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島根県益田市のスクールコミュニティ
2024年9月4日、「過疎」発祥の地でもある島根県益田市を視察。
ひとづくりと地域づくりを一体的に進めるスクールコミュニティづくりを伺い、大変有意義な視察となった。
益田市の取り組みは、小中学生が感じる地域課題に対し、地域の大人が関わることによって、小さな思いが行動になり課題解決につなげ、地域への愛着を育むというもの。
自分としては、子供たちに対するアプローチが重要と思いつつも、具体的な方法にたどり着けずにいたが、本当に素晴らしかった。
以下、自分なりの解釈も含め、益田市の取り組みを紹介する。
(0)益田市の概要
・益田市は、人口約4万3千人。島根県の西部に位置する市。
・合併前の町村の区分により20の自治会に分かれており、市街地の3つの自治会は5000人を超えるが、それ以外は数百人規模。
・今回話を伺った豊川地区は人口781人。その中に小学校2つ、中学校1つがある。(なお、さらに山側にある真砂地区(人口300人)も素晴らしい取り組みをしていた。)
・そもそも小規模な小学校も維持していることは、市としての努力であろう。
(1)きっかけ
少子化、過疎化の流れは強く、小学校では、①児童数の減少、②PTAの弱体化、③教員と地域の関係の希薄化、が進行していた。
一方で、地域においても、①近い年代の繋がりが希薄化、②既存団体が高齢化で存続困難、③子供がいない自治会も増え地域と学校の関係が希薄化、という課題があった。
このため、「つながり」を作り、「活動」を作り、「学びの場」を作る、ために、平成24年に「豊川地区つろうて子育て推進協議会」を設立し、地域で子供に関わる様々な団体がより良い教育環境を作るために立ち上がった。
(※「つろうて」というのは「みんなで」という意味の方言です。)
例えば、PTAにしても昔のようにイベントを回せるほどの体制もない中で、地域と連携して、コミュニティースクールとして運営することで、地域全体で小学校を支えていく体制を作っている。
学校側の課題と、地域の課題の両方に目を向け、それぞれの活動団体が一同に介して将来を語り合うことが大事だったのではないかと思う。
人が多かった時代には、学校はPTAを中心になんとかなっていたし、地域の青年団やボランティア活動もそれなりに自分達だけで大きな活動ができていたのだろう。しかし、小学校全体で20人程度しかいない現状においては、学校も、そして地域の組織も単独では活動に限界があるということではないだろうか。
(2)小中高生の居場所づくり
協議会の立ち上げから、次は、「とよかわ寺子屋」(平成26年〜)、「中高生地域活動グループ・とよかわっしょい!!」(平成26年〜)が立ち上がる。
寺子屋では、地域と子どもをつなげる学びの場を作るため、英語教室やプログラミング教室、歴史教室など、学校の時間外で地域との学びの場を用意した。
中高生の地域活動では、地域の中に中高生の居場所(サードプレイス)を作ることを目的に、グループで地域の文化祭への出店を行うなど、地域社会との接点をつくってきている。
(3)学校と地域の関わり
平成27年度には、豊川小学校がコミュニティスクールに指定され、「豊川地区つろうて子育て推進協議会」をベースに学校運営協議会を作る。学校での学びを地域へ、地域での学びを学校へ、というコンセプト。具体的に重要な役割を果たすのが、学校内での「地域交流スペース」と、「社会教育コーディネーターの配置」だ。
地域交流スペースの設置と活用はもちろん大事だが、学校と地域の関わりで非常に素晴らしいと感じるのは、「社会教育コーディネーターの配置」と感じる。
学校の先生は、全県での人事異動であるため、地域出身者が必ずしも来るわけではなく、数年で異動となり、その上、昨今は非常に多忙となっている。
そうした中で、子どもたちの日々の興味関心(例:鳥獣害被害軽減のために何かしたい。)を地域に落とし込んでいくためには、学校側にアクセスポイントが必要になる。そうした点を担うのが社会教育コーディネーターだ。
ただ、この社会教育コーディネーターについては、人件費に対する国の財源措置が乏しい。当初は補助金などを活用したようだが、数年で自立を求められるため、今は自主財源(益田市の支出か?)で運用している様子。
(4)更なる発展
こうした取り組みを行い、さらに発展させていくため、「豊川の将来を考える会」を立ち上げ、平成27年から議論していったがどうもまとまらない。そうした中で、「とよかっしょい!!」の中高生のメンバーも加わることで、地域の高齢者の方々も前向きな発言が増え、平成29年には「とよかわの未来をつくる会」を発足させ、人材育成等により一層取り組むようになった。
このことによって、みんなのやってみたいを形にする「マスダひとまちカレッジ」の開設や、平成30年度には、空き家対策を発展させたお試し住宅「とよかわの家」の整備・運営などまでを担うようになっていった。お試し住宅の整備には、中高生も内装や外構などの作業を手伝った。
(5)効果
益田市の豊川地区では、学校と地域のつながりを作り、小中高生と地域のつながりを作り、大人同士のつながりも作る取り組みを10年以上継続しておこなってきている。
この成果として、社会増として顕著なプラスまでの指標はまだみられていないようだが、視察当日には、「とよかわっしょい」のメンバーで、大学を卒業して豊川地区に戻ってきた若者の話も聞くことができた。豊川での活動で地域の課題と魅力を、そして地域の人たちを知ることができたことが、自分が帰ってきたいと思った原動力だったとのこと。
さらには、その若者は、通った大学の後輩を社会教育コーディネーターとして豊川地区に引っ張ってくることもしている。
豊川の取り組みを引っ張っている市議会議員の河野さんによれば、「とよかわっしょい」の取り組みを通じて、大学への進学の際にも、それぞれが何をしたいのかという思いを持って進学ができているとのことであった。地域課題にしっかりと向き合った上で自身の進路を選択するということは、地域と教育における本質なのではないかと思う。
(6)考察
東京一極集中が問題視されるが、これまでは地域は、兄弟姉妹の多さもあり、首都圏などへの人材の供給源として機能し、地域課題へのアプローチの仕組みはあまり必要とされてきていなかったのだろうと思われる。
過去には、人口も増える中で、学校や各種地域団体のそれぞれは、それぞれの中で完結していたし、若者も入ってくる状況が続いていた。
だが、今は、地域には人材を輩出する余裕はなく、その地域の価値や人材などにポジティブな感情を持たなければ、地域はどんどん衰退することになってしまう。移住施策の場合、社会増減に着目するため、人口の奪い合いという点でネガティブな印象を持たれるが、生まれ育った地域に戻ってくるUターンに関しては、そうしたネガティブさはない。
生まれ育った地域をどのように魅力的な地域にしていくのか、その可能性を子どもたちが感じられる世の中であるべきだと考える。
そして、そのための一つの方策として、「社会教育コーディネーター」の重要性があるのではないだろうか。
地域おこし協力隊や、集落支援員などにおいて、一定の措置はあるが、まだまだ研究すべき分野だと感じた。島根県の着実な取り組みを知ることができ、大変ありがたい視察であった。