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釜山国際映画祭DAY1 ケン・ローチ監督『Sorry We Missed You』

さて、釜山国際映画祭 初鑑賞作品は知り合いにチケットを確保してもらったケン・ローチ監督の新作だ。
カンヌ国際映画祭2019のコンペ出品作でもある。
12月に日本公開も決まっている作品だ。
TBS ラジオ たまむすび 町山智浩のアメリカ流れ者コーナーにて紹介されていて、大枠は頭に入れていった。

スクリーン番号のハングルの意味がわからず、スタッフに聞いたり迷った末、ギリギリに入場。


見た感じ、客層は半分くらい若い女性ということに衝撃を受ける(労働者を描く巨匠ケン・ローチだよ?楽しい映画じゃないよ?)

映画祭とは言え、日本ならシニアがメインの客層に想定される映画にこんなにも韓国の若者が、しかも友達同士で来てる人が多い。韓国すげぇ。未来あるな~。

で、映画の内容は
いやもう配送業と労働者は限界なんだよ!
『わたしは、ダニエル・ブレイク』にも通じる、息もできない
労働者の尊厳と悲惨な現実を題材にした作品だ。

現代のイギリスの地方の町(北部?)。
4人の家族の日常。
介護ヘルパーの仕事をする母アビー、仲間と壁スプレーアートに夢中 半グレ兄セブ(中学生?)、昼ごはんコーンフレークでも贅沢言わない聡明な妹ライザ(小学生)、配送業に転職したての父親←この転職先が家族の大問題へと発展する。

決してお金持ちではないが、子どもを二人育てる為に共働きしている、どこにでもいる家族。

前職で揉めたかなんだかした父が、郵便配達の会社に就職するところから物語は始まる。
とにかく仕事が決まってよかった、これでなんとかなる、頑張ろう。
まだ序盤では、お金はなくても家族で食事するシーンが微笑ましく、「大人になったら食べられる」辛いカレーの話なんかで談笑している。

そして父の就職先の悲惨な現状が徐々に明らかになる。

日本で言う佐川急便やヤマト運輸のような正社員を雇う会社ではなく、会社が個人と契約し、車は個人持ちのリース、給料はほぼ出来高制のいわゆるブラック企業。

最初に渡されるのは空のペットボトル。

「配送中はトイレなんて行く時間ないから、この中にpeeしろ」と上司。
そしてこのペットボトルが悲しい伏線にもなっている。。

運転も含め基本ワンオペの為、配送中に駐禁きられたり、客に遅いだの罵られたり、庭で犬に噛まれたり、お客様トラブルが絶えない現場。
何軒か回る姿が淡々と語られる。
3軒目の配送先で受取人と罵り合いになってたが、場内は笑いの渦に。
英語がちゃんと理解できれば笑えただろう(多分イギリスだからサッカーネタ?)ようやくホッとした。
→答え合わせしたところ、マンUとユベントスの小競り合いだった。笑 ユニフォーム見れば分かった。
このあたりは巨匠のユーモアが感じられる。

並行して挿入されるのは、母アビーの仕事の場面。
独り身の老人の介護ヘルプを掛け持ちしており、休憩時間や帰宅後にプライベートの携帯に電話がかかって来たりして「私しか頼りがないから」と、引き返したりもする。

また、とにかく大人を騙してまで不良仲間とスプレーアートに熱中する兄セブの姿も描かれる。まぁ中学生ならではの大人をなめる反抗期だ。

この映画、リッキーがブラックな仕事に慣れれば慣れるほど、次第に気持ちに余裕がなくなり、家族が崩壊していく。

見かねた妹が、休みの日にお父ちゃんの激務を手伝い、
休憩中に「いつもありがとう」というシーン
夕焼けに照らされる横顔の美しさに自然と涙が出てくる。

そして状況は更に悪化し、兄が補導され、家族会議で口論になった後、
プチ家出。
父の(リース?の)社用車の鍵がなくなる事件が発生する。
一時帰宅した兄を父が勘違いして口論の末「お前が鍵とったんだろう!」とぶん殴り、兄が出て行く。。
その夜、父、母、妹3人で話していると、突然泣きながら「私が鍵を隠したの。仕事が無くなれば、楽しかった日々が戻ってくると思って」と妹が言うシーンは劇場内からすすり泣きがたくさん聞こえた。

それでも父は仕事に行き、配送中に不良に路上でボコボコにされ、積み荷を略奪され、ペットボトルに入った自分のpeeをかけられる。
病院で淡々と積み荷の罰則の説明をする職場の上司に付き添った母が電話でブチ切れる。
兄も戻って来て、普通の映画なら「一件落着、また新しい仕事探そうよ」とハッピーエンドになるところ、さすがケン・ローチ 一筋縄にはいかない。

ラストは衝撃的で、家族の制止を振り切って、ボコボコにされた車で泣きながら出勤するプッツンきてしまった父の姿は、もはやワーカホリックを通り越している。
「全然、家族想ってねーじゃん!」

もう現実が悲惨過ぎて「想う」余裕もない、ただの働くロボットになってしまっていた。

ラジオで町山さんは最後に
「こういう映画なんだから邦題、配給会社はもっと考えた方がいいですよ」
と言っていた。

確かに、宣伝展開的にお涙頂戴の感動作(いや実際悲惨すぎて泣けるんだけど)を装った方がいいにせよ、
「受取人不在時に配送業者がドアに貼るメッセージ、ご不在でした票」を『家族を想うとき』にするのは違和感がある。

ちなみに、エンドロールでKodakのロゴが出たので多分フィルム撮影。派手な照明はなく、自然光を利用している為、日常感があった。

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