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バダブ戦争(5)拡大

〈帝国〉の断罪(905.M41)

 今や〈渦圏〉にて、五つのスペースマリーン戦団が公然と戦争状態に陥り、六つめの戦団が参戦途上にあった。これは過去何千年間の中でも最大級の危機であった。さまざまな艦隊、現地の防衛軍、いろいろな星区の行政局が、急速に拡大しつつあるこの状況に関与するに至って、〈帝国〉中央政府がついに動いた。

 3人の〈帝国特使〉が〈至高卿印章〉の権威のもとで、徹底的な調査によって〈渦圏〉で進行中の抗争に裁きをくだすべく派遣された。異端審問庁の調査が容赦なく進められると、ルフグト・ヒューロンとアストラル・クロウ戦団の活動にかかわる一連ののっぴきならない証拠が明らかにされた。ただちに〈バダブ総統〉を僭称する戦団長に対して、いくつもの訴追が行われた。それには、遺伝種子の貢納の滞りから、〈帝国〉の船舶に対する直接攻撃にかかわった動かぬ証拠からさまざまであった。

 地球からの〈特使〉は、バダブの分離活動は民事上の争いではなく、〈帝国〉の安全保障にかかわる問題だと決然と宣言し、全勢力の無条件停戦と〈分離派〉の降伏を即時要求した。だがルフグト・ヒューロンはただちにこれを拒絶。その結果、地球の〈特使〉たちは〈分離派〉諸戦団の長の即時逮捕と裁判、および彼らの惑星、資産、記録、家財を必要ならば武力をもって接収する命令を発した。〈帝国〉は今や〈バダブ総統〉とその味方を公式に反逆者と見なしたのである。

 カルタゴ人については、分離活動に至る一連の事態悪化に果たした役割は、大きな慢心、もっと正確に言えば野放図な野心と失政であると断罪された。〈特使〉による調査がカルタゴ星区首星のシドン・ウルトラで行われ、こうした疑惑が正しいことが証明された。〈帝国〉の指揮官たちとカルタゴ星区総督タニット・ケーニッグが挑発的行動で戦争を勃発させたことがわかると、総督およびその統治下の惑星に厳罰がくだされた。タニット・ケーニッグとその支配層は処刑。カルタゴ人はその逸脱をとがめられ、シドン・ウルトラの140億人におよぶ住人全員が莫大な負債を支払うために六世代にわたる強制労働を命じられた。帝国行政局の矯正監査および帝国司法局綱紀粛正部による粛清がカルタゴ星区全域ですぐさま開始され、中央執務院への貢納および追徴金の収奪がカルタゴの惑星で実施された。これは現在に至るまで続いている。しかし、星区間の武力紛争とその原因は解決されず、戦争は依然として拡大の一途を辿る。

〈忠誠派〉の大攻勢(905.M41)

 かくして反乱軍を屈服させるべく、異端審問庁の〈特使〉ジャーンダイス・フレインの執行要請にもとづいて、この戦争への大規模なスペースマリーン兵力の動員が行われた。

 この〈忠誠派〉スペースマリーン兵力の最大戦力を占めたのは、レッド・スコーピオン戦団であった。サラマンダー、ラプター、ファイア・エンジェルといった諸戦団、および至高卿特使に指揮権を委譲したファイア・ホークとマリーンズ・エラントの生き残りがこれを支援した。

 異端審問官フレインが、至高卿の意をくんで〈特使団〉の命令を執行するこの軍勢の理屈上の指揮官であったが、スペースマリーンどうしの戦いという特異な状況と、〈戦闘者〉が自治の伝統を堅く守っていることから、フレインが主導することは不可能であった。こうして、〈忠誠派〉戦団連合軍の戦場での全体統括は、〈軍令長〉に任じられたレッド・スコーピオン戦団長ヴェラント・オーティスにまかされた。オーティスは、“同等者の中の首位”としての立場を担ったのである。

 しかし、フレインとしては司令官をもっと“扱いやすい”戦団から招きたかったことだろう。というのも、レッド・スコーピオンは独立心旺盛で気むずかしいことで知られる戦団だったからである。

 オーティス司令官の最初の命令は、自分のレッド・スコーピオン戦団に太陽系戦闘艦隊の大部隊をつけて、〈分離派〉支配地域に一連の攻勢と陽動を行って、相手の抵抗力を推し量るというものだった。かくして、開戦後最大規模の宇宙艦隊戦が展開された。

 906.M41の初頭には〈沈黙の辺境〉(サイレント・リーチ)の海戦で、〈渦〉の巡洋戦隊とラメンター戦団の艦隊が太陽系艦隊とレッド・スコーピオン戦団の軍艦と、ゲイレン星系とグリーフ星系の間に広がる荒涼とした宇宙空間で激突し、決着を見ないまま終わった。この海戦では双方甚大な損害を出したが、両軍ともに大型艦の損失はほとんどなかった。唯一の深刻な損害は〈渦〉艦隊旗艦であるオーバーロード級戦闘巡洋艦〈憤怒の籠手〉(ガントレット・オブ・ラース)であった。旗艦撃沈直後、〈分離派〉艦隊は交戦から退却して〈歪み〉に入り、〈忠誠派〉は辛くも勝利した。こうした戦闘がこの時期には続発した。

 この作戦は功を奏し、〈忠誠派〉は906.M41の早い時期に〈分離派〉の進撃を阻止するに至った。特に、マリーンズ・エラントとファイア・ホークの生き残りの奮戦が特筆されている。

 〈忠誠派〉はこうした大攻勢を継続することで〈分離派〉の防備の弱点を見つけようとしたが、まもなくあからさまな弱点は存在しないことが明らかとなった。このため、〈忠誠派〉は戦略の転換を迫られる。

(続く)

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