コロナワクチンだけじゃない!抗がん剤開発企業としてのBioNTech $BNTX
こんにちは、ぴたごらら(@pitagorarara)です。
さて、昨日何の気なしに以下のtweetをしたところ予想に反して大きな反響をいただきました。
そこで今回は調子に乗ってBioNTechの全体像に迫ってみようと思います。I have no positionですので多少熱意に欠ける部分があると思いますが、お楽しみいただけると嬉しいです。
Disclaimer:
本内容の正確性などは保証できません。本内容、またそれに基づいた投資判断などにつき、私はいかなる責任も取れません。
BioNTechはコロナワクチン企業ではありません!
いきなり失礼な物言いですみません。何が言いたいかというとBioNTechはコロナワクチン開発のために設立されたバイオテックではないということです。これは当たり前の話で、コロナ禍は世界的な緊急事態なので時間がなく、①既に承認されている薬剤がコロナにも使えないか試す(たとえばGileadのremdesivir)、②バイオファーマが持っている技術を転用して、コロナ治療や予防に役立てる(たとえばRegeneronのREGN-COV2)といったステップを踏んでいるからです。BioNTechは②にあたり、もともとの出自としては抗がん剤開発に取り組むバイオベンチャーです。
私たちはがん医療の個別化を目指しています。
(BioNTechのビジョン)
Modernaはもともと感染症もカバーしていたようですが、そのようなバックグラウンドのないBioNTechがコロナ感染の世界的な広がりに反応し、3月には既にPfizerと手を組み半年ほどでワクチンのフェーズ3試験結果を出した、という柔軟性はやはり素晴らしいです。Pfizerのようなメガファーマと組まなければここまで迅速に対応はできていなかったはずで、このような点からもBioNTechが自社だけでできること、できないことをよく理解している会社だと感じています(これは後半でも触れます)。
みなさんはいつまでBioNTech株を持ち続けますか?
BioNTech/Pfizerのコロナワクチンについてはこの先、EUA承認、優先順位の高い人々への供給開始、本承認、一般市民への供給開始、そして四半期毎の売上レポート、などイベントが盛りだくさんです。私はI have no positionなので答えようがないですが、イメージ的にはEUA承認で利確する人も多そうですかね?中には「BioNTechに惚れ込んだ!数年単位での長期保有や!」という方もおられるのではないかと思います。どれだけ売れるか、売れ続けるかは誰も予想できておらず、承認後もホルダーの方はドキドキできて楽しいのではと思います。保有予定の期間に関わらず「株価は$600を超える」と試算している以下のSeeking Alpha記事を読まれると、ホルダーの方は強気になれて良いと思います。
(記事より抜粋)
この記事の中で、ワクチンは2021年に売上のピークを迎え、徐々に落ち着いていくと試算されています。記事自体はざっくりとしか読んでいないので違うことが書かれているかもしれませんが、個人的な予想としてはワクチンは参入企業が多いのでゆくゆくは競合過多になってきてシェアを奪われていくとか、コロナ自体がコントロール可能な感染症に落ち着くことでワクチンの出番が徐々に減っていくとか、そのようなことを見越しているのだと思います。BioNTechもこの売上で得られたキャッシュを元に、次の打ち手を考えていく必要があります。
バイオファーマのステージ分類
私は最近個別株投資を始めたド素人ではありますが、バイオ銘柄は以下の3タイプに分けて考えています。
①売り出している製品がない
②売り出した製品が軌道に乗り始めた
③継続的に新製品を売り出している
③はPfizerとかGileadなど、いわゆるメガファーマと呼ばれる企業などを想定しています。個人的には投資対象にしていなくて、というのも事業が安定しているので株価が大幅には上がりづらいですし、製品群・開発候補品が多すぎて割高・割安の評価が難しいからです。高配当投資の対象としては良いと思いますし、私も一時期J&Jなんか良いなと思ったこともありましたが、結局ETFに任せることにしています。
余談になりますが、ビジネスモデルは多少違うもののRoyalty Pharmaなんかは③に該当すると思っています。私には中身の理解が難しく、割安なのかどうかがわからなかったので保有していません。ただ経営陣の今までの審美眼を評価して、将来的にも価値を生み出し続けてくれるはず、というストーリーを描くことは非常に納得ができます。
個人的な投資対象は①か②です。①、②では魅力的な開発品(専門用語でパイプラインといいます)を持っているかという点に加えて、特に①ではきちんと資金繰りができるか、という視点も重要になってきます。
BioNTechは来年から②の状態になると考えられます。②の方が①よりも当然安心して保有できるので、長期保有される方はこの先BioNTechがどのような発展を遂げていけるのかについて考えてみても良いかもしれません。
BioNTechの技術・パイプラインをみていきましょう
以下がBioNTechのパイプラインです。
現在11の開発品で治験を実施しています。全てではありませんが、Sanofi、Genentech(Roche傘下)、Regeneronといった有名企業とコラボを実施して、そのプログラムの中で治験にかかるコストを折半していたりと、地に足のついた戦略が練られています。来年以降はキャッシュリッチになるはずですので、もう少し大胆に自社開発を進められるようになると思います。
来年も複数のフェーズ1試験開始を見込んでおり、将来的な投資もバッチリという印象です。ここからはざっくりとそれぞれの開発品・モダリティ(治療薬としての技術)をみていきます。
FixVac(がんワクチン)
中身に入る前にネオアンチゲン とは何か、という解説記事を引用します。
ネオアンチゲンとは、がん細胞で起こった遺伝子異常によって生み出されるがん特異的な抗原のことをいいます。人間の身体は細菌やウイルスなど「自分の体の細胞」ではないものを「異物(非自己)」と判断し、
それらの異物を排除するなどして、生体を守る抵抗力が備わっています。
この仕組みを免疫といいます。人間のほとんどの細胞はその表面に「自己」を示す目印「抗原」を出すことにより、免疫から身を守っています。
がん細胞はもともとは正常な細胞であったのものなので、正常細胞と同様に表面に抗原を提示します。しかし、がん細胞はDNA変異が蓄積して増殖したものなので、提示される抗原は正常細胞のものとは異なり、免疫細胞に「異物」と判断され攻撃の対象となります。このがん細胞が提示する抗原のことをネオアンチゲンと呼んでいます。 作成:株式会社インテリム
(筆者により一部改変しています)
あまり細かい話をしても眠いだけですので、ネオアンチゲンとはがん細胞の目印だ、ぐらいにざっくり考えてください。FixVacはこの目印を強制的にヒトの体内に発生させることによって、体内の免疫細胞にがん細胞を攻撃するよう教育していくような感じのモダリティ(がんワクチン)になります。
がんワクチン自体は昔から検証されていて、そのモダリティにmRNAを使っていること以外は割と古典的なコンセプトというイメージです。個人的にはあまり興味がない分野で、安全性は高いものの単体で劇的に効くわけでもないので既に併用戦略が練られています。
iNeST(がんワクチン)
FixVacは様々な人のがんが共通して持っている目印を用いたがんワクチンですが、iNeSTは個別の患者がそれぞれ持っている目印を特定した上で、それを発生させるmRNAを組み合わせて投与する、というがんワクチンになります。モダリティは違いますが、Iovance Biotherapeutics(ARK銘柄ですよ!)が取り組んでいる治療法と似ていて、テーラーメイド医療と呼ばれるものですね。
人によって投与されるものが異なるので、有効性や安全性もバラバラになる可能性があります。それらを一まとめにした上で承認取得できるのか、という点がポイントだと考えています。
BioNTechの中ではコロナワクチンを除くと最も進んでいるプログラムで、メラノーマ(悪性黒色腫)を対象としたフェーズ2試験をGenentech(Roche傘下)とコラボして実施中とのことです。
(↑少し古いですが競合状況などがまとめられています。無数にあります)
バイスペシフィック抗体
冒頭のtweetで言及したバイスペシフィック抗体の結果が先週公表されているのでそちらをご覧いただければと思います。個人的には可もなく不可もなく、あまり印象的なデータとは感じませんでしたが、見る人によっては勇気づけられる結果かもしれません。
細胞治療
手前味噌ですが、CAR-T細胞治療などについては以下のnoteをご覧いただければと思います。
個人的にBioNTechの資料を眺めていて一番印象的だったのは以下のスライドです。
細胞治療は手間がかかるので、一回の投与でがんが完治すれば良いですが、効果が薄れてきたときが問題になります。Allogeneなどが取り組んでいるallogenic CAR-T細胞治療は、患者ではない人由来の細胞を用いているのである程度利便性があるのですが、それでも一回の投与はかなり高価になることが想定されます。
(↑autologus CAR-T細胞治療の値段。有名な話なのでご存知の方も多いかと思います)
BioNTechの上のスライドは、CAR-T細胞を一回投与し、効果が薄れそうになってきたらRNAワクチン(CARVac)で細胞を元気にさせていく、というコンセプトと理解しました。コロナワクチンが数十ドルで提供できるという話もあることから、RNAワクチンの方がCAR-T細胞治療よりも断然安いはずで、もしこのコンセプトの有用性がヒトで実証できるのであればその意義は大きいはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?私は今のところI have no positionを継続予定なのですが、最後の細胞治療のコンセプトなどはすごく面白いなと感じました。がん免疫療法は競合過多で新規薬剤の成功確率も低く、非常にリスクの高い分野ではありますが、これからコロナワクチンで得られるキャッシュを有効活用して大きく発展して欲しいですね。
参考:
BioNTech Corporate Presentation
https://investors.biontech.de/static-files/143c6fe9-ff77-44be-a7a0-1dc7d0ec1584
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