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本日記『〈あの絵〉の前で』

小説を好きなだけ買い、好きなだけ読む。というのが、帰国後の楽しみのひとつだった。久しぶりの日本の本屋は、想像以上にわくわくして、心を満たしてくれる贅沢な場所だった。好きな作家さんの作品を選んだり、表紙を見てフィーリングで選んだり、ずっと気になっていた作品や、あらすじを読んでおもしろそう!と思ったものを選んだり。そうして何冊か買った中で1冊目に読んだのは、私の好きな作家のひとりである、原田マハさんの短編集。表紙のクリムトと、帯に書いてあった言葉が、そのときの私に寄り添ってくれているような気がしたからだ。
実在する美術館とアートにまつわるお話たち。傷を抱えた人々が、〈あの絵〉に出逢ってまた歩き出す。いや、きっと歩き出すとわかる、歩き出して欲しいと願う、そんなラスト。キュレーターでもある著者のアートに対する愛と知識がふんだんに詰まっていて、アートにまったく詳しくない私だが心の底から美術館に行きたくなってしまった。

原田マハさんの小説は、やさしい気持ちと希望を与えてくれる。すべての人生が等しく尊いと思わせてくれる。
そう思える自分に、そしてそう思えるような心に育ててくれたこれまでの人生に、愛しさを覚えさせてくれる。心理描写が、情景描写が、なんともやさしいのだ。じんわりと、あたたかな温度と質感をもった、文字たちの並び。

絵を見て物語をつくるのだろうか?
物語をつくり、それから作品を織り込んでいくのだろうか?

そのセンスと愛にいつも脱帽する。
アートが好きな人はもちろん、私のように知識がなくても愉しめるアート小説だ。

私にとっての〈あの絵〉を探しに行ってみようと思う。

ぴろ


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