見出し画像

あなたが結婚するまで死ねない


私の祖父母4人のうち、健在なのは母方の祖母だけだ。もう100歳に近い。

祖母は痴呆の症状があり、一時徘徊などもあったので、現在は24時間介護付きの老人ホームに入居している。大きな病気などはない。

もう実の娘である私の母のこともよくわからなくなった、と聞いて覚悟してお見舞いにいったら、熱心に当時話題だったラグビーの五郎丸の生い立ちから話をしてくれて、えらいはっきりしてるなと驚いたり、「むんさん」「むんさん」と私のことは覚えていて嬉しい!と思って話しているうちに次第に話がかみ合わなくなり、元気かと思えば疲れて横になってしまったり、老いというのは非常に自由で幅広く、私のような若輩者が想定できるようなものでは無いのだと思い知らされた。#五郎丸#あとはお相撲大好き


そんな祖母は、10年くらい前から「むん が結婚するまでは死ねない」が口癖だった。いとこ含め5人の孫のうち、結婚していないのが私だけになったのだ。兄は、公式年表はちゃらんぽらんだが愛情深いタイプの人で、20代半ばで授かり結婚した。妹は、企業でのお勤めはあまり好きじゃなかったが、そこの同僚と結ばれ20代後半で結婚した。いとこたちも適齢期で、とってもナチュラルに結婚した。
とにかく独身は私だけなのだ。#なぜ

「むん が結婚するまでは死ねない」という言葉はとても私を励ました。「おばあちゃんに花嫁姿を見せなくては」と意気込みもした。私の結婚をキラキラした瞳で楽しみにしてくれた祖母は、乙女の憧れのような気持ちで心から期待を寄せてくれているように見えたから。

その頃両親は、結婚の話をすると恐ろしく不機嫌になる私を警戒していた。気を遣って遠回しに私の恋愛事情を探ってくるものの、その気遣いがなぜか更なる苛立ちをよび、ブチギレしてしまう私。親はまったくよく分からない反抗的な不安定娘(むん)に対しその話題は極力避けるまでになっていたけど、祖母は素直に私の結婚を期待したし、私も祖母には全く苛立たなかった。

そんな中、私はとある事実に気が付いた。
「むん が結婚するまでは死ねない」
この言葉は「むん が結婚したら死ねる」とも解釈できる言葉ではないか?

これには驚いた。
これぞほんとのマジックワード。

私が結婚を焦ってしまうと、うっかり「早く死んでくれ」というメッセージを届けることになるのだ。#そうか?

そんなひどい話があるだろうか。そんなこと、あってはならない。これはやすやすと結婚するわけにはいかない。本当に気がついて良かった。祖母は、「結婚していないステータス」の私を守ることにもなるマジックワードを使っていたのだ。

おばあちゃん。長生きして欲しいから私はまだ結婚しないね。#あってる?

それから私と祖母の攻防が始まり、我慢比べ状態が今も続いている。私はちゃんと、まだ結婚していない。そして、祖母はちゃんと、生きている。持久戦だ。#そろそろサドンデス

おばあちゃん、こんな世の中になったけど、お互い頑張ろうよ。こんなに約束を守る私たちだもの。絶対に幸せになるよ。

#おばあちゃん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?