夢か現か幻か
ねぇお師匠様!
ボク、とぉーってもイヤな夢をみました。
コレもきっと、「あいつ」のせいですよぉ!
「あいつ」がお師匠様の事を貶すから
「あいつ」が自分がボクの師匠だなんて言うから
ボクの事を
「アイ」してるだなんて言うから。
ねぇ、お師匠様。
ボクは「あいつ」の弟子じゃなくって
お師匠様の、弟子ですよね?
………お師匠様?
ーーーー
髪を撫でていた手がピタリと止んだ。
お師匠様の膝の上で微睡んでいたボクは
お師匠様にもっと撫でて欲しくって
寝惚けながらもっと撫でてと言おうとしたのに
お師匠様が急に立った事によって
ベッドに叩きつけるように落ちてしまい
フワフワした小さな幸せから
現実へと連れ戻された。
ぽやぽやした眼でお師匠様を見上げると
優しく微笑んでいた姿は無く
感情を削ぎ落とした氷のように冷たい瞳で
ボクの事を見つめている。
そして、こう仰られた。
「あいつに、あいつなんかに渡してなるものか……。
やっと手に入れたんだ…。
やっと手に入れた"神器(じんき)"なんだ……。
奪われるくらいなら
いっそ……この手で……。
嗚呼、ピスケス。
愛しの宝石。
私の"ヒカリ"。
私の"未来"。
例え器だけのお人形さんになっても
変わらず愛してあげるよ。」
ーーーー
その後のことはぼんやりとだけ。
お師匠様は死体になったボクの身体を器に
"神"を降ろし
学園を、国を制圧した。
「あの子」や「あいつ」は対抗したけど
"神"には勝てず呆気なく屍となった。
お師匠様は
衰退していく人類史に興味は無く
献上させた金で
豪華で頑丈な部屋を造らせ
"神"と化した"ボク"を着飾り
大切に、愛しそうにお世話した。
でもお師匠様は"ボク"の機嫌を損なわないように
とても、とても必死でもあった。
興味が無くなった"神"が
器ごと消えるのを恐れていたから。
雲ひとつとしてない清々しい青空のとある日。
お師匠様は絶望の悲鳴をあげた。
元より"神"とは気まぐれなモノ。
"ボク"が存在したという事実のみ残し
足枷であった箱庭を壊し
コチラを振り返る事無く
器ごと消えてしまった。
それから数ヶ月も経たぬ間に
自暴自棄になったお師匠様によって
世界を支える均衡であった世界樹が壊され
少しずつ
けれど確実に
世界は滅んでいった。