出店における新規要素。
 リアクションの幅があり、他にも出店が出ている祭りならではの企画として持ち込みOK、他店とのコラボメニュー作り放題の方向性に落ち着いた。
 セットで設置したカラースプレーやコーンフレークについては本編登場時の没案でもあり、ゴージャスでお祭り感も出るのでここで再利用。季節メニューも刷新。

 また店主と客の立場を両立させる必要が出てきたのでモブアシスタントを頼んだことにするか早期閉店かを考え、潔く売り切れ早期閉店、ソフトクリームメーカーには故障してもらうことに。
 元々暗夜本編段階で調子がやや綱渡り気味の中古品という裏設定があったので丁度良かった。

 結果としてアイス屋もプロローグ時点で大盛況をいただき、懸念だった時系列の錯綜もあまり影響が大きくならず一安心。売り切れにも説得力が出た。
 赤窓に招かれて開幕でイキイキと人狼アプリの詳細を生やしている辺り、つくづくゲーム部分とRPの整合を考えたい人間なんだと思った。こういうところを見て赤窓の星は頭上にやってくるのかもしれない。
 少人数制のペア赤窓から店舗交流まで様々な要素を活用でき、自分で思っていたよりずっとRPができた。
 お付き合いありがとうございました。

流れるように人狼アプリの仔細を捏造する

 キャラクターとしての登場タイミングの関係で入村自体は遅かったものの、開始からずっとログ自体は追っていた。
 日々を支え同時に営む日常の場としての商店街と、祭りの非日常を通して描写される生き生きとした面々は、その後ろに連綿と続いてきた生活を感じさせやはり輝いていた。
 そしてみんな突然のトンチキ合体ロボの乗りこなし方がうますぎる。企画段階からずっと案が出る度膝を叩いて笑っていた企画だったが、本番に至って最高潮に至った。
 あまり大人数のチャットルームに出てこない理由の一つがギャグ時空に対する柔軟性の不足なので、本当にうらやましかった。

・秋の柊鬼商店街編

 そのままの流れで後編にも関わることに。
 退魔師と怪異の世界を強調する後編への参加にあたり、実行委員会各位には終始にわたって大変心を砕いていただいた。
 様々な面で終始お世話になっているものの、入れていただいて一番助かったのは間違いなくここ。本当にありがとうございました。

  事態の発端を持ち込んだ張本人であり憑代として登場するプロローグから始まり、秋での立ち位置はかなりかなりNPC寄り、場の意図の一部としての存在で、一挙一動や存在そのものがロールフックになるポジション。
 暗夜迷宮でチャットに登場する段になっても「話し込める体力があるか分からない」などと言っていた人間に務まるか……を問う前にやることに決めた。

 だってそこにはこの世界には絶対にある光景がある
 意図せず怪異事件に巻き込まれた一般人を救う。退魔師がきっと当たり前にやっていて、しかし本編チャットルームではなかなか描写する機会のなかったことが。

 そもそも冒頭に挙げたメインキャラクターの箪笥も、突飛かつ希少ながら絶対にこの世界にいるだろう存在として投げ込んで、日記を書くことでずっとその実在性を強化し続けていた。
 スポットライトがなかなか当たらないだけで、きっといるはずだから。
 その存在によって、多数派のキャラクターはより引き立つから。

 暗夜迷宮とそこから続くアフター、他の交流ゲームにおいても選択の基準はおおむねそこにあって、いつだってスイカの塩のように生き、からあげにレモンと指を差され排斥されないことにいつでも頭を垂れている。
 そんなプレイヤーであることが一番活きるとしたら、ここだ。
 夏でも思いのほか動けたことだし、やれるだけをやろう。

 そう決意を固めながらプロローグの状況を作るためにミアを破壊した
 「筆狐が川に? ここにいい筆洗がありますね」と思い立って無残な柊鬼川を提案した異界商店街案出しから既にそうだったが、一番イキイキしている瞬間の一つは既にあるものを破壊する時だ。
 どうしてか平均一年に一人のペースでキャラクターの人格や記憶を破壊する。2023年は未遂と既遂が一人ずつだったので、普段より多い。

哀れにも破壊された一般人と店舗

 冗談を抜きにしても助けられる展開が待つからには、助けられなければならない状況にあるべきだ
 かといって完全に別人になるレベルは求められていない。顔見知りとして助けたくなる程度が望ましい。そこにも栄養があるから

 結果として初回登場時、暗夜迷宮本編とは全く違った設置型ギミックになった。
 あちらではただ通り過ぎても何の問題もなかったが、こちらは存在しているだけで考えさせあるいは何かをしなければと思わせる。
 そして状況による影響をきちんと受け止め、それを何倍にも広げてくれる人が揃っているからこそ、その考え方や行動のバリエーションを幾通りも拝見できる。
 このポジション私でいいんですか? 心からそう思った。

 そして異界に入った以降においても、やはり心配は杞憂。
 各々の個性が存分に出る乗り越え方・乗りこなし方・そして助け舟の出し方。
 それをどう受け止めて捌くかというところでは不慣れもあり反省するところもやはり多かったものの、基本的にずっと見とれていた
 自分からは決して出ない発想が星のように数多きらめいている。それに見とれずにいられようか。
 異界商店街と同じ、いやそれ以上の感動を、壁であることから抜け出た人間は実際の渦中で味わうに至った

 プロローグと同様、退魔師とはならず処置により記憶を失うことが確定していたエピローグも協議の上で立ち位置を事前に決定していた。
 そこへ持ち込むため村内の行動で意識したのは怪異と戦うという選択肢をすぐには呑み込めるキャラではないことと、怪異に対する成功体験を積ませないことの2つ。

 ミアは怪異と戦う才能もなければ、戦い命を賭してまで成したい何かもない。ただ、世界には裏側があるということを知ってしまっただけの人間だ。
 これだけでも十分ながら、決定的な場面で何一つできなかったなら自分には関わり得ない世界と思うのに矛盾はない。
 対峙したその場で怪異に対抗しようと思うこと、怪異を対抗し得る存在だと思えること。それ自体が退魔師としての才能である。そういう解釈だ。

 そのためミアは異界で起こることのどれにも対応できず、全編を通して退魔師たちに助け舟を出してもらうか、彼らから学んでやっと対処ができる存在とした。
 それは「巻き込まれただけの一般人」としてより自然だし、退魔師と一般人の生きる世界の差をより際立たせる演出になるだろう。そしてミア自身に最終的なあきらめをつけさせる材料にもなる。
 何より一般人を守り助ける退魔師ムーブ、見られるだけ見たい。 

 特に異界の最終局面、戦闘シーンにおいては異界内で重ねた練習も、その中で決めた動きも一切役に立たないとした。
 『戦闘が起きる』と聞いて一般人が予想できる範疇はその程度で、実戦を想定しその通り動けるのも訓練や場数を踏んだ退魔師の技術だ。
 それは完全なる門外漢として自然なことだし、退魔師と一般人が全く別の世界に生きているということを際立たせる。
 そしてきっと、ここに集った面々はそうであっても守り切ってくれる

 村内での動きを拝見していると自然と全員に対してそう思えたし、実際にその通りだった。
 村内でもトスをいただいて予定していた着地点にもブレずに辿り着くことができ、無事に目標達成。
 異界内の調査・処遇会議など関われないシーン・不可能な行動があるのは元からなので全く気になることなく喜んで壁に戻っていた。そこにいられるということだけでうれしい

 異界の中で交わした『お礼』の約束は、与えられた一日の猶予で果たされた。
 そしてその一日でもらった次の約束を、きっとミアは果たしたと思っている。

・それから

 「冬季になるとアイス屋を休業し、沖縄方面で季節バイトをしている」という設定を最初に決めた時から、ミアには大まかな一年の生活リズムがあった。
 ハロウィーンまでを移動店舗とともに過ごし、11月を迎えればキッチンカーや営業にまつわる諸々の月極契約を引き上げて沖縄へと飛び、暖気にほころんだ桜を見に来る人出の頃に関東へ戻ってくる。

 それは今現在でも変わっていない。
 ミアは今年も実家ではなく久々に戻る第二の家のような場所で働きながら冬と年末年始を過ごし、メッセージアプリを通して年始の挨拶を済ませている。ひととき様子のおかしかった、病気のその後の経過など心配されたりしながら。
 そして桜が咲くころになれば、柊鬼ふれあい広場にはそのうちポップな水玉のバックに、大きなアイスクリームが描かれたキッチンカーが姿を見せるだろう。

 そうやってつつがなく、そして具体的に今の時代を暮らし、この先もそうしていくのだと思えるキャラクターが生まれるのは私にはとても珍しいことで、自分にもそうしたことができるという自信になった。
 そういうことができないから、現代物シティチャットルームがあっても何をしていいかわからなかったのに。

 光と暖気に惹かれて土から出てきた虫のようなプレイヤーは、その熱に背を押されるように少しなりとも木に登り、見たことのない景色を見た。
 いつかもう少し高くまで、行けるかもしれないと思った。
 それがいつになるかはわからないとしても、そんな未来が来るのかもしれないと思えた。

 ミアの存在とともに、そう思えることがまた参加当初からは想像もできなかった交流の産物で、一人では決してたどり着けなかった場所だ。
 すべての縁に、本当にありがとうございました。