【脚本家】静原舞香へ15の質問【ピタ】
プロフィール
鳥取県出身。1986年生まれ。
武蔵野美術大学通信学部・油絵学科絵画表現コース在学中
7年間の会社員勤務を経て作家業に。
大島椿株式会社・ミス大島椿グランプリ(2012)
鳥取文芸エッセー部門佳作『言葉』(2019)
武蔵野美術大学通信学部・油絵学科絵画表現コース在学中
Q1 名前(ペンネーム)を教えてください。
静原舞香です。
このペンネームは、京都の武蔵野稲荷神社で考えてもらいました。
『水咲舞香』という水商売めいた名前も候補でいただいたのですが、水咲の方はすぐに花開く画数で、静原の方は地道に力をつけ――という画数だと聞き、「地道に」のほうを選びました。
Q2 脚本家を目指したきっかけは何ですか?
「脚本家になりたい!」と思っていたわけではなくて、「なんか、ものを作る人になりたい!」「表現する側にいきたい!」と小さいころから考えていたら、いつのまにか脚本家になれていた!というかんじです。そうはいっても、簡単に脚本家になれたわけではなく、それなりに紆余曲折がありました。ざっくり経歴を述べますと……。
■小学校時代
漫画や絵を描く。
■中学生時代
漫画や詩、クラスメイトに依頼された絵を描く。
月に1回、鳥取から大阪の演劇養成所に通う。
■高校時代
スポーツ特待生(陸上)で高校に入学。
学費免除をゲッチュ!しなければならない家庭環境になってしまい(涙)芸術科的な進路を望んでいたのですが、泣く泣くスポーツ福祉科に進みました。
■高校卒業後〜23歳
卒業後、再び大阪の養成所に9か月在籍。
上京し、全国の学校を巡回する劇団に1年間所属。
小劇場で役者。体調を崩して帰省。
■24歳〜31歳
再び上京。会社員として7年間勤務。
ミス大島椿に。
表現の世界を諦めきれず、2日間だけ公演される舞台、演劇ワークショップなどに参加。
会社員をしながら水商売勤務(学費貯金)。
28歳で武蔵野美術大学通信学部に入学。
「やっぱりなにかを生み出す側(作家など)」になりたいと強く思い始め、会社員をしながらFacebookに文章やイラストをあげる日々。
Facebookに掲載していた「インド旅行記」を小劇場役者時代の知人、現同事務所のブラジリィー・アン・山田さんが読んでくださり、現在の事務所をご紹介いただく。数か月間はプロットや企画書を作成し続け、審査などを経て専属となる。
と、このように、長年なんやかんや試行錯誤をしている過程で、人様に引き上げてもらいながら「今がある」といったかんじです。
しかしまぁ、1文字も脚本を書いたことがないまま30歳過ぎにデビューしたわけで、今もわりと綱渡りな毎日です。
Q3 得意なジャンルは?
これまでの仕事をたどって考えると、恋愛モノが書きやすかった印象です。
夜職ものも(自発的に書いたことはありませんが)、その現場に実際にいたので、得意かどうかはさておき、書ける(ほう)だと思います。生活のためや子どものために無理して働くなど、切実な場面をたくさん見てきたので……。
趣味で描いている漫画で考えると、素朴な日常を抜き取って描くことが多いので、ヒューマンドラマも得意というか、好き(かも)しれません。いくつか日常ものの趣味漫画を貼りますね。
『パセリ』
『それから』
『妹』
『そのへんの人たち』
『句読点から始まる恋』
『無題』(某雑誌に掲載していただいたもののネーム)
Q4 脚本を書く上で最も大切にしていることは?
自分とキャラクターの重なる部分を探すこと。
事務所に居残れるかどうか審査されていたころ、私は書けるはずもないS Fストーリーを社長のところに持っていったのですが、それがもう恥ずかしいくらいに解像度の低いお話で……。
そのとき社長に言われたのが「新人のころは背伸びして書くな」「知っている感情を書け」。
それ以降は、なるべくキャラクターと自分の共通点を探す、という作業をするようにしています。というか、「なりきる!」くらいのスタンスかもしれません。会議では「このキャラはこんなこと言わない!」と突っ込まれることも多々ありますが(汗)
Q5 登場人物を作り上げる際のアプローチ方法は?
いただいた企画書のキャラ絵や口癖などを見て妄想をひたすら練り上げていくか、キャラ絵しかない場合は一枚の絵からいろいろ発想していきます。例えば、仁王立ちで顔の前でダブルピースをしている女の子であれば、「これは陰キャにはできないポーズだから陽キャだな」とか。
とにかく、いったん自分の方で練って会議で提案してみて「ぜんぜんちゃいまっせ」と言われたら、まわりの人たちのお力(=意見)を借りてこしらえていく、といったかんじです。
以前、原作付き漫画の作画をしたときは、原作(小説)にキャラの身体的な特徴が記載されていなかったので、自分で考えてみました。
編集者の佐渡島康平さんに「キャラはシルエットが命だよ。ドラえもんを影絵にしてもドラえもんだとわかるし、ピカチュウを陰絵にしてもピカチュウだとわかるでしょ」とアドバイスされたものです。
それを意識しながら作っていきました。
この2人は風俗の店員なんですが、強引にお客を勧誘するんですね。で、これを高身長男性2人で描くと、ビジュアル的にめちゃくちゃ怖くなっちゃうし、原作のコメディちっくな雰囲気から離れて完全な夜職漫画になってしまうかも……と思ったので、高身長と低身長で太っちょ(陰絵で見たときにシルエットで認識してもらえるか?)など考えつつ、こしらえました。
あとは自分の好きな『糸目』を差し込みつつ(笑)。自分が持っているフェチの加減を入れられるよう……心掛けております。
ビジュアルから登場人物を作り上げていくことが多いかもしれません!
Q6 執筆時のこだわりや習慣はありますか?
(その1)机の上にポモドーロタイマーを置く。
これは週刊連載のときに培ったもので……。
連載当時、原作小説から漫画にするところをピックアップ→ネーム→下書き→ペン入れ→背景→カラーリング→演出(仕上げ)という鬼の工程を半年間休みなく一人でしなくちゃいけない状況になってしまいました。
もう時間もないわスキルもないわ、まぁとにかく右も左もわからなくて人生最大のピンチだったんですよ(ストレスで10キロ太りました)。
しかもテレビ番組と連動している週刊も連載だったので、原稿を落とすと全国に「こいつは原稿を落とすやつ」と放送されてしまう(それは困る)。
でも、体力的にも精神的にも限界がきていました。編集者に「たぶん鬱間近です。しかし、最後まで描きたいので解決策を教えてください!」と頼んだら、元自衛隊の専属メンタルコーチ(カウンセラー)を紹介してくださいまして。
そのカウンセラーから「ポモドーロタイマーを使いましょう。25分間集中、5分休憩。これを繰り返すのです!」とご教示いただきました。
その通りに描き続け、なんとか半年間走り抜けました。ちなみにこの25分間集中、5分休憩というスパルタ訓練(?)は本当にアーミー系が使うメソッドらしく、私はこれを『フルメタル・ジャケットスタイル』と命名しております。
まぁとにかく、このフルメタル・ジャケットスタイル期が人生で一番きつかったころなので、「あのときに比べたら今は全然マシ! だからまだファイトだ!」てな意味も込めて、机の上に必ず置いています。ポモドーロタイマーは精神安定剤であり、お守りです。
(その2)ノートを見返す。
ペンネームのくだりで申し上げた通り、一文字も脚本を書いたことがないままスタートしたので、現場で監督やシリーズ構成の方、先輩たちに言われたことをノートに取っておりまして。迷ったときに読み返したりします。
Q7 執筆のモチベーションを上げる方法は?
面白い映画や漫画、小説を観たり読む。「こういう話を書けるのって、すごいな……」と思うと、なぜかモチベ―ションが上がります。
Q8 これまでに携わった作品の中で、最も思い入れのある作品とその理由は?
最近だと『ひみつのアイプリ』第8話です。
初めてオリジナル作品に参加して、オリジナル脚本で何稿にもなってしまったのですが(汗)絵を描くのが好きな登場人物を差し込めたこと(なるべく自分に引き寄せた人物を書けた)、美大で得た知識を差し込めたこと(葛飾北斎について書けた)。社長に言われた「自分の知ってる感情を書け」が一番実現できたお話だったと思っていて、それができたのが嬉しかったです。観てください……!
Q9 執筆を仕事にして、最も幸せなことは?
書きたいものが書けたときと、「見たよ!」、「おもしろかったよ!」と言われたときでしょうかね……。
Q10. 好きな作家や影響を受けた作品は?
サルバドール・ダリ
オーブリー・ビアズリー
倉俣史郎『ミス・ブランチ』
吉田秋生『十三夜荘奇譚』
古谷実『ヒミズ』
伊藤潤二『富江』
永井豪『デビルマン』
業田良家『自虐の詩』
車谷長吉『赤目四十八滝未遂心中』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
ヴィクトール・フランクル『夜と霧』・『それでも人生にYESと言う』
吉村昭『破獄』
江戸川乱歩
遠藤周作
ティム・バートン
ジブリ(芝居の細かさ)
他にも好きな作家さんはたくさんいらっしゃいますが、このへんで……。
模写です
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』をテーマにしたS L銀河に乗ってきました
Q11. 印象に残っている言葉、セリフは?
いくつかあります。絵日記にしていたものを掲載します。
『君の名前で僕の名前を呼んで』(ルカ・グァダニーノ監督作品)
主人公が父親にゲイセクシャルだと告白したときに、父親が息子にかけた言葉が印象に残っています。セリフというより、そのシーン自体が最高に美しく。父親役(マイケル・スタールバーグ)の目がとても透き通っていて……。
「押し殺すな。せっかくの〜」は演じる人によってはうそっぽく伝わってしまうセリフだと思うのですが、まったく違和感がなく届いてきています。
「ああ、これは心から息子にかけている言葉だ」と感じました。
Q12. 趣味や仕事以外の関心事は?
美術です!
現在、武蔵野美術大学通信学部に在籍しているのですが、教授たちがみんな面白くてステキな人たちばかりで。
つい最近まで中国の僻地の洞窟へ行って古代壁画の研究をされていた先生や、数十年単位でベラスケスの研究を続けていて、お金がないから裁判所で法廷画家のアルバイトをしている先生など……。みなさん、かなり個性的でして。(笑)
でも、そういった、何かを極めようとしている人たちの言葉ってすごく豊かで励まされます。
「美術の中の発見は作った本人にしかわからない」BY.彫塑の授業で
「数じゃない、ひとつに対する想いが大事だ」BY.陶芸の授業で
「この世には粘土しかない。俺たちの表現方法は粘土しかない。そのくらいの気持ちで作れ」BY.彫塑の授業で
その人の経験からしか生まれない言葉だと思っていて、数年たっても記憶に残っています。
また、美術に興味がどう――という垣根を越えると、大学は卒業しておきたいという気持ちがハッキリあって。それは学歴が欲しいとかそういうものではなく、高校時代に家計の事情で進みたい道(芸術)に進めなかった悔いが心に残っているためです。私は双子で生まれたのですが、妹が小さいころに病気で亡くなってしまっているから、「生き残った側なんだから目一杯生きたほうがいい」という想いがあったりするためでもあります。
それで、めいっぱいのエネルギーをどこに使おうかと考えたときに、大きく見ると『芸術』なんです。芸術には脚本ももちろん含んでいます(私の中では……)。
そして、絵なんて脚本の仕事とまったく関係ないじゃないか!と思われがちなのですが、そうでもない。映画なりを見ていて「なぜこの色彩設計にしたのか」とか案外地味な発見を得る瞬間があります。そういうときこそが嬉しく(悲しいことに、それが自分のマネタイズにつながることはありませんが)。
それよりもなによりも、単純に、なにがなんでもクリエイティブの世界で生きていきたい(食っていける状態でありたい)というのが根本的にあって、そのために勉強というか、自分の引き出しをたくさん持っておきたいというか。
(ひとつに絞ったほうがいいということも承知の上ですが)
今までは感性だけでなんとかやってこれたのですが、やっぱり理論とかしっかりとした裏付けがないとなぁ、と仕事をやって常々感じてきたので、だから、勉強です。
というよりも、「蓄え中!」といったかんじでしょうか。
ただ、卒業率が2割前後という、絶望的な状況でして。それでいて仕事で得た原稿料の3割が学費に消えるという状況なので、予算や生活を考えたとき、ふと「あきらめちまおうか」とも思ったりもします。執着を捨てたらいかほど楽になるかもわかってますし。
しかしまぁ、そうではあっても、どうにか走り抜けようかと思っております。
下記の趣味漫画は学校に絵が「うまい」じゃなくて「すごい」人がたくさんいて、挫折したときのものです。
『なにもない』
『私の色彩』
※誤字あり。必須→○ 必須う→×
Q13. 最近読んで印象に残った本、漫画は?
魚豊『チ。_地球の運動について』
小西明日翔『来世は他人がいい』
サガノヘルマー『BLACK BRAIN』
乃木坂太郎『夏目アラタの結婚』
今村夏子『こちらあみこ』
村田沙耶香『地球星人』
浅井リョウ『正欲』
小川糸『とわの糸』
地球星人とBLACK BRAINについては、なにがどうなってこんなカオスな展開を思いつくんだろう……と度肝を抜きました。
Q14. 今後挑戦してみたいジャンルや題材は?
恐れ多いのですが、文学作品のアニメ化に携わりたいです。
『青い文学シリーズ』という日本の文学アニメがあるんですが、それが最高に面白くて……。というか、私の癖に刺さりました。
夏目漱石『こころ』のキャラクター原案を小畑健さんがされていて、原作に登場する「K」(主人公に「精神的に向上心のないやつはばかだ」と言ったあとに自死する男)が、アニメ版だとものすっごく雄々しく、荒々しい男性像で描かれていたんですよ。
すさまじい高身長。乱れたロン毛に無精髭。ギリシャ彫刻を思わす美麗な肉体。ときおり着物から見えるエロティックな太もも。重そうなイチモツを秘めた、使い古しの褌。それでいて純粋無垢でインテリジェンス……。
と、なかなかによろしく。かつ、原作にない艶かしいシーンもオリジナルで差し込まれていて、「いつかこういうの書きたいな」と思いました。
ほかには『世にも恐ろしい日本昔話』というホラーアニメシリーズもあるのですが、「かちかち山」や「浦島太郎」にも衝撃を受けまして。
「かちかち〜」は私たちが知っている話とまったく違って、たぬきがいい奴でうさぎが極悪非道。「うらしま〜」は竜宮城が遊郭だったり、ヤク漬け話だったり。
既存のものを再解釈して作る―というのもやってみたいですね。
江戸川乱歩の作品も定期的にアニメ化されていますし、それにも……。江戸川乱歩のあの淫靡な世界が大好きなのです。
「強い女性像」「覚悟を決めた女性」をテーマに小説をアニメ化など、オムニバス企画があれば参加したいな……とも考えております。
例えばですけど、江戸川乱歩『黒蜥蜴』、谷崎潤一郎『春琴』、太宰治『斜陽』、三島由紀夫『美徳のよろめき』のアニメ化です。
これは個人的な感想なのですが、上にあげた小説に共通するものは「女性の強さ、潔さ」だと思っておりまして……。
どの作品も「恋」をきっかけに各主人公が心変わりして、大きな決断を自分に下すんですよ。その瞬間がですね、もうふるいつきたくなるほど美しくて!
とにもかくにも、「恋」の力で主人公の価値観がガラッと変わる瞬間が小説にはありまして、そこを映像で見てみたいのです。その脚本も書きたく。
オリジナル作品にもたくさん携わりたいです。完成までものすごく時間がかかるけど、多くの人のアイデアに触れたり、知れたり、一緒に考えたりすることが好きなので、書けるチャンスがあってほしいです。
まぁ、なにはともあれ、いっぱい書いたほうがうまくなるでしょうし、ジャンル問わず、常にいろいろ書けていけたらいいな、と。
※勝手に趣味で描き起こした文学作品の一部を少し貼っておきます。
『金色の死』谷崎潤一郎
あいだのページを端折りつつ……
『金色の死』は短編なのでぜひ。岡村くんというお金持ちの男の子が、芸術にハマりすぎて、どんどん作品をこしらえているんですが、どれも異常で。
最終的には自分の体に金粉を張って「俺が芸術品」みたいなことを言うんですが、金粉で皮膚呼吸ができず死んでしまい……。
破滅的で耽美な話です。
『こころ』夏目漱石
『破獄』(吉村昭)
『マークスの山』高村薫
『仮面の告白』三島由紀夫
これは主人公が父親の書斎で『聖セバスチャン』の絵を見て新たな性癖を開眼させるところです。ちなみに小説の最後の1ページ、終わり方がすごく好きです。
『よだかの星』宮沢賢治
『斜陽』太宰治
Q15. 将来の目標や夢は?
上記に書いた「文学アニメ」しかり、多くのアニメ作品に携わり、常に作品を世に届けていられる状態が理想です(ありがたいことに今もそうですが)。
それが途切れない未来であってほしいです。
それとは別に、最終的には小説家になりたいです。英雄譚や冒険譚などの大説ではなく、小さな世界(=小説)を書きたいです。書くとしたらたぶん、夜職なりそっち系を絡めると思います。生活のために自分の信念なり、願望を歪めなくちゃ生きていかれなかった人が、世間からどんな誤解や差別を受けながら生きてきたか。
そういうものに焦点を定めて、光を当てて、その人たちがどんな想いで生きてきたのかを、ちゃんと文字に起こしたいです。
まぁ、大学うんぬんしかり、今やっていることがしっかり未来で役立っている状態だと嬉しいですね。イラストや絵の仕事、漫画も。
とにもかくにも現在は蓄え中であって、無造作に種まきの時期ですので。
汚くてもいいから、咲いてほしいです。
脚本家、静原舞香に関するお問い合わせはこちらまで
E-mail:info-pita@pita-inc.com