お助け屋と初恋王子 第二章
【1】
東京、ミレアナ王国大使館――。
「イシャナ侍従長、王太子殿下がっ!」
「どうした、ザイード。何を慌てている。コウがどうかしたか?」
大使館内に臨時に作られた執務室で、イシャナ侍従長は若いながら威厳のある趣でゆったりと椅子に腰掛け、新聞に目を通していた。そこに王太子付きの侍従の一人であるザイードが慌てふためいて駆け込んで来たのだった。
「そんなのんびりしている場合ではありませんよっ! 王太子殿下が、置き手紙一枚残して家出しちゃいましたぁ」
「なにぃっ! ちょっとそれ見せてみろっ」
ザイードが半べそかきながら差し出した一枚の便箋をひったくるようにして受け取ると、イサはその文面に目を通した。
『イシャナ侍従長へ
イシャナ兄貴、勝手なことをしてすまない。でも、こうするのが一番だと俺は判断した。俺の命を狙って、連中はかなりヤバい奴らと手を組んだのは知っている。それに、俺達の身近にそいつらと内通している奴がいるってことも。
心配するな。ソーマも一緒だ。それと、俺はこの日本でどうしてもやっておきたいことがある。そのためにも時間が欲しい。
イシャナ兄貴には俺が義兄さんに引き取られた頃からずっと世話になったな。とても感謝している。
これは俺の最後の我が儘だ。日程の調整は任せる。三日くれ。それまでに片は付ける。必ず戻る。だから、信じて待っていてくれ。
ザイードのことは叱らないでやってくれ。ソーマに言って一服盛らせた。済まなかったと伝えてくれ。
じゃあ、行ってくる。
コウ・氷川・ミレニアス』
便箋にはそう記されていた。イシャナはそれを握りしめると、拳をおもいっきり壁に叩き付けた。重量級の鈍い音が虚しく響く。
「あの馬鹿…….何一人で勝手にやってるんだ……」
「あのう、一人じゃなくて、ソーマ様もご一緒ですが」
「余計に問題だろうが。あいつがまともにコウの警護をすると思うか?」
「いえ、どちらかというと事態を更に悪化させる方ですね」
「もし、街中でサブマシンガンでもぶっ放してみろ。国際問題になり兼ねん。そうなったら反対派の思うツボだぞ」
イシャナは額に手をやって唸った。
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