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バダブ戦争(17)残響

裁判と処罰(913.M41)

 バダブ・プライマリス陥落後、〈分離派〉の残党であるアストラル・クロウ、エグゼキューショナー、マンティス・ウォリアー、ラメンターの各戦団は、この戦争に参加しなかった五つの戦団の長による特別法廷で裁判にかけられた。

〈異端審問庁特使〉フレインはこれを異端審問庁の管理下に置こうとしたが、スペースマリーンの伝統的権利を盾にしりぞけられた。そして両陣営から出頭した代表による証言が行われた。特筆すべきは、エグゼキューショナー戦団の名誉を弁護したサラマンダー戦団のミルサンの流麗な論陣、それからファイア・ホークス戦団長ラザイレクの反逆者全員の処刑を求める火を噴くような糾弾、そして〈特使〉フレイン自身の冷静で賢明な言葉であった。

 全会一致の判決で、アストラル・クロウは〈帝国〉に刃を向け、同胞を騙して加担させたかどで、最悪の反逆者として〈大逆破門〉を言い渡された。〈分離派〉に参加した全戦団については、〈戦いの聖典〉に違反し、この書が体現するいにしえの皇帝陛下との誓約を破ったと指弾された。アストラル・クロウ戦団の全員は卑怯者の目隠しと手かせをはめられ、斬首刑。その他の〈分離派〉戦団については百年間の懲罰征戦が課せられた。この間、新規参入による人員補充は認められない。彼らが生きのびられるかどうかは己の力量と皇帝陛下の恩寵にゆだねられたのである。

 加えて、マンティス・ウォリアー戦団は、エンディミオン星団の領地を全て没収され、その資産はファイア・ホーク戦団に譲渡。ラメンター戦団も同様にミノタウロス戦団に艦艇と兵器を明け渡した(といってもすでにあらかたがミノタウロスに接収済みだったが)。これらとは対照的に、エグゼキューショナー戦団には、戦団所有の双惑星をサラマンダー戦団およびエグゼキューショナーの後継戦団にゆだねるが、百年間の懲罰征戦が終わった暁に返還されることが約束されるという恩恕が授けられた。

 恐怖と流血の惨禍に見舞われた〈渦圏〉の住民たちは、技術局や異端審問庁の権益を除けば、すべて中央執務院の直轄とされた。破壊されたバダブ星区については、最終決戦で甚大な被害をこうむりながら戦果をあげたスター・ファントム戦団にゆだねられた。三分の一にまでその戦力を減らしていたスター・ファントムだが、数世紀前に母星を失っていたため、この恩典を受け取った。戦団旗艦〈死を思え〉は惑星に降下、新たな要塞修道院として戦団の復興の根拠地となる。

 かつてマンティス・ウォリアー戦団の拠点であり激戦場となったトランキリティー星系には、悲劇が待ち受けていた。〈忠誠派〉の軍勢が撤収を完了した頃、突如としてカルカロドン戦団がやってきたのである。彼らは人員を補充するために成年住民を互いに死ぬまで戦い合わせ、生き残った者を新人として連れ去っていった。そして、この沈黙の宇宙鮫たちの艦隊はいずこかへと姿を消し、今に至るまでその消息は知れない。

 戦後処理を終えて地球に帰還したフレイン審問官が行った〈特使〉としての最後の仕事は、〈記録抹消勅令〉の執行であった。これによって、アストラル・クロウ、タイガー・クロウ、そしてルフグト・ヒューロンの名前と所行は〈帝国〉の歴史から抹殺された。検閲された改竄された戦史が公式記録に挿入され、異端審問庁によってバダブ戦争に関する証拠の隠滅とデータの粛清が進められた。

 こうして、バダブ戦争のページは閉じられた・・・・・・かに見えた。

ヒューロン・ブラックハートの誕生(927.M41)

 瀕死の重傷を負いながらも〈バダブ総統〉は生きのびた。だが、その半身は生体機械によって完全に置きかえられ、アストラル・クロウのテックマリーンと医療官による不断の看護が続けられた。

 八日目、〈総統〉は言葉を取り戻し、艦隊を征服すべき新たな惑星に向けるよう命令を放った。二十日目、ヒューロンは立ち上がって装甲服を再びまとった。その回復を臣下たちは奇跡と賞賛したが、たとえ奇跡であってもそれは闇の恩寵であった。

 ヒューロンに残された兵力は少なかったが、それでも宇宙海賊の根拠地を発見してその住人を殺戮するには充分だった。海賊の生き残りは〈総統〉……いまや〈暴君〉への忠誠を誓った。かくして、ルフグト・ヒューロンはヒューロン・ブラックハート、〈赤き海賊〉レッド・コルセアの総帥、〈渦の王〉、〈血の虐殺者〉として生まれ変わったのである。艦隊と人員を獲得したヒューロンは、自らにふさわしい版図をつくりあげるために船出した。そして、〈恐怖の眼〉に匹敵するような渾沌の帝国を生み出した。その権力は〈渦〉全体に広がったのである。

 レッド・コルセアとなったアストラル・クロウの生き残りたちは、バダブ戦争の終盤で塗り替えた赤い装甲服を使い続けた。そして、歳月が経つにつれて、失墜した背教のスペースマリーンたちがこれに合流し、ヒューロンをたたえ、赤い装甲服の〈背教の戦団〉は膨れ上がっていった。

 927.M41までに、〈渦〉周辺での宇宙海賊の襲撃が激化の一途をたどっていることが〈帝国〉中央政府に報告されるに至った。新たな海賊王が出現して〈渦〉のなかで活動しているという噂が流れ、赤い装甲服の正体不明のスペースマリーンが目撃されるようになった。そしてその首領は自らを“ブラックハート”と名乗っているのだと・・・・・・

(了)

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