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「微笑みの国」の優しさに包まれて
2025年2月。暑季に向けて日差しがじりじりと強まるバンコクの空の下、私はベビーカーを押しながら、いつものスーパーへと向かう。
タイに住んで5年半。昨年6月にバンコクで息子を出産してから、はや8か月が経った。
初めての子育ては、戸惑いの連続だった。「この国でちゃんと育てていけるだろうか」と不安になったこともある。
けれど、そんな日々のなかで、タイ社会の寛容さやタイの人の優しさに、何度も救われてきた。
「タイは子どもに優しい国」と耳にしていたが、それは想像をはるかに超えていた。
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タイの人は驚くほど子ども好きだ。息子が生まれてから、見知らぬ人に話しかけられるのが日常になった。
行きつけのスーパーに行くと、店員さんたちが一斉に「〇〇ー!(息子の名前)」と呼びかけてくる。レジの奥からも、遠くの品出しコーナーからも、次々にベビーカーのもとに集まってくる。
まるでアイドルのようにもてはやされる姿に、なんだか私まで誇らしくなってしまう。
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アパートのロビーに戻れば、スタッフさんたちが「今日はどこに行ってきたの?」「これからお昼寝?」と気にかけてくれる。息子も彼らの顔を見ると、嬉しそうに手を伸ばす。毎日さりげなく成長を見守ってくれる人がいることがありがたい。
近所でよくすれ違うタクシー運転手や、フルーツ屋台のおっちゃんも、「ベビーは元気かい?」と気さくに声をかけてくれる。
エレベーターで一緒になったおばちゃんが「いないいないばあ!」と全力であやしてくれるし、セブンイレブンのお姉さんはレジから身を乗り出して手を振ってくれるし、カフェでは隣の席の人が「かわいいねぇ~」と話しかけてくれる。
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ベビーカーでスロープを通るときや階段を上るとき、電車に乗るとき、誰かが自然と手を差し伸べてくれる。レストランで息子がぐずったら、店員さんが「おぉ~、どちたどちた」とあやしてくれるので、私は安心して温かい食事を楽しめる。
子どもを連れていても、肩身の狭い思いをすることはほとんどない。むしろ、子どもの存在が社会全体に受け入れられ、喜ばれているように感じる。
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この優しさの背景には、タイの文化や価値観があるのかもしれない。
タイは昔から大家族文化が根強く、親だけでなく祖父母や親戚、ご近所さんまでもが子供の面倒を見るのが一般的だと聞く。核家族化が進んだ現代も、「子どもは社会全体で見守る」という意識が残っているのだろう。
また、タイは仏教国であり、「徳を積むこと」が重んじられる社会だ。子どもに優しくすることも、善い行いのひとつとして自然に受け入れられているのかもしれない。
ここでは、子どもは「みんなで大切に育み、見守るべき存在」として尊重され、愛されている。
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息子がこんなにも多くの笑顔に囲まれて育っていることに、心から感謝している。ワンオペ育児をしているのに、孤独を感じることがないのは、この国の寛容さや温かさのおかげだ。
いずれ日本に帰る日がくる。けれど、タイで受け取ったこの優しさを、今度は私が誰かに返せる人でありたい。そして、息子がもう少し大きくなったら、「あなたがどれだけこの国で愛され、どれだけ大勢の人に育ててもらったのか」を伝えたいと思う。
今日も息子は、「微笑みの国」ですくすくと成長している。