お助け屋と初恋王子 第五章 後編
【4】
少し時間は遡る。
哲が晃志郎を連れてファミリーレストランを出て行った後、残された四人は少し時間をおいて店を出た。
月也の愛車である黒のアクアに乗り込んだ一行が向かったのは、コンラートの邸だった。
「もうあのホテルには連中の手が回ってる可能性が高いからなぁ。コンラートが先手打ってチェックアウトの手続きと荷物の運び出しは済ませてるはずやから、その引き取りに行ってもらおう思うてな」
星也はそう二人に説明した。
「有馬街道渋滞が起こった時点でコンラートには連絡してあります。まあ、あまりにもお約束過ぎたんで、反対派に雇われた者の仕業やってすぐに解りましたしね」
車を運転しながらバックミラー越しに月也が続ける。その目は怜悧な光を帯びていた。
「じゃあ、事故っていうのは……」
「当然、連中の妨害工作や」
慎也の問いに星也が答える。
「連中もプロなら俺らもプロってワケ。まあ、俺らを足止めするには充分やったな。渋滞だけはどないしょうもないからの」
「先程は後手に回ってもたけど、お蔭で先手は打てた。これでまた連中は手掛かりをなくすことになる。となれば、こっちの有利や。今夜中に手筈を整えて早急に対処する」
月也は淡々とこれからについて話した。
「今、こちらの伝手を利用して【最後の審判】の動きを調べてる。まあ、相手はあの悪名高い連中や。簡単にはいかんやろけどな」
「確かあちらさんには腕のええハッカーはおらんはずやから、どないかなるんとちゃうか。情報戦はこっちが有利なはずやって」
星也はナビシートに凭れ掛かりながら、さりげなく右手を月也の膝に伸ばした。
「アホか。デジタルではこっちが有利でも、アナログではわからんやろ。つうか、この手はなんや?」
月也はジロリと星也を睨むと、彼の手の甲をきつく抓った。
「痛ってぇっ! ええやん、こいつらだって知ってんのやしぃ」
「精神衛生上の問題や」
「月ちゃんのケチぃ」
「放り出そか?」
「嫌です、ごめんなさい」
月也の冷気のような冷たい殺気に星也はおとなしく手を引っ込めた。
慎也とソーマはその様子を呆気に取られて眺めていたが、互いに顔を見合わせ、ふっと笑みを零した。
「仲が良いですね、あのお二人」
「そうだな……」
ソーマはそう呟くと、ふと自分が笑っているのに気が付き、その笑みを引っ込めた。それを見た慎也は、きっと神奈のことを心配しているのだと思い、声を掛けた。
「あの、ソーマさん。神奈ちゃんのことなら大丈夫ですから、気にしないでください。きっと無事でいますから」
「別に、カンフー娘のことは心配してねぇよ」
ソーマはそっぽを向いて車窓の眺めに目を向けた。慎也にはほんの僅かだがソーマの顔が赤くなっているのが見えた。
「ま、そういうことにしておきます」
慎也はクスリと笑うと前を向いた。
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