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お助け屋と初恋王子 第六章 前編②

   【4】
 
 
 「で、なんでお前がそこにいるんだ?」
 
一階の昼間はカフェである店のカウンターで目覚めのコーヒーを口にしながら、晃志郎はカウンターの向こう側に立つ白金の髪の男に対して眉を顰めた。
 
「なんでって、朝ご飯作ろうと思ってさ」
 
フライパンを振りながら、哲はきょとんとした顔で答える。黒いエプロンが妙に様になっていて、晃志郎は思わず見惚れそうになった。それを誤魔化すように煙草を口に咥える。
 
「だから、なんで、お前が作る必要があんだって言ってるんだよ」
 
「だって、作りたい気分だったんだもん」
 
「男が【もん】なんて言うなつってんだろ、気色悪い」
 
「晃志郎って、寝起きはご機嫌斜めだよね」
 
哲はレタスをちぎりながら苦笑する。
 
 朝はゆっくりと眠るつもりが、朝早くに目覚めてしまい、何か食べに行こうとカフェに降りてきたら、自分より更に早く起きていた哲が、カウンターの向こう側で包丁を握っていたのだった。
 
 晃志郎には自炊という経験がまったくない。食事は王室お抱えのシェフが作るもので、王族自ら厨房に入ることなどなかった。だからと言って、一般の家庭でもそうだと思っているほど世間知らずではない。ただ、家庭では女性が食事を作るものと考えていたので、哲が自ら包丁を握りフライパンを振るというのは、信じられないものを見るような気持ちだったのだ。
 
「あのね、晃志郎。イマドキ男が料理するのなんて当たり前なんだよ。つうか、出来る方がモテるんだからね。料理のスキルはもはや必須になってんの。ほれ、オムレツとサラダとかりかりベーコン」
 
哲は晃志郎の目の前に朝食の皿を並べる。
 
「こっちはトーストね。バターと蜂蜜、マーマレードにブルーベリージャムがあるから、好きなの塗って」
 
「ああ、ありがとう」
 
晃志郎は戸惑いながらも哲の料理を口に運んだ。
 
 半熟の丁度良い焼き上がりのオムレツが、口の中でふんわりとした舌触りで蕩けていく。
 
「……美味い」
 
晃志郎は思わず呟いた。塩をかけなくても充分に美味しい。
 
「だろ」
 
哲は自信満々の笑みを浮かべてグラスに注いだイチゴ牛乳を口にした。
 
「お前になら、毎日でも作ってやるけどな」
 
「お前、イイ嫁になれるぜ」
 
「いやいや、嫁にはならねぇから。お婿にはなるけど」
 
「勝手に言ってろ」
 
晃志郎はトーストにマイ岩塩をたっぷりと振りかけて齧り付いた。
 
「やっぱり塩振るのね、バターじゃなくて」
 
「トーストには塩だろうが」
 
「はいはい、お好きにどうぞ」
 
哲は諦めとも取れる笑みを浮かべて背を向けた。晃志郎は理解出来ないとばかりに首を傾げながらも、哲の作ってくれた朝食を平らげていった。
 
 食後のコーヒーに岩塩を振りかけ味わっていると、上から何やら叫び声が響いてきた。
 
「あの声は、ソーマ?」
 
何があったのかと晃志郎が立ち上がると、ドタドタと足音がして、ソーマが血相を変えて転がるように降りてきた。その後を追うように慎也も駆け降りてくる。

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