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サクッとかじれるショートショート

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自作のショートショート小説集。コメディ寄りです。
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2024年3月の記事一覧

桜回線を流れてきたもの

スペースコロニー内にはパークルームと呼ばれる室内公園がいくつか存在する。そのパークルームの1つを貸し切り、矢端は一人実験の準備をしていた。 部屋の入口の正面、いつもは時間帯によって青空や夕焼け空の映像が映されている壁が今は実験の要となる特殊なシートでコーティングされ、オパールのような薄い虹色に輝いている。 矢端がシートの状況を確認しながら手元のタブレットを操作していると、入口の扉が開いて60代くらいの白衣の男性が入ってきた。 矢端の同期でこのプロジェクトをともに進めている

三日月ファストパスは一度通ったら戻れない

「お二人で旅行ですか~?海に行かれるなら三日月浜が景色が良くておすすめですよ~」 洋平と美佳がサービスエリアの土産物コーナーを見て回っていると、店員のおばちゃんが声をかけてきた。 3月上旬。週末を利用した一泊二日旅行の帰り道。 まだ時間があるのでどこか観光してから帰りたいね、と二人で話していたところだった。 「良いところを探してたところなんです。三日月浜はここから近いんですか?」 「はい、すぐそこですよ!こちらの地図をお持ちください。ちょっと道路から離れているので、こ

悪魔王女のお返し断捨離作戦

「フハハ、次に我が降臨する時を震えながら待つがよい!」 玲奈がスタッフに別れの挨拶をして楽屋に入ると、マネージャーの志代が待ち構えていた。 「玲奈ちゃん大変。 玲奈ちゃんのファンから届いた贈り物が多すぎて、もう事務所に入り切らないみたい。 社長から何とかしてくれって電話があったわ」 「ククク、愚民どもが我の…じゃなかった。 そ、そんなに来てるんですか?」 「わたしもびっくりよぉ。 とりあえず事務所に向かいましょう」 タクシーで事務所に戻ると、受付から廊下まであらゆる

突然の猫ミーム

「今日もがんばったね…」 土曜日の午後。 膝の上で丸くなっているルナの背中をそっと撫でて労う。 ルナとの出会いは一ヶ月ほど前。 大学の授業を終え、午後の公園。 お気に入りのベンチでコーヒーを飲んでいた。 公園の隣にはペットショップがあり、ベンチに座るとウィンドウ越しにかわいいネコちゃんやワンちゃんを眺めることができるのだ。 子猫たちがじゃれ合う姿に癒やされながら、ほう…とため息をつく。 ああ、猫が飼いたい。 毎日癒やされたい。 今住んでいるアパートがペット禁止じゃな

レトルト三角関係エンド

ぼくは今とても傷ついている。 朝起きて食堂に入ったら、クルーのジョージが仰向けになって床に倒れていた。 目を見開き、苦悶の表情。 どう見ても死んでいる。 ジョージの動かなくなった視線が向いている先、中央のテーブルには同じくクルーの女性二人、サラとミウが向かい合わせの席に座った状態で朝食のトレイに顔を突っ込んだ状態で息絶えている。 4人しかいないクルーのうち、ぼく以外の3人全員が死んでいた。 何があったらこんな状況になるの? 船内の監視カメラの映像を観れば何が起こったか