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サクッとかじれるショートショート

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自作のショートショート小説集。コメディ寄りです。
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#超短編小説

アメリカ製保健室 | ショートショート

「タカシくん、ヒロアキくん、開けなさい!」 二人の男子小学生が学校の保健室に閉じこもった。 後ろでガシャンという音が聞こえて田口先生が振り向くと、自分について保健室を出るはずだった二人の姿が消え、分厚い扉が閉まっていた。 慌てて開こうとするが、びくともしない。 その扉は普通の小学校にあるようなドアではなかった。 アメリカの姉妹都市から招いた建築家が設計したこの小中一貫校は、外部からのあらゆる脅威に対応できるように必要以上の頑丈さで建てられた。 特に各部屋の扉は特別頑丈

ドローンの課長 | ショートショート

ブーン…。 両肩と腰をドローンにつながれ、床から30センチほど浮いた山田課長が目の前を横切っていく。 私がこの佐久主商事に転職してきて数ヶ月。 営業支援システムの開発職ということで気合を入れて入ってみたら、高齢でフラフラの先輩方をドローンで吊るして目的の営業先に飛ばす仕組みの開発が待っていた。 いや吊るされる皆さんは移動が楽になったと喜んでいるし、一応営業を支援しているわけなのだけど。 なんというか…思っていた開発職とちがう。 老人が吊るされて飛んでいく姿を見た時の罪

時間を超える待ち合わせ | ショートショート

「兄さん、急に呼び出して何ごとだい?」 「きたか。 お前が開発したコールドスリープ装置はずいぶん注目されているらしいじゃないか」 「おかげさまで問い合わせが殺到して忙しくしているよ。 兄さんも意地を張らずに開発に加わってくれたら良いのに」 「ふん、なぜ私がお前の下で働かなくてはならない。 先に成果を出したからと言って調子に乗りすぎだ。 これを見るがいい!」 兄が仕切りのカーテンを引くと、小型車のような乗り物が現れる。 「私が開発したタイムマシンだ!」 「な、なにぃ

老舗和菓子屋のクリスマス | ショートショート

「パパ、確認なんだけど」 「なんだい」 「これはクリスマスツリーではない?」 「クリ…スマ…なんだって?これはうちの店の年末用の飾り付けだぞ」 「いやどう見ても立派なクリスマスツリーなのだけど? もみの木にオーナメントが飾り付けられてキラキラしてるし」 「これはあれだ…でかい盆栽に菓子を飾り付けるという新しい販売手法だ。目立つように光らせてな」 「あくまで和のイメージだと言い張るわけね。 見た目の和菓子感ゼロなんだけど…。 あのオーナメントボールのようにたくさんつ

台にアニバーサリー | ショートショート

「じいちゃん…」 男手一つでミゲルを育ててくれた祖父が亡くなった。 事故で両親を失った時に引き取られ、それ以来唯一の家族だったのに。 支えを失ったミゲルは途方に暮れた。 そんなミゲルの元に遺産の管財人が訪れる。 未成年のミゲルが一人になっても生きていけるように、祖父があらかじめ手配してくれていたのだ。 祖父と住んでいた自宅と工房はミゲルが相続し、今後5年間ミゲルが成人するまで毎年生活費が支払われる。 管財人はそう説明すると生活費が入った重い袋をミゲルに手渡し、これ

白骨化スマホ | ショートショート

自動ドアを通って店に入ると、やたら明るいスタッフに迎えられた。 「いらっしゃいませ!スカルモバイルへようこそ! 本日は乗り換えですか? こちらへどうぞ!」 テーブルを挟み向かい合わせに座る。 スマホをテーブルの上に置き、氏名や年齢等の質問にボソボソと答えた。 「見たところまだまだ乗り換えは必要なさそうですが、何か問題でも?」 「半年くらい前から調子が悪くて…あちこちで診てもらったんですけど治すのは難しいみたいで…もう乗り換えるしかないかな、と。」 「そうですか…まあ

助手席の異世界転生 | ショートショート

その日、田中くん一家は家族旅行からの帰りのドライブ中でした。 パパが運転しながら助手席のママとお話しています。 後部座席の田中くんの隣では妹のみさちゃんが疲れて眠っています。 田中くんもウトウトして眠りそうになっていると、 パパが突然「おい、どうした!!」と叫びました。 びっくりして目を開けると、助手席のママのまわりに光の粒がたくさん浮かんでおり、その数がどんどん増えています。 「ママーッ!!」 光はどんどん強くなっていき、ママの姿が見えなくなりました。 田中くんはあ

お前もゴリラにならないか? | ショートショート

「今お時間ありますか?」 ブラブラしていたら探検家のような格好をした女性に声をかけられた。 近くで無料VR体験会をやっているのでぜひ体験していってほしいという呼び込みだった。何やらその時々の格好に応じて異なる世界を体験できる最新型のVRゲームらしい。 面白そうなので体験してみることにした。 女性に案内されて体験施設に入り、受付で簡単なアンケートを記入する。 隣接する動物園にちなんでか、動物の着ぐるみを着て遊ぶのがおすすめとのことなので、目の前にあったゴリラの着ぐるみを選

10秒で倒す | ショートショート

「10秒で全員倒す」 「ふはは、この10人は精鋭だぞ?10秒後に倒れているのはお前の方ではないか?」 「1」 「一撃でやられないようにせいぜい気をつけ…どこに消えた?!」 「2」 「に、逃げたのか?!いや、どこかに隠れて不意打ちを狙っているはずだ。気をつけろ!」 「3!」 「さ、三人が一度にやられただと?!」 「4!!」 「集合して防御を固めろ!このままでは一人ずつやられていくぞ!」 「5…」 「5人倒されてしまったが、どうやらその技はかなり体に負荷がか

戦国時代の自動操縦(ショートショート)

戦国時代。 戦のために近くの村の働き手の男たちが兵として徴用され、残された村には女性と子供、老人しかいなくなってしまうということがよくありました。 その村も近くで大きな戦があり、男たちは兵として徴用されてしまいました。 戦は激しく、徴用された者のほとんどが帰ってきませんでした。 村には田畑はあっても耕せる者がおらず、このままでは年貢を納めるどころか残った村人が冬を超える分の食料すら確保することができません。 もう別の村に引っ越すしかないかと諦めかけていたある日、高齢の陰

親切な暗殺(ショートショート)

ガシャンッ!! ガラスが割れた音がしたと思ったら首根っこを掴まれて床に引き倒され、背中に誰かが覆いかぶさってきた。 次の瞬間、耳をつんざくような爆発音が起こり、熱風が襲いかかる。 何者かによって執務室に爆弾が投げ込まれたらしい。 今も背中で守ってくれている者がいなければ、気づく間もなく吹き飛んでいただろう。 私を狙ったのであろうこの爆破はT国によるものと思われる。 軍の参謀を担っている私を暗殺することで戦争を短期決着させる目論見だったのだろう。 「このまま死んだ方がこ

ごはん杖(ショートショート)

「ごはんが食べたい…」 遭難してかれこれ2日経った。 4日間かけてのソロ縦走登山。 その1日目に崖を滑り落ちて荷物を失い、足もくじいて動けなくなってしまった。 手元にあるのは水の入ったペットボトル、圏外のスマホとトレッキング用の杖のみ。 空腹で意識が朦朧としてきた中、ふとスマホを見るとメールが届いていた。 今はまた圏外になっているが、一時的に電波がつながったらしい。 メールは自宅で待つ娘からで「ご飯が食べられない状況になったら杖の持ち手を開けてみてね♪」とある。 こち

忍者ラブレター(ショートショート)

「昨日ラブレター届けに行ったんでしょ?どうだった?」 「う~ん、ダメだったわ…。」 仕事帰りにカフェで話す二人の女性。 「試験でやったとおり潜入して机に手紙を置いてみたんだけど、部屋に戻ってきた彼が手紙を見つけた途端に震え上がって読まずに捨てられちゃったわ。」 「急に自分の机の上にラブレターが現れたらそうなるわね。」 「本当にこんな方法が結婚につながるのかしら…」 二人はこの3ヶ月間一緒に受講した婚活セミナーを振り返る。 「幸せは闘って手に入れろ」というアグレッ

最後の数学ダージリン(ショートショート)

父が数学教授で、休日にはよく勉強を教えてもらっていた。 ある日、数学の課題の解き方が分からなくてイライラしていると 「紅茶はリラックス効果があるんだよ」 と父がミルクたっぷりのダージリンティーを淹れてくれた。 生まれて初めて飲む紅茶の香りは確かに心を落ち着かせてくれて、問題を解きやすくなった気がした。 父はそれ以来数学の勉強をするときはいつも紅茶を用意してくれるようになった。 「数学ダージリンをどうぞ」と冗談めかして。 問題が解けるようになると勉強も楽しくなるもので、成