くまのプーさん/Micimackóを巡るはなし
ハンガリーでも親しまれているくまのプーさん。
原作はイギリスの作家、Alan Alexander Milne(A. A. ミルン)が息子クリストファー・ロビンの為に書いた"Winnie-the-Pooh"とその関連作品。また、キャラクターとしては現在はディズニーの黄色いくまのプーさんが知られていますが、元々Winnie the Poohはクリストファーが大切にしていたテディベアのことで、原作のイラストも茶色いくまで描かれています。
くまのプーさんはハンガリーでも人気で、ハンガリー語ではMicimackó(ミツィマツコー)と呼ばれています。
ハンガリーではなぜ"Micimackó"?
その前に、Winnie the Poohの名前の由来の話。Winnieはロンドン動物園にいた熊の名前でPoohの方はミルンとクリストファーがよく訪れた場所にいる白鳥の名前だったそう。つまり"Winnie the Pooh"は「名前+冠詞(the)+名前」の組み合わせです。
ハンガリー語の"Micimackóは"Mici"+"mackó"の組み合わせになります。mackóはハンガリー語の熊(medve)の愛称形で、日本語に訳すなら「熊ちゃん」といったところでしょうか。"medve"にはその他にも"maci"なんて愛称もあります。
大学でハンガリー語を学んでいた時からmackóが熊を意味することは知っていたので、このネーミングになんの疑問も抱いていなかったのですが、この前Twitterで"mici"は小さいという意味ですか?という質問をいただきました。確かに小さい(pici)にも似ているのであり得るかもしれない…と思いつつ、もう少し調べると、"mici"には興味深い話が隠されていました。
Micimackóの生みの親、カリンティ・フリジェシュ
Karinthy Frigyes(カリンティ・フリジェシュ)は1887年にブダペストで生まれ、ユーモア小説を中心に作品を発表し、20世紀前半に活躍した作家です。また、全ての物事や人間関係は6つのステップで繋がっているという「6次の隔たり」を初めて提唱した人物としても知られています。
カリンティは翻訳家としても活躍し、ミルンの"Winnie-the-Pooh"のほか、ディケンズの「二都物語」やトウェインの「トム・ソーヤの冒険」、スウィフトの「ガリバー旅行記」など著名な作品の翻訳も行なっています。
実はカリンティ自身は英語もドイツ語もあまりできませんでした。どうやって翻訳を行なっていたかというと、語学に秀でていたとされる彼の姉、Emília(エミーリア)が最初に英語からハンガリー語へ翻訳し、その後カリンティがハンガリー語の表現を整えていた、とされています。
カリンティは"Winnie-the-Pooh"の作品に翻訳の立役者であるお姉さんの愛称を付けました。Emíliaの愛称は"Mici"。つまり"mici"には「小さい」という意味はなく、"Micimackóはこの作品を翻訳したカリンティのお姉さんの愛称から得た名前だったのでした。
世界のくまのプーさん
というわけで、ハンガリー語のMicimackóは「名前+熊ちゃん」で、"Winne"も"Pooh"の要素も含まれていないことが分かりました。ここで気になるのは他の国の表現です。ちゃんとした検証はできていませんが、Wikipediaの各国語版とGoogle Translateを駆使して調べたところ以下のように分類できることが分かりました。
①直訳系…原題をそのままWinnie the Poohをそのまま発音に即して呼んでいる
・オランダ語 Winnie de Poeh
・スペイン語 Winny de Puh
・イタリア語 Winnie Puh
・クロアチア語 Winnieja Pooha
・ルーマニア語 Winnie de Pluș
・ロシア語 Винни-Пух
②くまのプーさん系…熊を意味する単語とPoohの名前を組み合わせた形。日本語もこのグループ
・日本語 くまのプーさん
・ドイツ語 Pu der Bär(訳:熊のプー)
・韓国語 곰돌이 푸 (訳:熊のプー)
・チェコ語 Medvídek Pú (訳:テディベアのプー)
・フィンランド語 Nalle Puh (訳:テディベアのプー)
③くまのウィニー系…名前の方でも"Pooh"ではなく"Winnie"の名前を採用した形
・中国語 小熊維尼(訳:子熊のウィニー)
・フランス語 Winnie l'ourson (訳:子熊のウィニー)
④例外系…上記①〜③以外の形。
・ポーランド語 Kubuś Puchatek
・ノルウェー語 Ole Brumm
・デンマーク語 Peter Plys
そしてハンガリー語 Micimackó
ポーランド語、ノルウェー語、デンマーク語は私のリサーチ能力では分からず、また見た目にも例外っぽい気がするので、例外系に振っています。(どなたかそれぞれの言語にお詳しい方、それぞれの名称の意味を教えてくだ猿と嬉しいです。)
だとしても、ハンガリー語のMicimackóというネーミングは世界的に見てもかなり珍しいパターンだということが分かりました。
くまのプーさんのテーマソング
最後にもう一つ、ハンガリーオリジナルのくまのプーさんの話。
くまのプーさんのテーマソングといえばこちらを思い浮かべませんか?
大学1年生の時のハンガリー語の授業で、ハンガリー人の先生が「くまのプーさんの歌はなんですか?」と質問して、クラスのみんながこの歌を口ずさんだところ、違う、といってこの曲をかけました。
この曲は1971年に発表された曲で、くまのプーさんの原作、A. A. ミルンの"Winnie the Pooh"のハンガリー語訳からハンガリーを代表する歌手Bródy Jánosが作詞、曲を付けたもの。
元々は1970年代に活躍した歌手、Koncz Zsuzsa(コンツ・ジュジャ)が1971年に発表した曲ですが、1976年にHalász Judit(ハラース・ユディット)という歌手がカバーし、今ではこちらの方が知られています。(Youtubeの方もハラース・ユディット版)
今回、Micimackóを調べる中で、ハンガリーでは名前といい、歌といい、独自の形でくまのプーさんが親しまれていることがよく分かりました。