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【孤独のジャズ】 エラ・フィッツジェラルド「These foolish things」でちびる

こんにちは、MDユウキです。

みなさま、エラ・フィッツジェラルドはご存じですよね?

昔の有名なジャズ歌手といえば、ビリー・ホリデイと、エラ・フィッツジェラルドと、サラ・ボーンあたりがまず挙げられるでしょう。
このあたりの歌手は、録音もしこたま残っていますよね。

で、今回言いたいのは、エラ・フィッツジェラルドの「These fooflish things」ですけど…

 これ、超良くないですか!?

今、超絶ハマってます。おすすめです。
前から聴いてはいましたけど、なんか今、特に、超キテます。
この辺りを今日は語っていこうと思います⭐︎


◾️エラ・フィッツジェラルドってどんな人?

エラ・フィッツジェラルドは、1917年生まれの黒人女性ジャズシンガーです。
不遇の幼少期を過ごし、10代で歌手としてハーレムのサヴォイ・ボールルームでデビュー。
アメリカのジャズ雑誌の「批評家投票女性ジャズシンガーランキング」で約20年間も首位に君臨した、皆が認める最も有名なシンガーのひとりでした。

聴きごこちのよいソフトでマイルドな歌声と、トルクのある声量に支えられた豊かな表現力が魅力。
ビジュアル的には、ふくよかで笑顔が素敵なお姉さんといった感じです。
ピアノが弾けて、フレーミングがわかってスキャットもできるチャーミングな性格のエラは、多くのジャズバンドから重宝されたようで、実にたくさんの録音が残されています。

◾️「These Fooflish Things」ってどんな曲?

「These fooflish things」は、1935年に発表された曲です。
作詞は、イギリスの俳優出身でオペレッタの作家などもしていたエリック・マシュヴィッツと、シンガーソングライターのハリー・リンク。
作曲家は、ロンドン生まれのジャック・ストレイチー。
この曲、出した時は人気がなかったらしいのですが、ピアニストのレスリー・ハッチソンが世に出したことで人気となり、後にいろんなジャズマンが録音を出しています。
テディ・ウィルソンとビリー・ホリデーのものが1936年のビルボード5位まで行ったとのことで、有名ですかね。

曲の中身は、一言で言うなら.…そうね、
「昔の女がいつまでも忘れられないで、ネチネチと引きずりまくっているナヨ男の歌」ですかね。

歌詞がとにかく長くてねちっこい!
そして、想いがいつまでもしつこい!
鬱陶しいので早く次の女に行きなさいよ!
という気持ちにさせてくれます笑。

この作詞したエリック・マシュヴィッツという人は、この曲を懇意にしていたキャバレーの女(妻ではない、つまりどっかよその姉ちゃん)を思い出して作ったらしい。
ま、昔の日本の歌謡曲にもよくある「男のロマンチシズム全開の自己中歌詞」と言ったところで。
こう言っちゃうと結構しょうもないですね。笑

◾️エラが天才すぎる!

でも、それをこの天才歌手エラが歌うことで、世にも美しい曲に仕上がるのだから不思議。

メロディラインもけっこう結構単調で、あっさり歌うとちょっとつまんないんですよ。
ところが、この単調でダラダラと続くしょうもない男の歌詞(すみません笑)が、ですよ、
エラのしっぽりとした艶がありがながらも、時折りハスキーに掠れた歌声によって、印象がガラリと変わって、ものすんごいいい歌詞に聞こえるんです!!!

なんていうか、「自称男まさり」の強がり女が、勢いで別れちゃって後に後悔してるんだけど、そのことを悟られないように我慢してる、一生懸命自分自身を誤魔化してる。でもやっぱ落ち込んじゃう.…やっぱり私も女だったのね。みたいな、「自分の強がりが引き起こした女の後悔の歌」に聞こえるんです。

つまりは、中島みゆきです。

これはちびる。グッと腹にくる。
特に強い恋愛をした大人の女は少なからず共感できるのではないでしょうか。
元彼が家に残していった男物のアイテムみ見つけちゃったりとか、夜1人になった時に、ああもう電話もできないんだった…と思い出すとか。

こうなるともう、
マシュヴィッツさん、よくぞ書いてくれました、こんなにエモい歌詞をありがとう!
ハッチソンさん、埋もれてたこの曲を見つけてヒットさせてくれてマジでありがとう!!!
フィッツジェラルドさん、ビリーがヒットした後にも関わらず、全然別の切り口でこの曲を歌うことにしてくれてありがとう!!!
ってことです。

この歌をエラになりきって熱唱することで、ワタシもこういういい女なんじゃないか、
いや間違いない私は失恋で後悔するようなエモくていい女なのだ、という妄想に浸れます。(妄想です)ありがとう

◾️エラ版のここが良い!

とりあえず、おすすめは59年にヴァーブレコードからリリースされた「Ella And Louis Again Vol. 2」に収録されている音源です。
現在、各種音楽配信サイトでBnF(フランス国立図書館・古い音源などを管理している)のリマスター版が聴けますので、そこからどうぞ。

さて、エラ版の聞きどころは、
まず、歌い出しにちょっとしたセリフが入っているところです。これがまたエモい演出で。

────────────────
Oh, will you never let me be.
Oh, will you never let me free.
The ties that bound us
are still around us.
There is no escape that I can see.
And still those little thing remain.
That bring me happiness or pain.

ねえ、僕を放っておかないよね
ねえ、僕を自由にさせないよね
僕らを結びつけているものはまだここにあるよ
目に見えるそれから逃げられない
そんな小さなことが思い出させる
幸せと痛みを運んでるくるんだ
────────────────

静かなピアノの伴奏に合わせて、エラが溜めて「ぉオウィリュネバレッミーヴィー〜〜」って入るとことでもうハート持ってかれます!
ううーーっうんまい!いっぽん!!!

この前振りがあるからこそ、次の歌詞はじまりの「a cigallete…」が生きてきます。待ってましたーー!って感じで。
一旦思いを溢れさせてからの→些細なことの状況説明。と言った感じでしょうか。
このメリハリが、このエラ版の良さを引き立てています。

そして、演奏はオスカー・ピーターソン・トリオ。
このピアノ、オスカー・ピーターソン!大好きオスピー!!
キラキラで安定のオスピー先生のピアノと、エラのハスキーな歌声がもう。エラのピアノはオスピーに限るぜ…マッチしすぎ。
ベースは、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)でお馴染みのダブルベース奏者レイ・ブラウン。なんとエラの元夫。※多分この時にはすでに離婚してたんじゃないかな…詳細不明。
ギターはハーヴ・エリス。この時期のオスピートリオのギターの人です。

52年から59年のハーヴ・エリス時代のオスカー・ピーターソン・トリオは大人の香りの中に純真な子供心が混ざってる感じがして、なんか好き。

◾️時代背景

1950年代のアメリカといえば、第二次世界大戦後でどんどん経済成長していった時期。50年代半ばにはホワイトカラーが従業員の過半数を超えるなど、経済の発展とともに生活水準が向上していきました。
ベビーブーム、テレビの普及、郊外のマイホームやスーパーマーケット.…大量消費の時代です。
音楽界ではポップスやロックが台頭し、エルビスプレスリーがチャートを占領しています。

50年代中盤のジャズ界では、後に名盤と言われるレコードが続々と録音されます。
ソニー・ロリンズの「Saxophone Colossus」、マイルス・デイビスの「Cookin'」「Relaxin' 」他の4部作、セロニアス・モンクの「Brilliant Corners」など。

前にも書きましたが、今ジャズを聴いてるという男性はだいたいこの時期に完成形となったモダンジャズ、ビパップが好きという方が多いのではないでしょうか。とにかく、新しいものがどんどん誕生していくイケイケの時代、みたいな印象です。


◾️40代になったエラ、まとめ

そんな時代の中で録音・発表されたこのエラの「These fooflish things」は、おそらく「昔ながらの懐かしの音楽」として聴かれたのではないでしょうか?
最新のジャズが、イケイケのビパップやよりモダンで難解なトレンドへと移っていく中、40代になったエラと脂ののったオスピートリオが奏でるこの歌謡曲のような暖かさと味わいを持つこの録音は、時代の中心ではなかったかもしれませんが、このタイミングでしか作りえないような奇跡のような一曲だと感じます。

結論。私の愛するレスター・ヤング先輩もそうだけれど、やっぱりジャズメンは多少枯れてからが粋!好き!大好き!!
若造には出せない人生のあれこれが作品に滲みます。

(単にワタシが枯れ専なだけという話も.…笑)

それではまた!


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