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『好き』と『ごめん』



“好きになってごめん”


僕は地元から遠く離れた田舎の大学に通っていた。僕は大学卒業したら地元の方で就職する気満々だった。
しかし大学で彼女ができた。彼女はそこが地元だった。大学時代はずっとその彼女と付き合っていた。

就職活動の時、何度も話し合いをした。僕は田舎に残るか地元の都会に戻るか迷いに迷った。就職する場所によって彼女と別れるか別れないかが決まったからだ。何度も話し合って、何度も喧嘩して、何度も悩んだ。
今思えば、就職のタイミングで別れたほうがよかったのかもしれない。

悩みに悩んだ末、僕は田舎に残って彼女と付き合い続けた。
就職してから1年後、仕事を辞めた。
僕はもうこの場所で働きたくないと思った。田舎特有の身内感?のようなものに耐えられないと思った。大学のようにいろんなところからいろんな人が集まってその中でできたグループの身内感とはわけが違う。全く溶け込めそうにないし、溶け込みたいとすら思えなかった。
僕は次は都会で仕事を探すことに決めた。彼女とは別れた。

彼女には本当に申し訳ないことをしたと思う。
僕が大学を卒業してそのままその土地で就職することを決めた時、彼女はおそらくすごく喜んだだろう。僕が離れていくことを覚悟していたはずだから。
なのに、1年経って、結局僕が都会に行くなんて言い出すもんだから、きっと怒っただろうし、悲しんだだろうと思う。
『大学卒業するときに別れたほうがよかったのかもね』っていう言葉まで出させてしまった。
彼女を一時の喜びから悲しみの底に突き落としたのは紛れもない僕だ。
こんな僕があなたの大学時代の恋人ポジションを取っててごめん。こんな僕が好きになってごめんね。


・・・


“好きにさせてごめん”


僕は今色々と事情があって、今だに一人暮らしの家を離れられないでいる。さっさと地元の実家の方に帰りたいのだが、手続きとか引っ越しとかややこしいしそもそも次やることも決まっていない。

日々自堕落に生きているが、最近のnoteでも書いたように、プレッシャーに常に晒されている状況でもある。
そんな僕の話を親身になって聞いてくれる女の子が1人いる。
その子は大学の同期で、今社会人2年目を迎えているのだが、毎日毎日家に帰っても仕事をしなければならないくらい、仕事に忙殺されている。
彼女は僕の話を聞いてくれるし、僕も彼女の話を親身に聞いている。

土日2人で遊びに行くこともある。彼女が僕の家に泊まることも何度かあった。
でも恋人同士ではない。
僕たちはお互いに傷を舐めあい、お互いに依存しあっている。お互いがお互いに寂しさを埋め合う都合のいい存在。
そう、思っていた。

この間は2人で電話をした。彼女は仕事がしんどいから助けて〜と言った。
どうしたらいい?と僕が尋ねると、少し間が空いて、

『どっか行っちゃわないで、私の隣にいてほしい。』

電話口から聞こえてくる声が少し震えていた。その時僕は彼女の気持ちに気づいた。彼女が時折見せていた切なそうな表情の理由がわかった。
彼女はきっと僕のことが好きなのだろう。しかしその気持ちは決して口に出さない。
理由はわかっている。僕が都会の方に戻りたがっているからだ。
僕が田舎を離れたら、恋人同士になっても結局別れてしまうことになる可能性が高い。ならば今の、都合のいい、もどかしくも心地いい関係のままいることを選んでいるのだろう。そうすれば、離れたときの傷は浅いままで済むから。
そこまでわかっていながら僕は彼女にまたラインを送る。僕は卑怯だ。どうしようもないヤツだ。そんな僕を好きにさせてごめんね。


・・・


僕の周りでは、常に“好き”と“ごめん”が1セットになっている。
ややこしいことで悩むことなく、もっと無責任な“好き”をたくさん恋人に与えたいし、無尽蔵に“好き”が欲しい。
そんな相手に、卑怯な僕がこの先巡り会えるのだろうか。



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