離婚される女 ショートショート
結婚して一年目に、夫から離婚して欲しいと話があった。
夫は性格も良く、仕事もできてその上容姿も良く何の問題もない優しい夫だ。
プロポーズされた時は、舞い上がるほどに嬉しかった。
幸せな日々が始まった。
半年位たった時に彼から言われたのは「寂しすぎる。一緒にいる時は、愛していなくても愛しているふりでもいいから素っ気なくしないで欲しい」と言われた。
覚えがあった。
一緒にいても、どことなく距離を置いていた。
なぜそんなバカなことをしたのかわからない。
大好きな彼だったのに、どこか冷たくしていた。
言われてからは態度を変えて積極的な、ふりをした。
そして一年たった時に、離婚を言われた。
私は、彼にも自分にも満足しきっていた。
それなのに、降ってわいた話に感じた。
私の知り合いだった弁護士に彼が依頼し、連絡がきた。
弁護士によると全て妻側の要求を呑むという事だった。
彼は離婚の用紙をテーブルに置くと、家を出ていった。
彼に彼女はできたが、一緒にいるわけでもそういう関係にもまだなってないので、彼女を侮辱しないで欲しい、離婚後に、相手にプロポーズするとの事だった。
街で見かけた時に、その彼女は見て分かる程に素敵だった。
自分より色々な点で、レベルが上なのが分かった。
二人は、幸せそうだった。
そこだけ、キラキラと輝いていた。
妻側は離婚はしたくないという選択権もあると、弁護士に言われた。
ただ既に別居してるので、いつかは離婚になるだろうと。
裁判になっても良いとの事を、夫側は言っていると。
その時はその時点で、彼女と同居を始めるとの事だった。
目の前が真っ暗になるというのはこの事だと思った。
夫が大好きだった。
まるで、スターにぞっこんのファンのように。
夫が出ていった家で、自分の無くしたものが大きいと深く改めて思った。
どうしてこんな事になってしまったのか。
好きで好きで、たまらないのに。
彼の温もりが恋しくて、冷たいベッドの中で震えた。
謝ったら、戻ってきてくれるのか、どうしたらよいのか。
昔付き合っていたが、振ってしまった弁護士が夫の弁護士というのも笑える。
ちょっと、よそよそしいふりをしただけじゃないかとも思った。
骨身に染みたのは、好きでいて欲しいとは強制ができないという事だ。
彼との日常生活が戻ることを、心から願った。
あんなに、愛されていたのに。
どう考えても、自分が悪かった。
気がつかなかったのは、自分の強情に満足し、相手を傷つけている事にも私は満足をしていたからだ。
何度考えても、取り返しがつかない。
謝ってハッピーエンドにならないかと考えた。
プライドなんて、どうでも良くなった。
弁護士から、夫との直接の話し合いは断られた、又、結婚を続けるのは相手がイヤだと言うのだから無理だろうと言われた。
相思相愛が、私のバカなおふざけでひどい結果をまねいた。
部屋が寒々しくて、辛すぎる。
気がついたら窓の外に、冷たい雨が降っていた。