お助け屋と初恋王子 第四章 前編
第四章
【1】
ソーマにとって、この世で一番大切な存在――。
それは、姉のミーナだ。
ソーマの家は代々伯爵家で、過去に何人もの王妃を輩出している名門だ。
姉のミーナもご多分に漏れず、未来の王妃候補として宮廷に上がっていた。気立てが良く聡明な彼女が王の目に止まるのは当然のことだったろう。次期国王であるコウの妃にと望まれ、彼の許嫁となった。
コウと初めて会ったとき、ソーマは気に喰わねぇ野郎だと思った。でも、ミーナはコウに惹かれていった。
(姉上が幸せだというなら、認めるしかねぇか)
気に喰わないが、たった一人の家族であるミーナの幸せの方がもっと大事だった。だから受け入れた。
穏やかな日々が続いた。いつかは二人が結婚して王位を継ぐ。自分はその二人を支えよう。その為に得意の武術の腕を磨いた。
だが、時の流れは三人を大人にするだけでなく、時代も変化していった。
『王政はもう時代遅れだ』
コウはそう義兄である現国王に進言した。世界の大半の国は民主主義国家であり、王侯貴族の支配する国など無きに等しい。地図にもよく解らないほどの小国だったからこそ、それでも通用してきたと言える。だが、時代は既に王を必要としていない。貴族達の利権争いなども、深刻な問題となりつつあった。このままでは国民の信頼を失ってしまう。そうなる前に王政を廃止する。それがコウの考えだった。
国王はその考えに賛同し、義弟に『好きにするがいい』とすべてを委ねた。ソーマはそれでもミーナが幸せになるのなら構わないと思っていた。
だが、想像していた以上に多くの貴族達の反感を買い、様々な妨害工作を受けた。それは、とうとう姉のミーナにまで危害が及ぶことになったのだった。
ある日、ソーマはミーナと共に郊外へ遠乗りに出掛けた。乗馬好きな姉のたまの息抜きに、彼はよく付き合って馬に乗った。
その日は、とてもよく晴れていた。風が心地良く、絶好の乗馬日和だったのを、ソーマは今でもよく覚えている。
見晴らしの良い野原を乗馬服を身に纏い、髪の色とよく似た毛色の馬で駆る姿は美しく、ソーマにとって自慢の光景だった。
ソーマが乗馬を楽しむ姉を見守るように眺めていたそのとき、一発の銃声が辺りに響き渡った。
ぱーんっ!
次の瞬間、どさっと鈍い音を立てて、ミーナが馬から落ちるのを、まるでスローモーションでも見るように、ソーマは呆然と見ていた。
馬が驚いて嘶き、走り去っていく。ソーマははっと我に返ると、姉の名を叫びながら駆け寄った――。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?