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バダブ戦争(3)発火

監査艦隊事件(901.M41)

 901.M41、長年くすぶってきたバダブ分立問題を解決するために、〈帝国〉の監査艦隊がバダブからの貢納とアストラル・クロウ戦団の遺伝種子を要求するために派遣された。これには技術局の代表団とカルタゴ星区の行政局長官らが同行していた。

 カルタゴ星区は、バダブ星区から〈帝国〉中央に向けて貢納物資を届ける航路上の好位置ゆえに、十一世紀以上にわたって、〈渦圏〉の工業生産物を配分できる勅許状を保持しており、帝国行政局の管理するセーガン第三惑星の補給基地から〈極限の宙域〉西部を通っていく船舶を護ってきた。広大な宇宙空間に囲まれたカルタゴの住人は、争いの絶えない領域での流血のおかげで、重要な軍事拠点として守られ、肥え太っていたのである。バダブからの貢納が途絶えたことで、カルタゴ人は不遇をかこつことになった。彼らが監査艦隊を歓迎したのも当然であった。

 ところが、理由は不明ながら、監査艦隊はバダブ星系の要塞ネットワーク、いわゆる〈鋼鉄の円環〉を押し通ろうとしたところで突如砲撃されて全滅してしまう。生き残った船はなく、実に二万人の帝国公職者が死亡した。

 まもなく、なぜこんな悲劇が起こったのかをめぐる主張の応酬が起こった。ルフグト・ヒューロンはバダブでの事件についての報告を宙域当局に送った上で、監査艦隊は星系当局の指示に服すことを拒絶した後で撃破されたのだと断言して省みなかった。カルタゴ星区ではこの事件を巡って反感が急速に高まり、やがて〈渦圏〉とカルタゴ星区との間に保たれていた貿易関係は断ち切られ、厳戒態勢が敷かれるに至った。

 カルタゴ星区総督のタニット・ケーニッグはアストラル・クロウ戦団を厳しく非難し、〈帝国〉への叛逆のかどでヒューロンの逮捕と裁判を要求したが、たがいの主張の応酬は膠着状態に陥った。なぜなら、ルフグト・ヒューロンは戦時においてこの領域の永続的で正統な支配者だった。異種族と渾沌に対する防壁であり、最も基本的なレベルでこれらの領土を守る権限を与えられていたからである。

 はっきりした証拠がない以上、スペースマリーンによる監査艦隊への計画殺人が行われたのかどうかを証明することはできなかった。続く三年間、カルタゴの〈帝国〉軍司令官たちは〈渦圏〉に懲罰艦隊を二回派遣したが、いずれも不明な状況下で姿を消し、バダブ星系に到着することはなかった。これにもアストラル・クロウとその味方の介入が疑われた。

 自分たちの主張が通らないことに絶望を深めるカルタゴの領主たちは、このころすでに破産状態に陥っていた。このため、バダブそのものを迂回して、より遠回りで危険な航路を使って損失を埋め合わせようとした。903.M41までには、カルタゴの〈帝国〉軍司令官たちは宙域巡回裁判所および帝国元老院で誰彼ともなく多数派工作を行い始めていた。地元の行政局も地球至高卿の直接介入を要請し続けた。

 その一方で〈渦の番人〉は軍備をととのえ、〈渦圏〉での異端掃討を実施しながら、同時にバダブ星区そのものの防備を強化していったのである。

〈渦圏〉の分離独立(903.M41)

 903.M41、非難の包囲網がせばめられる中、ついにルフグト・ヒューロンは悪名高い〈正当なる分離の条々〉を発布した。それはラメンター戦団とマンティス・ウォリアー戦団の代表によって調印、批准されていた。

 この条文は〈渦圏〉が近隣の星区に貢納する義務を正式に破棄する内容だった。その正当性を補強するために、文面には〈渦の番人〉を創設する勅令と、〈戦闘者〉が古来より〈帝国〉防衛のために皇帝から賜った権利と称号、そして彼らの主張に資する先例集がうたわれていた。この条文はカルタゴ星区の完全な調査を要求し、スペースマリーン戦団は下級の行政局からの干渉を受けない歴史的、法的な主権を持っていることを主張、そして〈渦圏〉をいかなる脅威からも守り通す意志があることを改めて宣言していた。

 憤激したカルタゴは全面戦争をほのめかしたが、独力でそれを遂行する手段は持っていなかった。惑星ライザの帝国兵務局と宙域海軍司令部からの攻撃を陳情したが、これは“内輪もめ”だと一蹴された。拒絶されたカルタゴ星区は惑星防衛連隊に大量の徴兵を行った。そしてカルタゴ総督は過去に交流のあった数個のスペースマリーン戦団におおっぴらに加勢を求めたのである。スペースマリーンに戦場で立ち向かえるのはスペースマリーンのみ……

 そしてこの呼びかけに最初に応えたのが、ルフグト・ヒューロンに怨恨を抱くファイア・ホーク戦団だった。かくして、戦雲は戦火へと姿を変える。

(続く)

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