ショートショート「夕暮れの街」
軽いレストランのドアを開けて 戻って来た彼と、夕暮れの街を並んで 歩きはじめた。
まだ 彼と手をつないだことがない。
手をつなぎたかった。
指の先が彼の手に触り、指先から彼の手を浅くつないだ。
その手が、微かに湿っている。
いや微かではない、濡れている。
手を離し、彼の腕に手をまわし入れた。
コットンの上着の布地の中に私の手は収まった。
あぁ やっぱりこの人ではない。
手を洗ったあとその手を よく 拭かなかったのね。
乾いた心で思った。
女はつまらないことで、つまらないことを思う。
そうかな、そうとも言えない。
きっと、時間の 無駄。
それ以外は ない。
ウィンドウに映る、人波がそう言っていた。