第20話『天空の宝石』

参上! 怪盗イタッチ

第20話
『天空の宝石』

 喫茶店の二階。そこにはイタッチ達のアジトがある。そのアジトにイタッチ、ダッチ、アンの三人が集結していた。

 中央に置かれたちゃぶ台を囲って、イタッチとダッチが座る。ダッチは向かいに座るイタッチの目を見て尋ねる。

「それで今回はどんなお宝を狙うんだ?」

 イタッチはちゃぶ台の下に置いてあったクリアファイルから一枚の書類を取り出した。そしてそれをちゃぶ台の中央に置く。

「今回狙うのはスカイブルーという宝石だ」

「スカイブルー?」

 書類には大きな鳥が描かれており、その鳥の背中には大きな宝石が突き刺さっていた。
 イタッチは書類の鳥を指差しながら説明をする。

「空飛ぶ宝石、スカイブルー……。世界を飛び回る怪鳥の背中に存在すると言われる伝説のお宝だ」

「なんだそりゃ? 本当にあるのかよ」

 ダッチが不思議そうに首を傾げる中、お茶を手にしたアンが台所から戻ってきた。
 アンはお茶を二人の前に置く。そして自身も一口、お茶を飲んだ後、アンは口を開いた。

「いますよ。その鳥」

 それを聞き、ダッチはぽかーんと口を開ける。

「マジかよ」

「これを見てください」

 アンはノートパソコンを開いて、とある動画を再生する。すると、空を飛行する鳥の映像が流れていた。
 周辺は森で、人のいる気配はない。木の大きさから、鳥の大きさは200メートル以上はあるように見える。

「作った映像じゃねぇよか? CGとかよ」

 ダッチは映像にいる鳥を見て、そう聞くがアンは首を振る。

「ネットに投稿されている動画で、ネットの反応はダッチさんと同じような人が多いです。でも、私の方で色々分析してみたんですが、この映像は本物らしいんです」

「じゃあ、そのスカイブルーを乗せてる鳥が実在すると!?」

「そういうことになります」

 アンは動画を止めると、イタッチは立ち上がる。そして赤いマントをバサリと靡かせる。

「そういうことだ、ダッチ。俺たち三人でスカイブルーを手に入れようぜ!!」

 ⭐︎⭐︎⭐︎

 アンが動画を解析し、動画が撮影された場所はマダガスカルにあるアツイーナ雨林にやってきていた。

 ピンクのリュックを背負ったアンは、森の中をキョロキョロと見渡す。

「広そうですね〜、本当に見つけられるでしょうか?」

 その隣でいつもの怪盗衣装のイタッチが森を見渡す。

「ここまでは特定できたが、それより細かい場所は分からなかったからな。でも、あの大きさの鳥だ、どうにかなるだろう」

 さらにその隣にはいつもとは違い、身軽そうな探検家の服に、望遠鏡を首から下げたダッチが森を見てため息を吐く。

「って言っても、この森だからなァ」

 早速森へと進んでいく三人。森に入って十数分経った頃、先頭を歩くイタッチが立ち止まる。

「誰かいるな……」

 その言葉を聞き、後ろを歩くダッチとアンは周囲を警戒し始める。しかし、風で草木は揺れるが、人影は見えない。
 警戒を止めたダッチは、やれやれとため息を吐く。

「ハハ、何がいるんだよ、相棒」

 ふらりと視線をイタッチの方へ向け、森に背を向ける。そのすぐ後のことであった。ダッチの首に冷たい尖ったものが当たる。

「え……」

 ダッチは振り向こうとするが、ダッチの背後に立つモノはそれすら許さなかった。

「動くな、不審な者共、この者の首を切り裂くゾ」

 イタッチとアンはダッチを人質にされて、動けなくなる。ダッチは振り向かずに、背後に立つ人物を威圧する。

「誰だよ、テメェ」

 低い声で脅すように言ったが、背後にいる人物は全く動じない。
 ダッチの自力での脱出は不可能だ。そう判断したイタッチは両手を広げて、武器を持っていないということをアピールする。

「敵対する気はない、だから、そのウサギを放してくれ」

「…………」

「頼む」

「…………分かった」

 やっとダッチは解放される。拘束が解けたダッチが振り返ると、そこにいたのは二足歩行の若い女狼だった。
 森に住んでいる部族なのだろうか、薄い布で身を包み、首には木を彫って作ったであろうネックレスが付けられている。

「この森に何のようだ? 不審な者共」

 狼はまだ警戒しているようで、イタッチ達を睨む。
 そんな睨みに対して、イタッチは笑顔で返す。

「あるお宝を探しに来たんだ。お宝を手に入れれば、森からは出ていく」

「そのお宝……か。……ついて来い」

「どこへ行くんだ?」

「ワタシの集落だ。そこで貴様らの求めているものについて、教えよう」

 狼は距離を取りながらも、三人に背を向ける。そして森の奥へと歩き出した。

 ⭐︎⭐︎⭐︎

 森をしばらく進むと、集落が現れる。
 樹木の上に藁を組み合わせた原始的な集落。住民は50人くらいだろうか、意外と多くの住民が住んでいる。
 狼は集落の住民に話をつけて、イタッチ達を連れて手前にある建物へと入った。

 狼は藁でできた座布団を三つ並べて、座るように指示をする。
 イタッチ達が座るのを確認してから、狼は三人の正面に座った。

「集落の住民にはワタシの仲間ということにした。さっきのお宝はなんのことだ。嘘をつけば、真実を伝えて、住民全員で貴様らを始末する」

 狼は三人を脅すが、イタッチは全く動揺を見せず、

「お宝に興味があるのか……。いや、そういうことではなさそうだな」

「良いから話せる」

「やれやれ、俺達が今、狙っているお宝はスカイブルー。巨大な鳥の背中に刺さっているとされるお宝だ。この森にその鳥がいるって噂を聞いてやってきたんだ」

「スカイブルー……。やはり、あれのことか」

「知ってるのか?」

 狼は姿勢を正して、背筋を伸ばす。

「アレは化け物だ……」

「化け物?」

 アンが首を傾げると、狼は頷いた。

「お宝は諦めて、この森から立ち去れ。命を失わんうちにな」

「命だと……」

 ダッチは顎を突き出して、狼を威嚇する。しかし、狼はダッチの威嚇に反応せず、警戒を強める。だが、そんな二人を宥めるように、イタッチが話に入った。

「俺達を危険から遠ざけようとしてるのか」

 イタッチの言葉に狼はフンとそっぽを向いた。それで確信を持ったのか、イタッチは狼に質問をする。

「一体、何があったんだ?」

 狼はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開けた。

「あれは数ヶ月前、我々の集落を襲った……」

 イタッチ達が森にやってくる数ヶ月前、大きく黒い飛行物体が現れた。外敵が攻めてきたと考えた住民は、飛行物体を追い払おうと槍を投げる。しかし、槍は飛行物体には効果はなく、飛行物体から謎の光線が放出されて、集落は壊滅的な被害を喰らった。
 それ以降、住民達はその飛行物体を恐れ、刺激しないようにしている。

 狼からの話を聞き、ダッチは目を細めて狼を睨む。

「その襲ってきたのがスカイブルーってことか?」

「そうだ。……集落で最強であったワタシの父は、その怪物に襲われて命を失った。貴様らに勝てる相手ではない」

「お前が弱かったんじゃないのか?」

 ダッチがケッと息を吐きながら呟き、言い終わると同時に、狼は素早く立ち上がってダッチに襲いかかる。
 ダッチは抵抗できず、狼に覆い被さられて、押さえ込まれてしまった。狼はダッチを拘束したまま、ダッチを挑発する。

「ワタシはこれでも父より弱かったぞ」

「テメェ……くっ、動けねぇ」

 ダッチは拘束から抜け出そうとするが、狼はダッチを逃すことはない。
 アンは捕まったダッチを見て、

「ダッチさんが負けるなんて」

「おい感心してないで、俺を助けろよ!」

「今のはダッチさんが悪いです。ですよね、イタッチさん」

 アンはイタッチの方へ目線を向ける。イタッチは頷いて、

「ああ」

「お前らァ……」

 ダッチは身体を怒りで震わせる。しかし、怒っても狼の拘束から抜けることはできなかった。
 イタッチは狼の方へ目線を向け、笑顔を見せる。

「心配してくれてるのは嬉しいぜ。だが、俺達だって諦めるわけにはいかない」

 イタッチの顔を見た狼は恥ずかしそうにそっぽを向く。

「心配などしておらん」

 狼はそう突っぱねるが、イタッチとアンは優しく微笑んで狼の様子を見守る。
 しかし、そんな中、ダッチは拘束されながら、

「おい、俺達を心配してようがどうだろうが、俺は興味ねぇ。だが、オオカミ、お前に一つだけ約束してやる」

 ダッチは大きく息を吸うと、宣言をする。

「お前の父親の仇は俺達が取ってやる!! どんな怪物だろうと、もう住民は傷つけさせねぇ!!」

 ダッチの宣言を聞いた狼は、ダッチから手を離して拘束を解除する。そして狼はダッチに告げた。

「ワタシはオオカミと呼ぶな。フハンの娘、パウラだ!! ……お前達のことはもう知らん、集落にも伝えん、好きにしろ!!」

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