『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)

かれこれ20年も昔のトレンディ映画だが、意外に古びていない。基本のドラマと演出がしっかりしているからだろう。女優志願で東京に出たもののサッパリ芽が出ず、草深い田舎の実家に舞い戻ってきた女性の物語。

女性は自分に才能がないのではなく、周りが足を引っ張るからうまく行かないのだと思い込んでいる。悪いのは全部、家族を含む他者である。こういう今時の自己中女を、佐藤江梨子があざやかに演じて圧巻。仕種に表情にセリフ回しにシャープな感性が光る。

彼女の得がたい長所は、どれだけ憎たらしいキャラクターを演じても、どこか常にひょうきんな愛嬌がただよっていることだ。たとえば、兄嫁が眼病を発症して突然まばたきを始めると、彼女は意味が分からずキョトンとしながら自分も一緒にウィンクし始める。いかにもありそうな光景で、非常におかしい。

しかしこれは、サトエリの才能というより監督が巧みに引き出した演技なのかもしれない。これが長編デビューという吉田大八は、脚色も演出も生き生きと新鮮なアイディアにみちていて、原作者の本谷有希子自身が演出した舞台版を大きく上回る結果を出している。

上記の兄嫁の眼病も映画版の独創だが、ほかにも原作でヒロインの妹に絡む東京の男子高校生は登場せず、代わりにヤミ金融のヤクザが借金を取り立てにやってくる。女性はヤクザと組み、美人局で地元の元同級生からカネを巻き上げる。

いうまでもなく、こういうエピソードの方が現実的で説得性が高い。ヤクザがうだつの上がらない中年サラリーマン風なのも、リアリティがあっていい。

女性が俳優として成功しないのに、田舎娘の妹はマンガ家として成功する。舞台版ではヒロインは打ちひしがれて、メソメソ泣き出す。映画版のヒロインは敗北を最後まで認めず、泥まみれになりながら、妹の体現する現実と格闘し続ける。実にカッコいい。

ちょっと疑問なのは、ヒロインとその兄が血のつながらない義理の兄妹であることを冒頭でくどいくらいに念押ししていて、近親相姦の毒を薄めてあること。この辺りがアイドル起用の限界かも。インモラルな設定に日本人大衆は生理的に反発するもんね。事務所から注文がついたんでしょう。

あと、当時はCGの技術がまだ未熟だったのか、夫に蹴り飛ばされた兄嫁が、ぐるぐる回転しながら転がるマンガ的シーンの出来がいかにも稚拙で、映画の印象を幾分安っぽくした。


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