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バダブ戦争(9)攻勢

ミノタウロスの憤怒(907.M41)

 獰猛無比なことで悪名高いミノタウロス戦団がバダブ戦争に参戦したのは、907.M41の中頃のことだった。現れるやいなや、〈分離派〉が支配する惑星カイロの採鉱施設に全戦団で強襲をかけると、駐留していた46000名の〈総統兵団〉と採鉱設備を殲滅してその名を〈渦圏〉に轟かせたミノタウロス戦団は、その後ようやく代表を〈忠誠派〉の軍議に送って、正式な参戦を表明したのである。

 暗い名声のつきまとう戦団長アステリオン・モロクは他の戦団長に合流することなく、独力で〈蒼白の星々〉に襲撃をかけ、この星域内の資源産出拠点を占領ではなく壊滅させることで、〈分離派〉の補給源を絶とうとした。 

 ミノタウロス戦団がやってきたのは、〈分離派〉に立ち向かう〈忠誠派〉戦団を増強しようとする〈異端審問庁特使〉の要請によるものだった。この野蛮な戦団の到着は〈忠誠派〉からは控えめな歓迎を受けたが、その精強さが〈帝国〉の陣営に加わることを拒否できる者はいなかった。四年目に入った戦争に全兵力をもって参加したミノタウロス戦団は、十個中隊と十一隻の主力艦から成っていた。この戦争を通してほとんど独立行動をとった彼らは、〈渦圏〉南部で、〈蒼白の星々〉や〈ディーン辺境星域〉といった地域で、自分たちが是とする目標を叩いた。三十以上の〈分離派〉支配下の惑星と基地を攻撃するだけでなく、それまで看過されていた独立拠点にも襲いかかった。抵抗した者を皆殺しにするこの戦団の冷酷さの評判はすばやく広がり、野蛮さでその上をいくカルカロドン戦団の到着まで、その悪名において誰一人としてかなう者はいなかった。

 また、全体の戦略決定権は、この戦争で先任にあたる〈忠誠派〉の軍議に委譲したものの、ミノタウロス戦団は指揮系統について意図的に超然とした態度をとり続け、他の戦団からも距離を置いた。また、総司令官カルブ・クランよりも〈異端審問庁特使〉フレインの権威に重きをおいていた。不気味で寡黙なアイヴァナス・エンコミは、戦団代表としてその赤く縁取られた眼で全てを観察しながらも、会議でほとんど発言することはなかった。ミノタウロス戦団長アステリオン・モロクがこうした軍議に直接参加することは一度もなく、謎めいたこの巨人がバダブ戦争で活躍したことを示す唯一の証拠は、戦闘記録映像から回収されたフッテージと、ミノタウロスの荒々しい攻撃から生き残った数少ない〈分離派〉が広めた恐怖譚だけである。

 この地域でミノタウロスの猛進を止められそうな者は、エグゼキューショナー戦団の軍艦と打撃部隊だけだった。そして、これら両戦団はその対決を血塗られたスポーツかなにかのように楽しんだ。この年の残りの期間、ミノタウロス戦団は大勝利を幾度もおさめ、クロウズ・ワールドとラーサの〈総統兵団〉を滅ぼし、アストラル・クロウを撤退に追い込んだり、彼らが支配する惑星を孤立させてひとつひとつ荒廃させたりしていった。ミノタウロスが到着してわずか四ヶ月で、その軍勢によってもたらされた二次的な被害によって、〈蒼白の星々〉の人類人口は20パーセント以上も減少したのである。

 907.M41が終わるまでに、〈分離派〉の軍勢はいくつかの重要星系から追い出された。〈渦圏〉北中部では、アストラル・クロウ戦団に対してサラマンダーとファイア・エンジェルの両戦団が挑んだ戦いがゲイレン星系で起こり、まもなくこの星系は〈忠誠派〉の手に落ちた。〈分離派〉の大敗はまだ続いた。ミノタウロスとレッド・スコーピオン戦団の猛攻によってヴァイアナイア星系がついに陥落したのである。ルフグト・ヒューロンはこの惑星の放棄を余儀なくされ、わずかな〈総統兵団〉が取り残された。包囲された防衛軍のただ中にスペースマリーンが舞い降りると、終末はすばやく荒々しいものだった。夜明けまでに〈忠誠派〉の手によって〈総統兵団〉は最後の一人に至るまで殺戮されたのである。

サイグナクスの掃討(908.M41〜910.M41)

 908.M41の初頭、異端審問庁のエージェントは、〈ゴルゴタの荒野〉からやってきて〈異端技術〉を発掘する反逆者たちが、アストラル・クロウ戦団に協力している証拠をつかんだ。彼らは死滅惑星サイグナクスに埋もれた兵器を復活させようとしていたのである。これを食い止めるべく、サンズ・オブ・メデューサ戦団の任務部隊が、新たに参戦したエクソシスト戦団の支援を受けて任務にあたった。

 主力を担ったサンズ・オブ・メデューサは〈総統〉の軍勢を一掃するべく徹底的な作戦行動を行ったが、その進め方について、両戦団の間に不和が生まれた。というのも、サンズ・オブ・メデューサは敵を打倒するよりも、独自の謎めいた目標の遂行のように関心があるようだという告発がなされたからである。まもなくエクソシスト戦団はセーガン星系攻略のために再配置され、サイグナクスの脅威を除去する役目はサンズ・オブ・メデューサだけに任されることになった。

第二次セーガン会戦(908.M41)

 第二次セーガン会戦は、908.M41に行われた大規模な惑星攻略作戦であり、この結果、〈分離派〉はセーガン星区の要塞から追い出された。この強襲作戦は〈忠誠派〉にとってバダブ戦争における過去最大級の連携作戦であった。攻勢に参加したのは、ファイア・エンジェル、レッド・スコーピオン、エクソシストの各戦団から成る大兵力に、サラマンダー、ラプター、ノヴァマリーンから引き抜かれた強襲専門の特殊部隊であった。

 〈分離派〉は戦略上最重要なセーガン星系を、あらゆる代償を支払って守り抜くことを選択したため、戦闘は極めつけの死闘となった。セーガン第三惑星の地表から〈忠誠派〉を追いはらうか、あるいは敵に利用されないよう地表そのものを滅ぼすかを迫られたアストラル・クロウは、ウィルス兵器を使用して数万の惑星人口を殺戮した。しかし大量破壊兵器の使用によって、〈分離派〉自身の戦列に大きな穴があくことになった。

 ファイア・エンジェルは戦団の全兵力を派遣して〈忠誠派〉の最前線に立ち、自殺攻撃を敢行してまで惑星から敵を追い払おうとするアストラル・クロウの絶望的な抵抗の前に、勇敢に犠牲を払っていった。この戦役は、一回の戦いとしてはバダブ戦争で過去最悪の損耗率となり、星系内での無益な反撃によって何隻もの〈分離派〉主力艦が沈んだことでも知られる。

 セーガン星系の攻略は、戦争の大転換点となった。この星系は〈忠誠派〉の手に落ちた後、〈渦圏〉における〈帝国〉の根拠地となり、この地域に入る安定した〈歪み〉大航路を確保して、そうした航路を敵が使えないようにした。この戦役の直後に、セーガン第三惑星はサーングラード救援の補給基地となって、エンディミオン星団制圧作戦の開始を支援した。この〈忠誠派〉の進撃は事実上、残存するマンティス・ウォリアー戦団を防戦一方に追い込み、バダブ星区と〈分離派〉の友軍から孤立させることになった。

 第二次セーガン会戦の後、〈渦圏〉は二つの地域に分断された。すなわち、エンディミオン星団と未だ堅く防衛されているバダブ星区である。これ以降、〈分離派〉はエグゼキューショナーとラメンター戦団の艦隊が実行する通商破壊と襲撃作戦しかできなくなっていく。

 バダブ戦争の継続が〈帝国〉におよぼす脅威以上に、このころ〈極限の宙域〉の安全保障がオルクの大軍勢によっておびやかされていた。銀河の東部辺境宙域で複数のグァーグ!が勃発したのである。セーガンの勝利の後、〈分離派〉の封じ込めに成功したと判断した〈忠誠派〉は、戦場で消耗した戦団をグリーンスキンどもの脅威に対処させるべく再配置した。この再配置には、ノヴァマリーン、ラプター、ハウリング・グリフォンの各戦団が含まれていた。彼らは〈帝国〉全体を見すえた戦略的再配置の一環として、ひとつずつバダブ戦争から引き上げていった。そして、〈日輪の宙域〉の予備艦隊が〈忠誠派〉の援軍として派遣されることになる。

(続く)

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