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バダブ戦争(6)謀略

ヴァイアナイア襲撃(906.M41)

 オーティス司令官の次の目標は、ヴァイアナイア星系であった。ヴァイアナイアは重要な惑星であり、〈渦〉の辺縁を廻る2本目の〈歪み〉航路の重要な拠点だったが、その防備は脆弱だったからだ。さらなる諜報レポートによれば、〈分離派〉に占領されたこの惑星は政情不安に陥っており、〈忠誠派〉の攻撃をきっかけに反乱が勃発する可能性もあった。

 新たに到着したラプター戦団にパトロールと船団護衛の任務を任せると、レッド・スコーピオン、マリーンズ・エラント、ノヴァマリーンの各戦団は三方向からのヴァイアナイア星系攻撃を実施。その目的は、惑星の生産能力と軌道輸送プラットフォームを破壊することで、〈分離派〉の支配を動揺させるというものだった。

 ヒューロンによって再編されたバダブ星区の人類補助軍〈総統兵団〉が公然と参戦したのはこの戦いからだった。〈忠誠派〉スペースマリーンは彼らをひどく過小評価していた。実際には、アストラル・クロウのスペースマリーンが指揮官としてこの軍勢を率いており、その抵抗は頑強だったからである。そのため、スペースマリーンの襲撃部隊は所期の目的の多くを達成することができなかった。軌道プラットフォームのうち無力化できたのは四つにとどまり、ヴァイアナイアの製造工場施設に損害を与えることはできたものの、生産能力に大きな影響はなかった。ヴァイアナイアの〈分離派〉支配権を転覆する試みは失敗に終わった。

 さらに〈忠誠派〉に凶報がもたらされた。カルタゴ星区からの後方補給線を担う軍事輸送艦隊が攻撃を受け、追い散らされたのである。この攻撃を行った所属不明の軍艦は、後にエグゼキューショナー戦団の〈夜の鬼女〉であったことが判明する。

 また、〈渦圏〉奥深くに位置する要塞惑星サーングラードの運命についても悪い報せが届いた。〈総統〉への服従を拒否したこの独立心旺盛な惑星は〈分離派〉艦隊の攻勢に耐えていたが、内部からの裏切りによって今やヒューロンの軍隊が惑星北部の要塞群を占領したのであった。敵の領域奥深くに取り残され、効果的な救援作戦も行えないこの古い要塞惑星が早晩〈分離派〉の手に落ちるであろうことは、〈忠誠派〉の今後の攻略作戦に暗い影を落とした。

グリーフでの背信(906.M41)

 ヴァイアナイア戦役の後、絶え間ない戦闘にささやかな凪が訪れた。この膠着状態は、〈分離派〉からの思いがけない提案という形で破られた。〈忠誠派〉に個人的な使節を送る形で、ルフグト・ヒューロンは一時的な停戦と名誉ある交渉を〈軍令長〉とかわすことで、両陣営間でのこれ以上の流血を避けようとしたのである。

 〈異端審問庁特使〉からの強い異議にもかかわらず、オーティス司令官は会談に同意し、同じ戦団長としてヒューロンの言葉を信じて休戦を守った。一方で、オーティスは〈至高卿〉の裁定を執行する意志は断固たるものであることを公言した。

 会談はグリーフ星系の外縁に位置するガス惑星シェディム軌道上の廃棄ステーションで行われることになった。回収された記録の損傷は修復されたが、次に起こったことは現在に至るまで議論の対象であり、深い謎に包まれている。ステーションは小惑星の上に位置しており、太陽フレアの活動のせいですでに何百年も放棄されていた。

 それぞれの一行は指導者たちと選抜されたオナー・ガードから成っており、サンダーホークから小惑星に降り立った。交渉は剣呑な雰囲気となった。横柄な態度のルフグト・ヒューロンは、〈渦の番人〉が〈帝国法〉に違背したという決めつけに激しく反駁した。そして、敵の非道と侮辱に対しても痛烈に非難した。マンティス・ウォリアー戦団長のサータクもヒューロンに同道しており、ファイア・ホーク戦団による大量虐殺の罪を糾弾した。だがヴェラント・オーティスの姿勢は不動であり、〈特使〉の権威と召喚命令を再度つきつけるばかりだった。

 議論が白熱する中、休憩が宣言され、両陣営ともに仲間と協議するべくステーション内の別々のコンパートメントに引き上げた。続く出来事についての記録はあいまいで矛盾に満ちている。

 〈忠誠派〉の打撃巡洋艦への通信が突如として切断され、三隻の所属不明の宇宙船がガス惑星シェディムの濃密な大気の奥深くから襲いかかってきた。この襲撃者たちは〈忠誠派〉と〈分離派〉の艦船が反応するよりも前に小惑星を攻撃し、強力な砲撃でステーションを粉砕すると、異端者やミュータントといった反逆者たちで構成される襲撃部隊が上陸してきた。

 続く白兵戦で、オーティス司令官を含む〈忠誠派〉使節団は殺害され、マンティス・ウォリアー戦団長サータクを含むヒューロン側のメンバーも多数が殺された。ステーション周囲での三正面宇宙戦闘の中、レッド・スコーピオン戦団の首席司書官であるセヴリン・ロスは勇敢に反撃を実行し、斃れた戦団長の遺骸を回収した。レッド・スコーピオンは襲撃者とヒューロンのアストラル・クロウの両方と激突した後、分解しつつある小惑星から脱出した。セヴリン・ロスは絶体絶命の中で戦団長の名誉を救い、レッド・スコーピオンが甚大な損害を被る中にあって、不滅の伝説を打ちたてたのである。

 大混乱の中、〈総統〉ヒューロンはどうにかして早期に脱出に成功しており、彼がオーティス司令官とサータク戦団長の死に関わりがあるのかどうかは、ついに判明することはなかった。

 「グリーフでの背信」と呼ばれるこの事件の後、〈忠誠派〉陣営内の多数はヒューロンが襲撃の黒幕であり、これは謀略であると非難した。一方、〈分離派〉は異端審問庁の艦隊が秘密裏に〈総統〉を暗殺しようとしたのだと非難した。〈異端審問庁特使〉フレインは、この事件は邪悪な意図をもち、戦争によってこの地域全体が流血と混乱に陥ることから利益を得る第三者の干渉である可能性があると結論づけた。またフレインは、この謀略が、マンティス・ウォリアー戦団長サータクを抹殺するためにルフグト・ヒューロン自身の計画である可能性も排除しなかった。

 オーティスの死は暗殺事件の真相を葬っただけでなく、味方と敵両方を疑惑の雲で包むことになった。その証拠に、このころ、マンティス・ウォリアーの中では〈分離派〉の大義に従うことに対して不穏な空気が広がっていたことが後年判明している。盟友である〈渦の番人〉を外部の攻勢から保護し、〈戦闘者〉としての神聖な独立性と権利を守るために立ち上がったものの、マンティス・ウォリアーたちは〈至高卿〉の裁定は軽々しく無視すべきものではないと考えていた。自分たちの領域の中でアストラル・クロウの支配が広がっているという噂がささやかれはじめ、不穏の種になっていた。サータクの死がマンティス・ウォリアーの決意を揺らがせたことは確かである。しかも敵の戦団長の巻き添えで斃れたとあっては。

 今や、両陣営の歩み寄りの可能性は事実上潰えた。戦争は一切の譲歩のない容赦なき死闘へとエスカレートしていき、その中で〈総統〉にまつわるひどく暗い秘密が明らかになる。

(続く)

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